「前半」では、大まかなあらすじと後半の入り口まで紹介しました。
殺人容疑の濡れ衣を掛けられたハラー弁護士ですが、彼を弁護する側も現役検事の元妻マギーに加え、今回は特別に”ハリー・ボッシュ”を味方につけ、非常に強力です。
弁護側は陪審員選定で何とか優位に立てたものの、サム・スケールズ殺害事件の黒幕ルイス・オリバジオを見失ってしまう。故に、”10月のサプライズ”では、検察側が最初にカードを切る。
夫を故殺し、服役中のリサ・トランメルが証言に立った。彼女は故殺以外のある殺人事件で、スケールズ同様にハラーの元依頼人だったのだ。検察側は、トランメルの証言を巧みに利用し、ハラーを追い詰めるが、彼女の供述は嘘であるが故の奇妙な説得力を備えていたのだ。
が結局、彼女の証言は、ハラー被告が”弁護料未払いの為にサムを殺害した”という論理と大差ない事が判事にバレてしまう。
最後の奇策とサプライズ
弁護側は、彼女の無罪評決を”無実の証明ではない”と主張した。が彼女は”私はボンデュラント殺していないし、殺したのはルイス・オリバジオ容疑者だが、黙秘権を行使したが為に起訴されずに済んだ”と発言した。
弁護側はトランメルがハラー氏に送った4通の(署名付きの)手紙の確認を彼女に申し出た。彼女は自身の署名を”偽造可能だ”と否定する。ハリー被告を弁護する元妻のマギーは彼女を破壊させる気でいた。
事実、トランメルが手紙を読み始めると、陪審員らの彼女の信用が次々と崩壊していくのが見て取れた。そしてその一部は、女検察官のバーグにも及んだ。
”デスロウ”と恐れられた女バーグは(被告に対する証拠を1つ1つ積み重ねたいという)欲に目が眩んだのを悟った。ドラッガー刑事とトランメルの証言が決定打になると信じ込んでたのだ。
しかし今や”10月のサプライズ”は”2月のヘマ”に変わった。但し、このトランメル絡みの失策がどれだけ陪審員に影響を与えたのかは不透明だった。
採決まで残り2日。
囚房の中で、ハラーは眠れぬ夜を過ごしていた。彼の依頼人のうち3人は囚房の壁を乗り越えた。ハラーは自分の可能性を信じれるだけの”2月のサプライズ”があった。いやその筈だった。
というのも、最後のサプライズの証人になる筈のオリバジオが何者かに殺された。つまり、彼が弁護側の召集を恐れ、逃げようとした所を仲間にまんまと裏切られたのだ。
スケールズ殺害の容疑者である筈だったオリバジオを失った弁護側は、一気に窮地に追い込まれる。更に、ハラーを逮捕したミルトン巡査の携帯電話記録を入手できたのは幸運だったが、検察側に反証証拠を与えただけであった。
5日目。弁護側は敢えてドラッカー刑事を証人に立てるという奇策を講じる。というのも、ハラーの自宅の車庫でスケールズが殺された時、ハラー自身が寝室で寝てた事(アリバイ)をドラッカーの曖昧な証言から何とか引き出す必要があったからだ。
ハラーは勝負に出た。殺害事件の本質であるスケールズとバイオグリーン(精油所)とオリバジオの関係について踏み込み、続いてスケールズの殺される直前の逮捕歴についてドラッカーを追い込んでいく。
だが、その記録は弁護側の開示ファイルにはないもので、検察側を大きく動揺させた。というのも、別の州にまたがる詐欺犯罪でFBIとLA市警の監視下にあった機密の逮捕記録だったのだ。
更に弁護側は、スケールズがFBIの情報提供者だった事を検察側に突きつけた。
こうして、窮地に追い込まれたかに思えた状況を、ハラーの奇策の逆転タイムリーで大きく挽回したのである。
真実の追求
一方、正式な記録ではないとして、判事や検察側の大きな反感を買ったFBIの機密記録だが、弁護側が用意した証人(ヴェンチュラ群刑事)の証言を認めるよう、判事に要求する。
怒り心頭のバーグは”記録はデタラメだ”と主張したが、判事に”この記録は真実の追求であり、陪審員に公表すべきで、元々検察が提出すべき証拠である”と釘を刺される。
それでもバーグは、弁護側が用意した”(ヴェンチュラ郡の)ローンツリー刑事の証言を認めるべきではない”と食い下がり、結局判事は、弁護側の開示ルール違反の公平な解決策として、弁護側が用意した証人の証言を認めない立場を取る。
結果として、2人の証人を失った弁護側だが、最後に残された生物学者のアート・シュルツの証言は”トロイの木馬”になる可能性を秘めていた。彼はスケールズの指の爪に残ってた油脂の分析結果を証言するのだが、検察側は事件とは関連性の低い証人と見るだろうが、弁護側は、仮説と立証を支えるポールの役割を彼の証言に期待していたのだ。
シュルツはバイオ燃料プログラムに関する環境保護庁(EPA)の規制取締役に長く就いていた。EPAは政府が中東からの原油依存を減らす目的で作られたが、取締りが必要だったのは政府の助成金をめぐる詐欺が頻繁に行われたからである。
こうした詐欺組織は毎週10万ドルを政府から巻き上げ、約2年間続いたが故に政府は約900万ドルを失った。やがてFBIの捜査が入り、その精油所は閉鎖され、数人が逮捕されたが主犯格は捕まらなかった。つまり、ベガスのマフィアは誰かを隠れ蓑にして、精油所を買収し、詐欺を繰り返していたのだ。
マフィアは政府を”獣”と呼び、いくら巻き上げても、その額には決して気付かないだろうと高を括っていた。
この話に痺れを切らした検察側は”その件がスケールズ殺害とどう関わるのか”に異論を唱える。
シュルツは、FBIが捜査を引き継いだ詐欺事件の詳細を語り始めた。そして、弁護側はその詐欺事件を担当した2名のFBI捜査官の名前を確認する。
オリバジオが死んだ今、2名の捜査官の存在だけが無罪を勝ち取る最後の望みにも思えた。そこで弁護側は先手を打ち、捜査官の1人であるドン・ルースを証人として出廷する様に判事に求めた。
つまり、召喚を無視する事に慣れてるFBIに、”判事から令状を出してほしい”と訴え、判事の覚悟を試したのだ。
ハラーは、2人の捜査官がヴェンチュラ郡の捜査チームから”サム・スケールズをさらっていった”と訴え、更に”陪審員は2人の証言を知る権利がある”とまで主張した。
”被告が公平な裁判を受ける為にはFBIの証言が必要です。判事のそれ以外の選択肢は控訴棄却です”と、マギーも続く。
内部情報提供者とFBI
度重なるバーグの異議を退けた判事は、本件とFBIの接点を説明するよう弁護側に求めた。
ハラーは”スケールズがFBIが捜査する一連の詐欺事件に関わってる”と主張した。
”その証拠は何処にあるの?”と判事。
”だからルース捜査官に出廷してもらう必要がある。彼女こそが内部情報提供者としてスケールズを詐欺組織に送り込んだ。が故に、殺されたのです”とハラー。
”これは第3者有責任事件であり、ルース捜査官の証言が必要になるのです”とマギーが続けて食らいつく。
”バイオグリーンとスケールズ殺害の関連性は何一つ証明されてはいない。ただの推測です”と検察のバーグは必死に反論する。
結局、判事はバーグの異議を尽く跳ね返し、”本件はマスコミに広く注目されており、もし彼女が令状に従わなければ、メディアは大騒ぎするでしょうから”として、ルース捜査官に令状を送る事を弁護側に約束する。
バーグは”最初から法廷は弁護側に偏りすぎている”と判事を非難したが、逆に”法廷は法に基づき、論拠的に正しく公平な裁定を下すので安心して下さい”と判事に説き伏せられる。
ここがチャンスとばかり、マギーはオリバジオが殺された事を判事に伝え、その疑問に答える為にも”ルース捜査官に証言してもらう必要がある”と訴えた。
一方で、弁護側が用意してた証人の殆どは検察側の執拗な証言により用を成さなくなってた。もし、ルース捜査官が令状に応じなければ、残る証人は被告のハラーだけという絶体絶命の状況に陥りつつあった。つまり、被告による力強い否認だけが頼りになってしまったのである。
最終弁論を前にし、ハラーとマギーの間には、重苦しい沈黙が支配していた。というのも、仮にルースを証人席につかせたとしても、消極的な証言しか得られない事は解りきっていたからだ。
ハラーは明日の最終弁論の打ち合わせを行った後、独房に帰る車の中に、何とルース捜査官がいきなり乗り込み、事の真相を打ち分けてきた。
意外な展開にハラーは慌てたが、話は簡単なようで複雑だった。つまり、スケールズは政府にもオリバジオにも詐欺を仕掛け、自前の給油会社をこっそりと立ち上げ、助成金の半分をピンハネしていたという。
それに気付いたオリバジオは、スケールズをバラし、捜査の手がバイオグリーンに伸びるのを阻止し、ハラーに仕返しするチャンスだと考えた。
しかしルースは、”証言するつもりはない”と突っぱね、”オリバジオは黒幕じゃないし、彼らの作戦に従ってただけで、貴方への身勝手な復讐がまずい結果となったから、連中から消されたの”と証言する。
只々混乱するハラーだったが、ルースは”貴方に被害が及ぶ前に連中を逮捕する筈だったの。ただ連中がスケールズを殺したのは知らなかった”と白状する。
ハラーは怒り心頭に”なぜロス市警か地方検事局に全てを話さなかったんだ”と叫ぶ。
”スケールズが貴方の車のトランクの中で見つかり、マスコミが大騒ぎしたから、それは出来なかった。この事件は最初から避けられない大失敗だったのよ”とルースが訴える。
ルースは去り、車は囚房へと向かった。事件の一部始終を理解したハラーは、気持ちが落ち着いたせいか、運転手に感謝の言葉を述べる。
最終弁論
最終弁論の当日、ハラーが向かったのは法廷がある裁判所ビルの9階ではなく、地区検事局がある18階だった。そこには、検事局長のJケリーや重大犯罪課のトップであるMスキャラン、更にFBI連邦捜査局長のWコルベットもいた。
いきなり、”こちらが用意した幾つかの合意に達すれば、告訴を取り下げる”とバーグの上司でもある検事局長が提案する。つまり、やり直し裁判のない"無罪を申し出た”のだ。
”今回の一連の事件は君が知らない遥か深い所に達している。我らはオリバジオだけでは終わらない進行中の捜査を抱えてる。だが一部でも明らかになれば、大きな事件の捜査の妨げになる。つまり、大きな事件の捜査が完了し、判決が出るまでは沈黙する事に同意してほしい”とFBI局長のコルベットは申し出た。
”そっちの言い分はそれだけか?私は4ヶ月もの間、検察側から殺人者呼ばわりされたんだぞ”と、ハラーの怒りは収まらない。
”我々はこの件を内密にしたいんだ。でないとFBIの捜査を守れない”と検察局長のケリー。
”それが殺人罪を無罪にする取引なのか?告訴は取り下げるが、私はその理由を言えないし、アンタらは自分が間違ってたと決して言わない”と、ハラーは食らいつく。
沈黙がその場を支配する。
”我々は判断を下すつもりはない。ただ君が表に出してはいけない重大な情報を持ってる事を知ってるだけだ”とケリー。
ハラーは、憔悴し不満タラタラのバーグの顔を見て、”私は一か八かで陪審員の判断に賭ける。FBIの陰謀と無実の罪で地方検事局に投獄されたかを、全世界に向けて明らかにする”と言い放ち、彼らの申し出を辞退する。
”君の望みは何なんだ?”とコルベットが尋ねる。
”私は<自分が無実である>事をアナタ方が法廷への申立の形で、次に公開法廷で判事に、そして最後に裁判所の記者会見の場で明確に言ってもらいたい。それが出来ないのなら、この話はない事にする”
ケリーはハラーの申し出を承諾した。
しかしハラーは更に”共同弁護人のマギーの検察官としての仕事と給与の補償と、そして今回の事を全て文書にしてほしい”と、要件を突きつける。
更に、”ミルトンが出発点となり何処かでオリバジオと繋がってる筈だ”として、ミルトン巡査の杜撰でインチキな逮捕劇を(ロス市警ではなく)検察側の公的監査課でもう一度再検証する事を要求した。
首を横に振るバーグを尻目にハラーは、”FBIがこの操作を最後までやり遂げた時、君とロス市警が何処で間違ったのかを悟るだろう”と言い放つ。
バーグは”ファックユー”と激し、同時に部屋を出ていった。
長い沈黙が降り、ハラーは最終弁論で用意してたビデオの提供をFBI側に申し出て、ルース捜査官の助言に対する恩返しをしたのだ。
1時間後、ハラーとバーグは9階の法廷の場で判事と陪審員を前にして立っていた。
バーグは渋々と慎重に言葉を選び、”被告の殺害容疑を晴らす機密性の新たな証拠が見つかった。検事局は再訴不能の告訴を取り下げ、ハラーの逮捕記録を抹消する”と語った。
判事は深刻な不正行為が行われた事を侘び、自由の身である事を約束した。
バーでの祝勝会でも、オリバジオの追求は続いた。
ボッシュは元殺人課の刑事らしく、”スケールズをきれいに始末するだけでよかった。オリバジオは個人的な恨みを持ち込むべきではなかった。奴はミスを犯し、自ら墓穴を掘った”と鋭い分析を得ていた。
”連中は我々の監視を利用し、オリバジオを見つけたのだろう”とハラーの分析も負けてはいない。
更に会話は、FBIのターゲット、つまり事件の黒幕は企業マフィアという事で一致した。
しかし、ハラーの”無罪”は証明されたものの、”無実”(潔白)である事が完全に証明された訳でもなかった。全てはFBIの捜査の結果次第である。
最後に〜無罪は潔白ではない
本のタイトルは”THE LAW OF INNOCENCE”だが、一般的にINNOCENCEには”潔白”(無実)と”無罪”という意味が混在する。
だが、評決上での”無罪”は”INNOCENCE”ではなく、”Not Guilty”である。更に、”Not Guilty”を厳密に言えば”有罪ではない”とすべきだろう。
つまり、無実と潔白は同じ意味だが、無罪とは大きく異なる。法的に無罪とは、被告人は罪を犯したが”十分な証拠がない”と裁判官が判断した場合で、無実とは”実際は罪を犯していない”潔白な事を意味する。
故に、無罪は証明できても潔白(無実)を証明する事は、非常に困難とされる。
裁判官は陪審員に対し、被告が”潔白か否か”を求めてはいない。即ち、”Guilty又はNot guilty”(有罪か有罪でないか)の判断が求められる。
つまり、有罪とするには、被告が有罪である事を検察側が、合理的な疑いが無い程度に証明する必要がある。これは、(無実の罪である)えん罪を防ぐ為で、”証明が尽くされた場合のみを有罪とする”というのが、法律の基本的な考え方である。
故に、検察官の証明が尽くされたか否か、こそが裁判の本質であり、裁判官や陪審員の重要な役割でもある。事実、アメリカの陪審裁判では”皆さんが判断するのは<Guilty or Not Guilty>です”と陪審員に説示されるという。
従って、有罪ではない事と無罪である事も当然違ってくる。有罪ではない事の証明と無罪である事の証明は、独立して考えるべきなのだ。つまり、”潔白か無罪か”(白か黒か)は極めて危険な考え方であり、”有罪か無罪か”は極めて不正確な判断でもある(中部経済新聞より)。
記憶に新しい、水原氏の違法賭博の件に関しても、大谷選手が違法賭博側へのお金の流れを知らなかった事が事実だとしても、その潔白を証明する事は困難を要するであろう。
それに、7年間ずっと一緒にかつ親身に接してながら、水原氏の賭博中毒に気付かなかった事を立証するのは、普通に考えれば不可能に近い。
もし私が「潔白の法則」を読んでなかったら、殆どの日本人同様に、大谷選手の潔白を心から信じていた筈だ。
”嘘つき”と何度も連呼した、大谷選手の”潔白の声明”は、単に水原氏に全ての責任を押し付けただけに終わった。
”全ては彼がやった事だ”では、潔白にはなり得ない。つまり、それを全て証明する必要がある。一方で、検察やFBIからすれば、この”潔白の声明”は単に余計であった。違法賭博側も”全ては水原がやった事で、嘘つきは彼の方だ”と雲隠れするだろう。
「潔白の法則」を読んだ時、正直理屈っぽく過ぎてあまり心には響かなかった。だが、これに近い事が起きた今、リンカーン弁護士の危機は日常に潜む、我らの危機でもある。
”大谷が何も知らなかったというシナリオはあり得ない”とか
”大谷サイドは初動で失敗した”
とかの声が報じられてます。
数カ月から数年の間に何百万ドルもの資金が口座から移動していることから
大谷や顧問側の目に留まらなかったとは信じられないとのことです。
米国では電子送金が違法な目的で利用されないよう管理が法的に義務付けられてます。
さらに1万ドル以上の電子送金があった場合
銀行や金融機関には内国歳入庁への報告義務が発生します。
水原がESPNの取材に応じた時は大谷の危機管理チームも同席していたとされます。
私も大谷の声明は怪しいと感じました。
嘘を突いたのは水原ではなく大谷本人だったとしたら
笑えない潔白の声明ですよね。
日本人とは全く真逆の考え方するんですよね。
先日も外人パブに行った時、ホステスの子供も含め、大谷選手の事を疑ってました。
平和ボケな日本人だけなんですよ。”大谷可哀そ〜”なんて言ってるのは・・・
でも文春は何時もいいとこ突いてますよ。
今回は特に日本人2人が絡んでるので、FBIの捜査も厳しくなるでしょうね。
仮に、違法賭博側が日本繋がりだったら最悪でしょう。
という事で、長い記事にコメント有り難うです。