昨年の大晦日以来、約半月ぶりの更新です。随分とご無沙汰になった様な感じで、メインストリームだった”リーマンの謎”も”大場政夫”に追い抜かれちゃいました(悲)。
実を言うと数学スランプというか、リーマンアレルギーになりつつありまして、リーマン”その1”(全12話)は昨年の8月程に終わる予定だったんですが。ダラダラと先延ばしする悪い癖が出まして、”その2”からは少しペースを上げていきたいと思います。悪しからずです。
さてと本題に移ります。
1859年の論文と自明零点の解消
実際にはリーマンは、1859年の論文の「与えられた数より小さい素数の個数にて」の中で、
ζ(s)=2(2π)ˢ⁻¹*sin(πs/2)*Γ(1−s)ζ(1−s)という非対称型関数等式を示してますが。
これはオイラーの非対称型(1749)であるζ(1−n)/ζ(n)=2(2π)⁻ⁿΓ(n)cos(πn/2)を変形したもので、Γ(n)の”倍角の公式”と”相反の公式”から導き出したものです(”1の3”参照)。
この事は前にも書いた様に、複素解析的関数の解析接続が初めて明示的に行われた例とも言われてます。
ただ、このリーマンの非対称型の方が自明な零点(実零点)を打ち消すのにずっと便利なんです。
この等式に、s=−2n(n:自然数)を代入すると、sin(−nπ)=0となり、他の因子は有限値なので、ζ(−2n)=0です。故に、−2nは自明なゼータ関数の実零点となります。
一方で、”1の6”でも述べた様に、ゼータの非対称型等式からcos(πn/2)を打ち消すにも、Γ(n)の”倍角の公式”と”相反の公式”を使って行なえ、ゼータを完全対称等式に結びつけます。
リーマンは、ゼータ関数を完備ゼータとして既に考えてました。
リーマンの第2の解析接続(第2の積分表示)でゼータを完備化すれば、余分な実零点(自明な零点)は無視でき、虚零点のみを追い求めるだけで済みます。
この完備ゼータ関数と数論的関数などは、様々な形で数多くの関数と密接に絡み合いますが。
虚数の謎と深リーマン予想
言うまでもなく、複素数はs=a+biの形で表現され、aが実数部Re(s)で、bが虚数部Im(s)です。ゼータの零点におけるこの”虚数部の解の探求”こそが、リーマン予想の最も深い部分です。
故に、ゼータの虚零点を探る事は、”深リーマン予想”と呼ばれ、”真”のリーマン予想の姿なんですね。洒落にもなってませんが(笑)。
虚数の大まかな概念は、1500年代にジェロラモ•カルダーノにより発見され、1572年にラファエル•ボンベリは虚数を定義しましたが。
以降数百年間は、”詭弁的な数字であり、実用性はなく、ただの想像上の数に過ぎない”と否定されてきました。
しかし、”オイラーの等式”(e^iπ=−1)で虚数の持つ重要性を解き明かした後、虚数の評価は一変し、現在では、”史上最も偉大な等式”とか”数学的な美の絶対的基準”及び、”数学における最も美しい定理”とも評されます。
さらに研究が進むにつれ、その存在を仮定し計算に使ったら、非常に便利である事が分かり、数学者の間で広く使われるようになります。確かに、i=√−1を2乗すれば−1になるというエイリアンみたいな数字ですが、重宝する数字でもあります。
事実、実数の世界で解けない定理も複素数上で定義すれば、解決するなんて事が沢山ある訳で、そういう意味でも画期的な事だったんです。極論を言えば、虚数がなかったら未だに数学は、四則演算の領域から抜け出なかった。
この摩訶不思議な虚数の集まりである複素数の世界で、ゼータ関数はリーマンの手を借りて、大きく羽ばたくんですが。それでもリーマン予想の解明には未だ至ってない。
如何にリーマンの偉業が、オイラーの発見が計り知れないものであったか。
ゼータの零点の探求とスパコン
”1の6”で述べた様に、リーマンは第3の解析接続を使い、何と手計算で3つの零点を求めました。この先駆的&超人的計算は後年、世界中に知れ渡り、ゼータの零点を求める計算は多くの研究者に受け継がれ、数多くの零点が求められました。
20世紀後半から零点の個数が飛躍的に増えたのは、チューリング(英、1912-1954)の計算機による結果でした。
因みに、人間の手で計算したのはティッチマーシュが最後で1041個です(1941年)。つまり手計算では、リーマンの1859年から82年間で、僅かに1038個が求まっただけなんですね。
コンピュータを駆使した以降(1953〜2004)は、僅か50年で10兆個近くを発見したんです。文明の利器とは利用するもんです。
しかし、コンピュータの計算と言えど、基本的には”リーマン・ジーゲルの公式”(1932)に頼らざるを得ないのが現状です。
いくら優秀な計算機と言えど、”零点を求めよ”というコマンドはない。つまり、演算を順序よく組立て、数式を指定する必要があるんですが。未だに”リーマン・ジーゲル”に頼る必要がある。
ゼータ関数の3つの表示
元々ゼータ関数にはオイラーの時代からあったディリクレ級数とオイラー積の2つの表示がありました。
因みにディリクレ級数は、オイラー級数と言ってもいいんですが、ゼータを級数として一般化したディリクレの偉業を讃え、彼の名を冠します。
つまり、ζ(s)=”自然数の全体に渡る和”とζ(s)=”素数の全体に渡る積”の2つ。
しかし、リーマンが着眼したのは、複素関数論を用いた第3の表示であるζ(s)=”零点の全体に渡る積”でした。
故に、これら3つの表現を合わせると、”素数の全体に渡る積=零点の全体に渡る積”です。
この等式の両辺の対数をとれば、”素数の全体に渡る和=零点の全体に渡る和”となります。
これこそが後に言う”明示公式”の原型なんです。リーマンが発見した”素数(明示)公式”や後に証明される”素数定理”、それにリーマンのもう一つの大発見である、”リーマンゼータ関数の零点の個数の公式”(リーマン-ジーゲル公式)など、素数に関する全ての定理の源となってます。
ゼータ関数の虚の零点は非常に不規則な数値ですが、そういう”全てに渡る和”をとった結果が”素数の個数”という整数値になるのも不思議です。
つまり、1つの整数値を無限個の複素数の和に分解するが故に、不思議な現象に見えるが。ゼータという1つの物体を、”素数と零点”という2つの側面から観察し等式で結んだが故に、当り前の結果になるんですかね。
このゼータと素数と零点との3角関係は頭に叩き込んでおきたい所ですが。
故に、前述したオイラーの”自然数の全体に渡る和”と”素数の全体に渡る積”の2つの概念は、どちらも目に見える対象でした。つまり、オイラーの積表示は平面上に存在するもので、目にハッキリと認識できるものでした。
一方でリーマンの”零点に渡る積”は、ゼータが幾何的(立体的)空間に存在する事を突き止め、裏側から探る事で新たな側面を発見した様なものだと、小山氏は結びます。
つまり、オイラーゼータは目に見える積表示でリーマンゼータは目に見えない積表示という事ですね。
ゼータと量子力学との繋がり
つまり、この目に見えない現象が、複素数や複素関数論により記述されるという原理は、20世紀前半に発達した”量子力学”で見られます。故に、この量子力学が”目に見えない力学”と言われる所以ですかな。
ニュートン力学の”物理量は連続である”という原則を破った量子力学では、”物理量は離散的な飛び飛びの値をとる”事です。これは、前回”1の9”述べたP進数の原理と全く同じですね。
その物理量は固有値をとり、その固有値に付随する固有関数の絶対値が、粒子の存在の確率を表します。
つまり、この固有関数は複素数値関数であり、複素数の絶対値を取る操作が着想となってます。ゼータの収束領域を広げるのに絶対値を取る操作とソックリです。
日常では目に映らないミクロの現象を複素数が記述するのは、素数の分布を複素関数であるゼータが記述するのと同じなんですね。
故に、物理学でいう目に見える現象は、数学で言えば、ゼータ関数の収束する領域内での振る舞いに相当すると。
ゼータ関数の絶対収束域は、複素数の実部が1の境界よりも右側ですから、その領域こそが目に見える範囲で、”ニュートン力学”に相当する部分、いわゆる”目に見える力学”ですね。
リーマンのゼータ関数の解析接続の発見こそが、物理学でいうミクロの世界に、数学的に初めてメスを入れたものと言ってもいいと。
数が棲息する世界も私達が生きる世界も根本的な所では共通してるんですね。
ゼータの零点の間隔と原子核エネルギーの間隔が同じという大発見(モンゴメリー・オドリズコ予想=1987)もこれから来たんですかな。以上、”リーマン予想と量子力学の密接な結び付き”でした。
リーマンの謎ブログのこれから
”その1”は、これで(全12話)で終わりにします。今年1月に初投稿した記念のリーマンの謎”旧その1”は消そうとも思ったんですが。アクセスがそこそこあるので、そのままにしときます。
”その2”は、”旧その2”を大きく変更し、新しく”ゼータの起源と素数の謎”をテーマに進めました。18話ほどになりましたが、悪しからずです。
”その3”は、”オイラー級数とディリクレ級数とラマヌジャンのL関数”について書く予定ですが、全6話ほど?になると思います。
この”その3”では、素数とオイラーの関係に、もっとツッコミを入れたいですが。ある意味、このその3は素数の謎の心臓部ですかね。
一方、6月に更新した”その4”(全4話)は、”旧その4”(2話)として残し、只今大幅に更新してる最中で、多分7話ほどになると思います。
この”その4”こそが、オイラーの偉業の中核を成し、バーゼル問題とゼータの特殊値から始まるベルヌーイ数に至る旅になる筈でしたが、どうなる事やらです。
リーマンの素数公式とリーマン予想の繋がりは、”その5”紹介する予定です。あくまで予定です。
それに、イラストでも紹介してる様に、「オイラーとリーマンのゼータ関数」「ゼータへの招待」「リーマン教授にインタビュー」「素数からゼータへ、そしてカオスへ」その他諸々の本を参考にしてます。
特に、この4冊の著者である黒川信重氏と小山信也氏の両博士の熱い想いが、等身大に伝わってきそうな勢いです。
久しぶりで5千字近くになりましたが、これからもリーマンの謎ブログを宜しくです。
とうとうシーズン1が終了しました。お疲れさんです。
このシーズン1の解析接続から始まり、シーズン2のゼータの起源→オイラー積とデリクレ級数→バーゼル問題とゼータの特殊値とベルヌイ数→素数公式とリーマン予想につながる展開には、思わず期待しますね。
この流れと順番が絶妙なんですよ。前のコメントでも言ったんですが、流れを一つでも間違えると、全てが台無しになる。とても繊細なリーマン予想でもあるんですね。
私もリーマン予想と言えば、素因数分解に興味を持ち、素数にのめり込んだんですが、ユークリッドの背理法でいきなり頓挫しました。それにオイラー積と素数の積の関係が、素数が無限にあるという事がなかなか理解できませんでした。
でも、素数の密度(確率)という点からオイラー積を考えると、しっかりと結びつくんですね。故に、転んださんみたいに解析接続から更新し始めたのは、正解だったと思います。シーズン2楽しみにしてます。
いつも、リーマンブログを影で支えて頂いて感謝感謝です。お陰で、少しはマトモなブログになりそうです。
確かに、リーマン予想は素数から入ると、袋小路になりますね、どうしても。オイラーと言えばやはり素数の謎であり、リーマンと言えばゼータの謎なんですね。
シーズン2では、素数とオイラーの定理をテーマに述べるつもりですが。”素数がどれ位沢山あるか”という疑問から入らないと、素数の謎という漠然な所からでは、少しキツイですね。
それに、ガウスの素数定理が余りにも有名だから、いきなり素数の個数から入るので余計にややこしくなリます。
paulさんの言う通り、全ては順序と絶妙なタイミングですかね。これからも宜しくです。
いきなり絵文字ですが。
paulさんをまねてみました。
リーマン予想の謎も、時と共に脱皮を繰り返し、次第に真の姿を現していくんですね。新シーズン1の解析接続は、転んださん言う様に、エニグマ暗号と同じで、それぞれに固有の解析接続があるという事は判りましたが。それだけではリーマン予想にたどり着けないんですか。
まるで、フランクリン隊の極地探検と全く同じですね。多くの数学者が挫折したことでしょうか。フェルマーの定理は、ラマヌジャンの登場により、解決の道しるべを見たとありますが。リーマン予想も彼に相当する超天才の登場を待つんですかね。
シーズン2、シーズン3、シーズン4、シーズン5と楽しみにしてます。
hitmanさん、解析接続だけではリーマン予想にたどり着けないんですよ。”1の6”で書いた様に、”素数の個数を求める事=完備ゼータξ(s)の零点ρ全体を求める事”に気付いたんですが。
残念ながらその詳細は、リーマンの論文には書かれてなかった。唯一書かれてたのが、”Re(ρ)=1/2”という有名な”リーマン予想”なんです。
リーマンがρ(零点)を求める際に使った計算式を”粗雑な計算”として、論文に載せなかったんですね。載せてればね、現代数学の歴史は大きく変貌してたかもです。
目に見えるオイラーゼータと見に見えないリーマンゼータの関係が素数と零点の違いであり、この素数と零点とゼータの三角関係は実に興味深いです。
ゼータの虚零点という不規則な数が素数の個数に繋がることも、転んださんのいう"ゼータの謎"ですね。素数の個数という整数値を複素数数の和に分解するがゆえに、こういった不可思議な現象が起きるんですが。素数と零点という側面から観察すると、キレイな等式で結ばれる。
この見えないゼータの原理は、量子力学という見えない物理学に結び付くのも、これまたゼータの不可思議な謎ですね。
8月末に終わる予定の”その1”でしたが。長引いた分、完備ゼータとP進距離が理解できて、これも怪我の功名ってやつ、いや長延しの偶然ですかね(笑)。
でもゼータって不思議なもんで、更新する度に振り返る度に、見えない筈のものが見えてくる。勿論単なる幻想なんでしょうが、錯覚でもゼータの片鱗を垣間見るって事は数学冥利に尽きます。
見えないゼータが見えない力学に結びつくとは、偶然にしても出来すぎですね。