岸信介の実像”後編”〜何故､岸は戦犯被告から逃れる事ができたのか

　”その1”では､アヘンでボロ儲けした岸信介が日中戦争を主導し､更に東条内閣を作り上げ､対米戦争をも指揮していく所まで述べました。　以下､前回同様に､”安倍首相の祖父“A級戦犯”岸信介の正体(後編)”を参考です。少し長くなりますが､ご勘弁をです。

　因みに､このコラムで紹介されてる｢満州裏史〜甘粕正彦と岸信介が背負ったもの｣(太田尚樹著 講談社文庫)では､同じ東条の為に殺人とアヘンに手を染めた2人の対照的な姿を描いてます。
　汚れ役の甘粕とエリート官僚の岸､鬼憲兵と昭和の妖怪､2つの人生は満州で交錯します。そして､岸とは全く異った運命を辿った”甘粕正彦の書”とも言えます。

　岸は､満州時代の盟友東条英機の絞首刑が執行された翌日の､1948年12月24日に､表向きは”東條内閣の倒閣の功労者”との不可解な理由で不起訴処分で釈放された。東条の絞首刑と岸の生還､明暗を分けたというには､余りにも落差の大き過ぎる結末。
　岸の満州時代の上司で､東条内閣では内閣書記官長として共に支えてきた星野直樹は終身禁固刑に処せられた。
　満州では､岸は星野よりもはるかに手を汚し､戦争遂行に関わった度合いも､岸の方がずっと大きかった筈。当然､研究者やジャーナリストにとって､この処遇の違いは興味の対象となる。
　では岸はなぜ､戦犯を逃れたのか？ 

アヘン情報提供と”東条”裏切り工作と

　1つは､岸という人物が用意周到で尻尾を掴めない存在である事が挙げられる。有名な”濾過器発言”には､その片鱗を垣間見る。　　
　”政治資金は､濾過器を通ったキレイなものを受け取る必要がある。問題はその濾過器が事件となる事であり､受け取った政治家は関わり合いにならない。政治資金で汚職問題を起こすのは､この濾過が不十分だからだ”
　要は､マネーロンダリングの事。”証拠を残すな､嫌疑に対して敏感になれ”とはこういう事ですね。

　2つ目は､岸がアメリカに対し具体的な“アヘン工作”を行っていた事。つまり､岸や”アヘン王”の里見は､アメリカにアヘン情報を提供する見返りに戦犯訴追を免れたのだ。
　当時､麻薬はどこの国でも最大の関心事だった。勿論アメリカも例外じゃない。アヘンに関する情報は喉から手が出る程欲しかった。東条英機が処刑されたのも､直接戦争責任に結びつく訴因が多過ぎて､GHQは阿片の件で取り調べるだけの時間がなかった。つまり､アメリカは裁判を急いでいたのだ。

　3つ目。岸には戦争責任逃れの為の”東条英機裏切り”工作というのが指摘されてる。
　満州の関東憲兵隊司令官だった東条英機が中央に戻り､首相へと上り詰める原動力になったのが､岸がアヘン取引で得た豊富な資金だった事は､既に書いた。
　岸は､東条内閣を軍需次官として支え､戦争を主導した。ところが戦争末期に､2人の仲が決裂する。その上､岸と東条の対立が元で､東条内閣が崩壊してしまう。

　岸は自らの回顧録でサイパン陥落の後､”この状態をみると､東条内閣の力ではダメだ。だからこの際､総理が辞められて新しい挙国一致内閣をつくるべきだ”と語ってる。　
　つまり､岸は敗戦を見通し､戦犯を逃れる為に､東条内閣を敢えて潰したのだ。
　つまり､この”変わり身の早さ”こそが岸信介の真骨頂といえる。更に､岸には獄中でもっと重大なアメリカとの政治的取引を行っていたのではないか？との見方もある。
　この政治取引こそが､岸を訴追から救い､戦後に内閣総理大臣に押し上げた最大の理由ではないか。　

アメリカとの政治取引とは？　

　戦後アメリカの対日政策には2つの大きな流れがあった。
　1つは､民政局(GS)に代表される民主化のリベラル勢力で､日本国憲法の素案づくりにも携わった。民主化を徹底する立場から､旧指導者への処分も容赦がなかった。
　もう1つは､治安を担当する参謀本部第2部(G2)を中心とした勢力で､対ソ対中戦略を第一に考え､日本を再武装化し“反共の砦”に育て上げようと考えた。
　米ソ冷戦が本格化するにつれ､”反共”(G2)が”対日懲罰”(GS)を凌駕する様になり､こうした流れの中でG2は拘置所に拘留されてた岸との接触(釈放)をはじめる。
　事実G2は､1947年4月24日付で最高司令官マッカーサー宛に､岸の釈放を求める異例の勧告まで出してる。自らの命の為なら､かつての盟友を平気で売る男だ。一体？何と引き換えに､無罪を勝ち取ったのか？　

　戦後の米国のアジア政策は､米国の国益を守ってくれそうな､その国における”ストロングマン”(好戦的独裁者)を探し出す事から始まる。韓国における李承晩､台湾における蒋介石はその典型だろう。日本では吉田茂､鳩山一郎､緒方竹虎と続き､岸信介の番が巡ってきたのだ。
　では､岸に与えられたミッションとはそもそも何だったのか？ 

アメリカが岸に与えたミッションとは？

　日本国憲法第9条がある為に､日本は自衛目的以外の軍隊が持てず､米国との相互的な防衛能力を保有できない。
　つまり､米国が攻撃を受けても日本は援軍を出せない。さらに､米国の軍事戦略に乗っかる軍隊を持つ事ができない。
　この中途な相互防衛の考えが､”集団的自衛権”の曖昧な解釈として､1951年の旧日米安保締結以来､日米間の最大の問題となる。
　”その1”の最後で述べた様に､今の安倍政権が強引に進める新安保法に､そっくりそのまま繋がるのだ。

　この日米安保の問題解決こそが､岸がアメリカから言われた最大のミッションで､その為に最初に着手したのが､”建設的勢力”の結集､つまり”保守合同”である。
　つまり､この保守合同への運動資金がGHQから献金されたのだ。事実､CIAから経済団体や企業を通じ､岸に資金が流れた。
　”CIAは1948年以降､外国の政治家を金で買収し続けた。世界の有力国で､将来の指導者をCIAが選んだ最初の国は､日本だった”(｢CIA秘録｣)
　
　お陰で釈放後の岸はCIAの援助と共に､支配政党のトップに座り､日本の首相の座にのぼりつめた。
　つまり岸信介は､日本におけるアメリカの国益を実現する為､アメリカに選ばれ､アメリカの資金で作られた”操り首相”だったという事。
　A級戦犯容疑者の身から僅かに9年､公職追放から5年足らずで､政界トップに上り詰めた秘密がここにある。
　安倍も岸も結局は､アメリカのポチだったという訳ですな。全く単純な勝者の論理(Winner Takes All､Loser Takes Fall)ですね。 

日米安保改定と"極東条項"と

　その岸が､首相在任中にアメリカに言われてやった最大の仕事は日米安保条約の改定(1960)だ。
　一般に”旧安保”では､日本がアメリカに基地を提供する一方で､アメリカの日本防衛義務が明記されてないとの批判があったが､新条約ではそれを盛り込ませる事が出来たと評価されてる。しかし､アメリカの狙いは別にあった。
　”新条約は､5条で米国の日本防衛義務を盛り込んだが。続く6条で米国のアジア戦略の為に在日米軍を利用できる｢極東条項｣が組み込まれた”
　つまり､この6条の｢極東条項｣こそが米国の本音だったのだ。

　この｢極東条項｣のお陰で､アメリカは日本の基地を好き勝手に使えるようになる。
　事実､”新安保”締結から50年以上経つが､米軍が日本防衛の為に出動した事は一度もない。反対に､米軍がアメリカの戦争の為に日本の基地を自由に使う事は､慢性化し日常化してる。
　故に､安保条約改定が誰の指示よるものだったかは､自明であろう。　

CIAと岸信介の陰蜜の関係と5つの謎

　実は､岸信介に関するCIAファイルはたった5枚しかない。他のA級戦犯容疑者にては､例え不起訴でも膨大な資料が残されてる。
　例えば､緒方竹虎は1000枚近く､正力松太郎は500枚ほど。しかし､岸はたったの5枚。
　つまり､岸に関するCIA資料はその殆どが未だ機密状態なのだ。これこそが､アメリカの対日占領政策が”未だ継続中”である事の裏返しでもある。
　こうした歴史を振り返ると､現在の安倍政権がやろうとしてる事の､以下の”5つの謎”が解けてくる。

　Q､安倍首相はなぜ､集団的自衛権行使にあそこまで拘るの？
　A､おじいちゃんが不起訴の見返りに､アメリカと約束した事だから。

　Q､安倍首相はなぜ､日本国憲法を”みっともない”と毛嫌いするの？
　A､おじいちゃんを助けてくれたG2(反共)と､敵対する人達が作った民主憲法だから。

　Q､安倍首相はなぜ､改憲しようとしているの？
　A､それも､おじいちゃんが不起訴の見返りにアメリカと約束した事だから。

　Q､安倍首相はなぜ､沖縄の”屈辱の日”をお祝いしようとするの？
　A､おじいちゃんの公職追放が解除された記念の日だから。

　Q､安倍首相はなぜ､”侵略”や”お詫び”や”反省”をためらうの？
　A､あの戦争は､おじいちゃんも深く関わった自存自衛の聖戦だからよ。

　そ〜うなんです。太平洋戦争も新安保法制も改憲も全ては､おじいちゃんの岸信介と繋がってたのですよ。ユーアンダースタン？ 

2つのアメリカとの間で

　安倍首相はそのアメリカ観も､岸信介に強い影響を受けてる。安倍の頭の中には倒錯した”良いアメリカ”と”悪いアメリカ”がある。
　”良いアメリカ”は､おじいちゃんを救ってくれた､戦前の日本の旧指導者にも寛容だったアメリカ。一方､”悪いアメリカ”は､日本に憲法9条や主権在民､人権尊重などを押し付け､戦前の日本の旧指導者を“悪”と決めつけたアメリカ。
　故に安倍は､”悪いアメリカが押し付けた戦後レジームからの脱却を主張”しながら､”良いアメリカの戦争に自衛隊を捧げる安保法制を強行”する事に､矛盾を感じないのだ。
　つまり､安倍のバカは良いアメリカと悪いアメリカを真逆に捉えてるのだ。

　いずれにしても､たった一人のグロテスクな“じいさんコンプレックス”によって､日本は今､国の形を大きく変え､”アメリカの戦争”に引きずり込まれようとしている。
　我々は､その事の異常性と恐ろしさを本気で認識すべきだろう。
　以上､LITERA.comからでした。 

岸信介の負の遺産と安倍一族の崩壊と

　これは､今の日本人が絶対に読むべきコラムだと思う。2015年の少し古い記事だが､内容が斬新過ぎて､書いてて少し鳥肌が立つ。
　2つの顔を持つアメリカと､グロテスクな怪人政治家である岸信介の怪しい関係。”昭和の妖怪”とはよく言ったもんだ。

　安倍が国民やメディアからいくら叩かれても､まるでゾンビみたいに頓挫しない理由がこれではっきりとした。
　つまり､祖父の岸信介の負の遺産が未だに政界内では､亡霊の様に幅広く燻り､彷徨ってるのだ。それに､新日米安保改定というカードをアメリカが牛耳ってる間は､安倍政権は不洛なのか。

　結局､アメリカは日本を米軍の為の”戦争のコマ”として､第二次大戦以前から既に考えてた事になる。
　トランプはG20を前にして､戦後74年ぶりにこのカードを持ち出した。もし安倍が､新日米安保改定に背を向ければ､安倍一族は戦争犯罪のA級の象徴として､靖国と共にまたたく間に葬り去られるであろうか？

　岸信介は過去に遡り､極刑を言い渡され､その孫である安倍も､何らかの重たい刑を言い渡されるであろうか？
　そして､自民党の長くて暗く深い､世襲派閥の腐敗の歴史も幕を閉じるのか？ 

最後に

　私は今まで､安倍一族のDNAの真実を全く知らなかった。しかし､ゲスなDNAである事は大方､察しがついてた。
　ただ日本にも､ヒトラーやスターリンやポル•ポトに匹敵する独裁者(ストロング•マン)岸信介が存在してたとは。

　安倍が日本を戦争に巻き込み､自分はノホホンと何処かへ逃げる事もよ〜く理解できた。選挙で安倍が負けない事もよ〜く理解できた。政界内で胡座を掻けるのもだ。
　ただ一番の収穫は､安倍一族の首領である岸信介のバケモノとしての実像がここにてはっきりとした事だ。

　安倍は岸信介を敬愛してる。岸が敷いた路線を忠実に実行しようとしてる。岸が”昭和の妖怪”ならば､安倍は”平成のゾンビ”だ。
　しかし､安倍は岸とは全く資質が違う。素養の次元が違いすぎる。それだけが救いだ。
　今の安倍にあるのは､”昭和の妖怪”から引き継いだ”外面”だけだ。つまり､”岸信介というお化けの皮を被っただけのタヌキ”に過ぎない。母の洋子もアメリカも既にそれを見切ってる。

　だからトランプは､公の場で敢えて､新安保改案の口火を切った。またそうせざるを得なかったのか？そもそも日米安保はアメリカが仕組んだ妄想に過ぎなかったのか？
　今､祖父の岸信介がA級戦犯を逃れる為に､米国と交わした”裏取引”を安倍が交わそうとしてる。　
　分裂しつつある”2つのアメリカ”。そのアメリカが岸と交わした”裏取引”を引き裂く事は可能なのか？全てはアメリカの”これから”に掛ってる様に思えてならない。