前略、リクエストにお応えいたしまして
娘がひでおの家に、訪れてから、二日目の夜。
『見てはいけませぬ』と娘に言われれば、言われるほど、ひでおは襖の向こう側を
見たくてたまらなくなりました。
機織りの音は聞こえておりました。
ひでおは、直接見てしまえば、目を壊すと言った、娘の言葉を思い出しました。
『そうか~オラは眼鏡かけとるけん、直接は見たことにならんのじゃ~
眼鏡かけて、ちょっと覗いてみてみようや…』
※ひでおは 時々 頭がパッパラパーに?なります。
ひでおは、眼鏡をつけ、襖に手をかけようとしたその時、
機織りの音が、止まりました。
襖が突然 開きました。
少し痩せた、娘がひでおの前に、立ちました。
ひでおは、娘の右足に傷を見つけました。『足、怪我しとんこ…?』
ひでおの問い掛けに、季紫は、細い声で答えました。
「今…貴方様は、この襖を開けようとしましたね…この前の約束を忘れたので、ございますか…
わたくしは、明日の朝には、ここをおいとま、いたしますのに…」
『おいとまって、言うても、西口のしらは、まだもんてこんぞよ~
あのしらは、いつもどるか、わからん~おおかた、しもへ、いとるきんの~』
『それと、その足の傷には、今おらが、ええ薬もっとるわ~!
ハメの焼酎付け、つけちゃるわ~!』
季紫は、戸惑っておりました。
……
……
ひでおの言葉が、何語なのか…わかりません。
ひでおは、ハメの焼酎付けを、季紫の足に付けてあげました。
傷口は 浅いものでしたが、みるみるうちに、きれいな肌の色が、戻ってきました。
『これは、祖谷では医者倒しって言うての、これつけとったら、何の傷でも治るんぞ~
それより、西口のしらが、戻らんかったら、どうするんぞ~!
オラは何日 おってくれても ええぞよ~』
季紫は、細い声で、答えました。
答えながら、涙を流しました。
『わたくしは、あの夜貴方様に助けて頂いた、キジの鳥でございます。
天空の神様にお願い申し上げ、三日間だけ人間の姿にして頂いたので…ございます……』
ひでおは 小さな目を丸くして、驚きました。そして、眼鏡をかけ直し、尋ねました。
「なんか、信じれんような話しじゃけど、ずっと、人間には、なれんのかえ?
オラはずっと、季紫さんと住んでおりたいぞよ。機織りやせんで、ええぞ!
おってくれたらそれだで、ええわ~!」
ひでおは、真剣に話しました。
季紫は、答えました。
『ひとつだけ方法が、ございます。貴方様が、1番大切にしているものを
全て燃やしてしまうのです。そうすれば、わたくしは、人間の姿を借りて
貴方様とここで、暮らしていけます。貴方様の1番大切にされているものは
何でございますか?
貴方様の机の上の、てんご新聞の紙でございましようか?
バドミントンとか言う、棒と網の道具でしょうか?
赤い旗で、ございましようか?
何かを写す、四角い箱のような、ものでしようか?
貴方様の宝物を、燃やして頂ければ、わたくしは、反物はできませぬが
ただの人間の姿になれるのでございます。明日の朝までお考え下さいませ』
……
……
ひでおは 一晩中 考えました。眠らないまま、朝を迎えました。
あのような、美しい、可憐な娘など、しもの町にも おりません。
その美しい娘と、夫婦になれるなど、夢のような話しです。
朝
囲炉裏の前で 火を焚きながら ひでおは言いました。
季紫は、昨夜のうちに、深紅の反物を、織っておりました。
『季紫さん…オラは生まれて初めて…悩んだ。生まれて初めて…
寝れんかった…季紫さんと一緒におりたい…』
「わたくしは、人間になれるんですね!ここで!」
『季紫さん、聞いてくれえ~オラは宝物、燃やすことは、出来んのじゃ~
オラの宝物は オラの大事なものは
… … …
この祖谷山全部なんじゃ~!
この祖谷山燃やしてしまうのは、自分が死ぬことより、恐ろしい…
祖谷山は オラの全てなんじゃ~!
季紫さん 許してくれえ~!』
「わかっておりました…わたくしは、貴方様のお気持ちは、最初から、わかっておりました。
だから夕べは、お別れに1番見事な反物を、織ったのでございます。
わたくしは、キジに戻ります。貴方様にお会い出来て、季紫は、幸せでございました」
娘は 立ち込めた、朝霧の中
消えるように、去って行きました
ひでおは 深紅の反物を、抱えたまま
いつまでも 一人 立ち尽くしていました。
涙が 頬を 伝っておりました。
それから、数ヶ月が経ったある日
ひでおは 家の庭に大きな、網で出来た、小屋を立てていた
小屋の中には、足に小さな傷のある、一羽のキジが 飼われていた。
ひでおは その後の人生を
一羽のキジと…いつまでも仲良く 暮らしたとさ…
おしまい
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娘がひでおの家に、訪れてから、二日目の夜。
『見てはいけませぬ』と娘に言われれば、言われるほど、ひでおは襖の向こう側を
見たくてたまらなくなりました。
機織りの音は聞こえておりました。
ひでおは、直接見てしまえば、目を壊すと言った、娘の言葉を思い出しました。
『そうか~オラは眼鏡かけとるけん、直接は見たことにならんのじゃ~
眼鏡かけて、ちょっと覗いてみてみようや…』
※ひでおは 時々 頭がパッパラパーに?なります。
ひでおは、眼鏡をつけ、襖に手をかけようとしたその時、
機織りの音が、止まりました。
襖が突然 開きました。
少し痩せた、娘がひでおの前に、立ちました。
ひでおは、娘の右足に傷を見つけました。『足、怪我しとんこ…?』
ひでおの問い掛けに、季紫は、細い声で答えました。
「今…貴方様は、この襖を開けようとしましたね…この前の約束を忘れたので、ございますか…
わたくしは、明日の朝には、ここをおいとま、いたしますのに…」
『おいとまって、言うても、西口のしらは、まだもんてこんぞよ~
あのしらは、いつもどるか、わからん~おおかた、しもへ、いとるきんの~』
『それと、その足の傷には、今おらが、ええ薬もっとるわ~!
ハメの焼酎付け、つけちゃるわ~!』
季紫は、戸惑っておりました。
……
……
ひでおの言葉が、何語なのか…わかりません。
ひでおは、ハメの焼酎付けを、季紫の足に付けてあげました。
傷口は 浅いものでしたが、みるみるうちに、きれいな肌の色が、戻ってきました。
『これは、祖谷では医者倒しって言うての、これつけとったら、何の傷でも治るんぞ~
それより、西口のしらが、戻らんかったら、どうするんぞ~!
オラは何日 おってくれても ええぞよ~』
季紫は、細い声で、答えました。
答えながら、涙を流しました。
『わたくしは、あの夜貴方様に助けて頂いた、キジの鳥でございます。
天空の神様にお願い申し上げ、三日間だけ人間の姿にして頂いたので…ございます……』
ひでおは 小さな目を丸くして、驚きました。そして、眼鏡をかけ直し、尋ねました。
「なんか、信じれんような話しじゃけど、ずっと、人間には、なれんのかえ?
オラはずっと、季紫さんと住んでおりたいぞよ。機織りやせんで、ええぞ!
おってくれたらそれだで、ええわ~!」
ひでおは、真剣に話しました。
季紫は、答えました。
『ひとつだけ方法が、ございます。貴方様が、1番大切にしているものを
全て燃やしてしまうのです。そうすれば、わたくしは、人間の姿を借りて
貴方様とここで、暮らしていけます。貴方様の1番大切にされているものは
何でございますか?
貴方様の机の上の、てんご新聞の紙でございましようか?
バドミントンとか言う、棒と網の道具でしょうか?
赤い旗で、ございましようか?
何かを写す、四角い箱のような、ものでしようか?
貴方様の宝物を、燃やして頂ければ、わたくしは、反物はできませぬが
ただの人間の姿になれるのでございます。明日の朝までお考え下さいませ』
……
……
ひでおは 一晩中 考えました。眠らないまま、朝を迎えました。
あのような、美しい、可憐な娘など、しもの町にも おりません。
その美しい娘と、夫婦になれるなど、夢のような話しです。
朝
囲炉裏の前で 火を焚きながら ひでおは言いました。
季紫は、昨夜のうちに、深紅の反物を、織っておりました。
『季紫さん…オラは生まれて初めて…悩んだ。生まれて初めて…
寝れんかった…季紫さんと一緒におりたい…』
「わたくしは、人間になれるんですね!ここで!」
『季紫さん、聞いてくれえ~オラは宝物、燃やすことは、出来んのじゃ~
オラの宝物は オラの大事なものは
… … …
この祖谷山全部なんじゃ~!
この祖谷山燃やしてしまうのは、自分が死ぬことより、恐ろしい…
祖谷山は オラの全てなんじゃ~!
季紫さん 許してくれえ~!』
「わかっておりました…わたくしは、貴方様のお気持ちは、最初から、わかっておりました。
だから夕べは、お別れに1番見事な反物を、織ったのでございます。
わたくしは、キジに戻ります。貴方様にお会い出来て、季紫は、幸せでございました」
娘は 立ち込めた、朝霧の中
消えるように、去って行きました
ひでおは 深紅の反物を、抱えたまま
いつまでも 一人 立ち尽くしていました。
涙が 頬を 伝っておりました。
それから、数ヶ月が経ったある日
ひでおは 家の庭に大きな、網で出来た、小屋を立てていた
小屋の中には、足に小さな傷のある、一羽のキジが 飼われていた。
ひでおは その後の人生を
一羽のキジと…いつまでも仲良く 暮らしたとさ…
おしまい
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