これで最後にしたい「NEM(ネム)」については・・。生々しいことは書きたくないのだが、これを超えないと仮想通貨と実在通貨の違いが見えてこない。
NEMをひも解いてみても、そこに深遠なる意味はない。『New Economy Movement(新たな経済運動)』という漠然としたネーミングの頭文字を採っただけのもの。2015年3月31日「 NEM財団 」はシンガポールに設立され、その後、中国の深センに移転した。
▲このロゴマークに心あたりはありませんか?
その目的をザックリいえば、分散型ネットワーク技術である「 ブロックチェーン 」を普及させるためだそうな。創立に携わった人たちには、中国系の名前が多く、欧米人もちらほら、また「浅山隆雄」(※)という日本人一名も理事として名を連ねている。ちなみに、仮想通貨に関わる組織の起ち上げとしては後発に属する。
創立と同時に「仮想通貨XEM(ゼム)」を発行。「上限数を約90億枚として、これをおよそ1,600人に均等に分配した」とあり、当初からビットコインのようにマイニング(採掘)する必要のないブロックチェーン仕様である。
この理念を実現するための「財団」(日本では非営利法人の名称)という体裁をとりながら、1,600人の投資家(アクター)に1人当たり約560万枚のXEMを配布。将来の価格アップが期待され、魅力あふれる投資対象の仮想通貨として配分されたというわけだ。
2015年当初、1XEMあたり0.1円として仮に設定すれば、1人あたま56万円ほどの出資金を募ったと看做してもいい。もちろんこの場合、トータルの時価総額を云々するよりも、1600人の人的ネットワークそのものに資産価値があるとすべきである。
なぜなら、1600人が投資アクターとしてXEMを語り、その知名度を上げ、流通価値を生むことがNEM駆動のスキームだからだ。
交換可能な通貨としての使用価値、信用性を付与し増大させる、まさに仮想通貨の勘所はここにかかっている。プロジェクトそのものが座礁しても、XEMがもしも市場に出回らなくとも、実質的損害は最小限度で済む。
実際には、XEMは発行されて1年以内に売買されるようになった。2017年1月には1XEMあたり0.5円台だったが、今年のはじめのピーク時には200円に急上昇。つまり1年で400倍になった。(本家のビットコインは、当初の価値から20億倍にもなったが・・。)
▲去年の暮れから今年1月にかけて、XEMはじめほとんどの仮想通貨は同様の急上昇のチャートを見せた。
ともあれ、私が想像するに、賢明なる初期のNEM投資家は51%手元におき、49%を家族・友人、知人たちに分配。部下や知人には、有利な投資だからといって幾許かの金額を出資してもらったはずだ。
(将来XEMが値上がりすることを想定した最適な配分ではこうなる。市場価値が高くなったら売って利益を確定し、安くなったら買い戻す。有価証券も仮想通貨も原理は同じだろう)。
NEM(ネム)財団はその後、仮想通貨XEMが注目を浴び、取引所で売買されるように国際的なマーケティングを展開したと思われる。詳しいことは知らないが、たぶん間違いない。
去年の12月から今年1月にかけて、仮想通貨のすべてがヒートアップ。ビットコインなどで利ザヤを稼ぎ、リスク回避の目的で他の仮想通貨に投資した人も多くいたと思われる。「億り人」なる言葉が噂になるほど、仮想通貨がブームになった。例のNEM流出事件のコインチェック社が、「やばいよ、やばいよ」という芸人を採用したTVコマーシャルを打ちだした。NEM(XEM)は学生や若い主婦層にも人気銘柄として買われたという。
そして、今年1月末、不正アクセスによるNEM流出事件が起きた。それ以降すべての仮想通貨が急落した。
投資家のみなさんがこの時、どんな行動をとったのか知らない。売値、買値の差を気にしてて、様子を見ていただけの人は、こうしたトレードから早めに手を引いた方がいい。この時点で「利益」を確定しなかったとしたら、確定申告する今、納税額を自分で計算できたであろうか。多くの銘柄の仮想通貨を取引した人は、さぞかし大変なことになったであろう。
(関連サイトを見たら「億り人」や「成金」向けの課税対策、或はシンガポール、フィリピン等への海外脱出のためのセミナー開催の広告が目立っていた。)
金融経済においてたぶん桁外れの金余り現象がおきている・・。株や金融商品などの投資では、もはや余剰マネーは吸収できない。金が金を産んで、資産家や大企業以外にも、余剰資金が投資先を求めて彷徨っている。
その一部が、ネットのクラウディング・マネー「仮想通貨」に手を付けはじめたのだ。プロの大口投資家はバブルを創りだして大衆を動かす。利に目ざといアーリーアダプターは、運よく「億り人」になるが1%もいまい。大口の仕掛け人は、利益を確保したらさっと引く。
「ブロック・チェーン」というIT技術は要するに、ネットのもつ脆弱性を克服する画期的なものだった。不正なアクセスがあっても、仮に暗号が書き換えられても、なんら支障なく半永久的に使用できるブロック・ファイルとして独立している。理想論をいえば、ネット上の通貨だろうが、暗号書類とか個人的機密データだろうが、ハッカーに(個人・集団でも)不正アクセスを諦めさせる心理的防御システムだといえる。
IT上の言わば「仮想の金融空間」において、はじめて「信用性」を付与したのが「ブロック・チェーン」といえるかもしれない。
私は当初、ビットコインの特長である「ブロック・チェーン」に、ある光明を見出していた。グローバリズムが浸透し、ITの個人モバイル化も進化するなか、通貨・貨幣もそれに対応して、もはや「金属鋳造・紙印刷」からの実質的な離脱をはかる・・。
手数料や為替差益の影響から免れる「仮想通貨」の存在は、やむなく家族のため海外で働く人々のために、その簡便性や担保力を認めてもいいと思っていた。
しかし、その考えは甘かった。余りある資産をもつ者、常に投資先をさがす者、バブルをつくって投機したい者、「仮想通貨」はそうした欲望にまみれた人々の格好のターゲットになる「運命」を背負っている。
「仮想通貨」は、私の「小さな正義」というか、根拠のない希望をこめて、殲滅させても構わない。
▲ZAIFのCEOはじめ様々な顔をもつ朝山貴生氏。
追記:文中に仮想通貨取引所と記されているが、「仮想通貨交換業者」に訂正。「2017年4月施行の改正資金決済法では、この名称が表記されている」と、東京新聞での解説記事で読んだ。2月11日記