再入院の前日は、コロナのPCR検査を受けなければならない。東大病院へは、近頃都バスを利用し、池之端門から入る。歩きだと地下鉄湯島駅から竜岡門までの半分ほど短縮できる。
で、目的の一つ前のバス停のこと。客を降ろし、出発しようとした瞬間、自転車のウーバーが突然、バスの前に飛びでてきた。急停止したのでバスは上下に激しく揺れて止まった。自転車は颯爽と走り去った。
後ろの方でドスンと大きな物音。すかさず運転手さんが「大丈夫ですか」と声をかける。返事がない。ほぼ満員だったが出口近くで初老の女性が倒れている。それから、周囲の方が助け起こしたのか、運転手の大丈夫ですかの連続の声かけに、その女性は仕方なく「大丈夫です」と肩をさすりながら答えていた。
バスは出発したが、彼女はたぶん大丈夫ではなかった。運転手は席を離れて、乗客の安否を確認する義務があったといえる。次の降車駅が終点なので、しかるべき処置が為されたであろうと、今は願っている。
気力充分の時だったら、「大丈夫じゃないみたいだ」ぐらいのことは言ったと思うが、何事も気後れしている自分がいる。情けない、らしくない。
🔺池之端門は一方通行で、クルマは外からは入れない。車両進入禁止の数よ!
また、関係ない話から始めやがったなと思うかたも多いだろう。しかし、こうした日常茶飯の事故も、癌に罹患することも、それほど変わりない運命的な出来事だと思うのだ。いや、癌は生死を左右するたいへん重い病だと反論する向きもあろうが、日本人ほど癌を避けて向き合わない、知ろうとしない国民はいないという。
実際にも、ヘルスリテラシーという国際調査があり、医者からの説明を聞いて難しく感じるか、理解度はどうか、さらに病気や治療に関する情報の検索を自力で出来るかなど、50点満点のテストを実施したところ、トップはオランダの37.1点。アジアでは、保健体育に力を入れている台湾が34.4点で最高、日本はというとベトナムやミャンマーよりも低い25.3点、なんと最下位だった(出典/『がんの時代』東大病院放射線科准教授 中川恵一著 海竜社)。
これらの事実を踏まえて、中川先生はこう解説する。
ヘルスリテラシーが低い人ほど病気や治療の知識が少なく、がん検診や予防接種などを利用せず、病気の症状に気付きにくいので死亡率も高いことが分かっています。この調査結果は見過ごせません。
中学、高校では保健体育という科目があり、病気予防や健康リスクに関して体系的に学ぶことになっているが、性教育が断片的に行われるだけでお座なりの教育だ。ある学校では10年間も体育だけの実技授業が行われていて、大問題になったこともあった。
そうした現状があって、癌の原因、治療も糖尿病など生活習慣病の一つとして保健体育の授業に組み込まれた。確かに小生も含め癌に関しては間違った知識、思い込みで頭が支配されていたと、今になっては思うことしきりだ。
我が家系には、脳卒中をはじめ循環器系の病で亡くなった者がほとんど。癌で死ぬことは絶対にないだろうと思い込んでいた。煙草を止めたのは、ほかの理由からだったし、万が一癌になったとしても、遺伝が原因の癌罹患は5%だ。家系を洗いざらい調べ直して、癌の死亡者が見つかったとしても諦めがつくと勝手な馬鹿理屈を考えていたのだ。
今回、東大病院の呼吸器科の医師から、35年程も喫煙していたのが最も根本的が原因ですね、と言い含められた。断腸の思い(笑)で、禁煙したのは何だったんだ。
これまで癌に関する本を読んだこともなかったのは、癌なんて小生とは全く関係ない、それが理由で読もうとも思わなかったのだ。たまに読んでみようと思ったことがおきても、ネットの検索でお茶を濁す程度であった。
ちなみに、癌をネット検索して知識、情報を得ようとしても、その上位ランクの6割ほどが正しくない、偏向が強い、広告への誘導記事であるという。参考にしたいものは40位以降に出てくると、中川恵一氏の本に書いてあった。
このあたりで筆を置きたい。本来は、再入院から書き始める予定だったのだが。目標が定まらない、場当たりで生きている人間の性であると笑っていただきたい。
🔺東大病院の放射線科の先生であり、薫陶をうけたという養老孟司先生の対談があった。それが購入の大きなきっかけとなった。(2018年刊行 海竜社)