料理人こうやの記録

和食の料理人。プチ野菜ソムリエ。
料理、生産者の現場、スーパーカブ、その他日常の記録。

発作

2010年02月17日 00時46分14秒 | ☆Family☆

今朝、踏切事故により、途中から代行バスに乗った。

 

バスに乗り換えの乗客で駅はごった返していて、

西武鉄道の駅員も混乱していた。

 

すぐに店に電話して、遅れることを伝えた。

 

傘をさすこともできず、小雨に打たれながらバスを待ち、

ようやく来たバスに乗ると、運よく一番奥のシートが空いていて、

座ることが出来た。

 

ギュウギュウ詰めのバスで座っていることに

なんとなく申し訳ない気持ちになりながら、

しばらく揺られていると、少し気持ちが悪くなってきた。

 

30分くらいか乗り、目的の駅に着きバスを降りると、

急に動悸が始まり、そわそわし始め

体のゆすりが始まり、強い不安感に襲われた。

 

とりあえず、店に電話して、駅に着いたことを伝える。

 

店側も理解しているし、普段なら何も不安なことでは

ないのに、どうしようもなく不安で、腰がくだけ、

まるで、マンションの屋上のへりに

立っているような感覚だ。

 

ちょっとした動作が怖くてたまらない。

 

店に走るように歩いてむかい、

すぐに白衣に着替えて厨房に入ると、

料理長がある程度準備を整えてくれていて、

段取りはすぐに組める状態だった。

 

おはよう!あとこれとこれやるだけだからと

優しく声かけてくれた。

 

にも関わらず、ぶっとんだ状態はおさまらない。

 

とりあえず、冷蔵庫からタッパを出し入れすることら

ままならない。

 

必死に手を押さえたり、顔を洗ったり、

お守りを握り締めたりしてもだめで、

呼吸を整えようと水に顔を突っ込んでおいてもだめ。

 

深呼吸なんかじゃおさまらず、

そのまま営業に入る。

 

どうやら、店長と料理長がぼくの異常を察したらしく、

いろいろと気配りをしてくれていた。

 

何も言わずに配慮してくださっていることを感じて、

心からありがたい気持ちでいっぱいになりながら、

何とか何とかランチを終え、休憩に入る。

 

休憩に入っても腰砕けた状態はおさまらず、

みんなのいる部屋から出て、一人耳をふさいで

呼吸を整えることに集中したが、

しばらくしても落ち着かないので、

みんなの所に行って、雑談するが、

今度は笑いが止まらない。

 

わけもなく関係ないところで笑ったり、

ゆすりもとまらないし、

すごく寒い感じがして、ダウンを着ていすに

ちぢこまるように正座していたが、

持っているものも手につかず落としてばかりいたので、

店長が、落ち着かないみたいだから、

床に座っていたら

と言ってくださったので、一人床から会話。

 

料理長が、

でも帰さないからな

と言う。

 

これは、本当に優しい言葉だ。

 

料理長はとても率直にものを言う人で、

いらないやつには、じゃあ帰れという。

 

だから、このせりふは厳しくもあるが、

こんな状態のお前でも見捨てないぞという

気持ちが感じられて、

嬉しかった。

 

休憩明けのちょっとした隙に、

昨日は何をしていたの?と料理長に

聞かれた。

 

病院に支払いに行って、アフラック行ってとか

話して、子供と風呂に入りました。

と言うと、料理長は嬉しそうに、

それは良かったじゃない、それがいいんだよ。

と返した。

 

リーゼントで目つきが悪くて、

一世代前の料理人の定番の、セカバンを持って

タバコを耳に挟んで歩く料理長だが、

本当に優しい。

 

以前、料理長の家族が店に食事に来たのだが、

帰りに、家族に、

気をつけて帰るんだよ。

 

そこの道路渡るとき気をつけるんだよと声を

かけていたことを今も思い出す。

 

気をつけて帰るんだよまでは普通に出る言葉だが、

家族が店を出て道路を渡るところまで、

仕事をしながらも、気をかけられるのは、

ぼくには出来ないと思った。

 

今日は大切なことを教わった。

 

昨日僕が休んでいる間に料理長がしこんでくれていた

煮物を出したときのこと。

 

料理長*俺がこれ全部仕込んでおいたからよ。

こうや*ありがとうございます。

料理長*どうせ仕込んであって当たり前だと思ってるんだろ。

こうや*とんでもないです。ほんとありがとうございます。

料理長*人が炊いたものはとくに大切に扱うんだよ。

俺はね、吉兆とか灘万とか有名な所どころか、

都内で働いたこともない、田舎の割烹屋しか

勤めたことないけど、そういう心というものは

よく教えられてきたからよ。

 

今日はどうしようもない苦しさと、

大きな優しさを体の芯にまで響きました。

 

料理は心。

 

この言葉は何度も耳にして、

自分も下の子たちに話して来ましたが、

まだまだまだまだ心が足りないことに

気づかされ、またぼくの伸びしろが高くなりました。

 

家に着き、嫁さんが、温めるだけに

用意してくれていた夜ご飯を、

いまだおさまらない不安のなか、

立ちすくみながら恐る恐る、ぎこちなくレンジでチンして、

食べながら、これを書きました。