大寒を過ぎていよいよ厳しい寒風が荒び凍てつく空気がキーンと張り詰めて
身体を吹きめけて天空へと舞い上がる心地こそする奥祖谷に寒月は煌々と冷徹に
祖谷の白き高嶺を喰らい尽すがごときに寂莫として渡り行く様は美しい
深雪に閉ざされ、凍てつく寒風が荒ぶ集落の家々はほとんど人が居ないかのように
静まり返ってそのなかに廃家が点在しているものの如何にも廃家がすべてかと
疑いたくなり、ああ、ひと恋しく会話を楽しみたい衝動は抑えがたいものであるが
そのような風景のなか林道を上へ上へと人影を求めアイスバーンと化した道を
白い息を弾ませて家々を覗いているうちに人影を見つけるものなら小躍りする我を
見るのもうれしいかぎりである
嶺に落つ火柱見しや雪起し
風花や老が手に入れ然と見ゆ
幼子や母の手に置く雪礫
氷紋の解けざることは山家かな
厳寒や机上の選句そのままに
寒月や病床にあり祖谷の宿
愚かにも病に臥せり寒雨かな
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