吉祥寺美術館 モジ もじ 文字 展
前哨戦のような展示を竹尾見本帳でみていた。
世の中の人の関心が、少しタイポグラフィに向いて来ているのかもしれない、と何となく感じている。商業印刷の世界だけでも、もう少し、ことばと文字の関係、タイポグラフィの歴史や背景を踏まえた上でのデザインが増えると、日本のグラフィックは必ずもっと美しくなる、と思う。街中に溢れる商業広告が美しくなれば、街の景色ももっと美しくなるだろう。もう少し知的に洗練されると思う。
モジ もじ 文字 展では、「嵯峨本プロジェクト」がどうしても見たかった。
「嵯峨本」
江戸初期に、京都で行われた出版事業。
角倉素庵が本阿弥光悦、俵屋宗達らとともに日本文学の古典を古活字(木活字)で印刷事業の総称およびのその出版物を「嵯峨本」という。京都の嵯峨に本拠地を置き行われたので「嵯峨本」と名付けられている。
本阿弥光悦の書(能書家として有名、その独特な書体は光悦体と呼ばれる)や俵屋宗達(琳派の画家、デザイナーとして活躍)による美麗な料紙や装丁
そして、古活字で組まれた出版物として、画期的なプロジェクトであり、日本の美しい本を代表するものである。(と、ここまでは私のつたない知識と見解)
以下は、印刷博物館HPより拝借
嵯峨本は、京都・嵯峨の地を舞台に刊行されたことからそう呼ばれています。行・草書体の漢字とひらがなよりなり、表紙・料紙・挿絵・装丁に美術的・工芸的意匠がこらされているほか、2字から4字をつなげて作った木活字により印刷されている点が特徴です。光悦らは、これらの活字を用いて、『伊勢物語』や『方丈記』などの古典文学書を中心に印刷、出版を行いました。ここに紹介する嵯峨本『徒然草』もその一つで、鎌倉時代に吉田兼好によって著された随筆の傑作が版本となっています。慶長中頃に刊行されました。 |
この、画期的な印刷プロジェクトを、現代に新しく再現しようとしているのが「嵯峨本プロジェクト」
嵯峨本は、いまではもうその版は残存せず、印刷物のみ現存している。
この現存している嵯峨本の古活字で組まれた組版を、デジタルフォントとして再現し組む、というもの。
デジタルフォントを用いて組版を再現したものから、古活字を彫り、組むという組版模型も展示されていた。(その摺はどうにかならないものだろうか、と思ったのだけれど)
嵯峨本の活字がデジタルフォントに!
それだけで、私は目の前がキラキラしてしまう。自分には手が届きそうも無いけれど
そういうことをやってみたい、と学生の頃考えたことがある。私が考えたのは、古活字の復刻と、現代フォントを使ってデジタル組版で「今」の嵯峨本を作りたい、というもので、さすがに古活字をそのままデジタルフォント化する、とは思うも寄らなかったのだけれど。
この「嵯峨本プロジェクト」で作られたフォントは、プロトタイプとして一般には後悔しないということだ。
展示会場でみた
文字組 → 連綿体に変換 → 異字に入れ替え
のようなことを組版システムとしてできるらしい。
この先、このプロジェクトがどう進んでいき、何を生み出すのか
ものすごく楽しみであり、必ずこのフォントを利用したいデザイナーからの実用フォント化の要望が出ると思っている。そして、このプロジェクトの作業そのものが、これから生み出される日本語フォントに、多いに影響を与えると思う。
「ことば」というツールなのか媒体なのか、が社会に於いてどういう意味を持つのか
自らに問いかけている人が増えているように思う。話しことばと文字が、お互いにこれから日本語としてどう変化し何を生むのか、じっと見ている気がする。