ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

オペラ座読了

2006-11-25 21:52:38 | 読書感想文

そういう訳で、「オペラ座の怪人」読了しました。

■おフランスってトレビアン
ミステリーっぽい出だしにコナン・ドイルやエドガー・アラン・ポーを思い出し、ドキュメンタリー風の構成にはブラム・ストーカーの『ドラキュラ』っぽいなと思ってたんですが。
ファントムがクリスティーヌを地下の隠れ家に連れてった辺りから、モーリス・ルブランのルパンシリーズが頭から離れなくなりました(ルパンシリーズ、3冊くらいしか読んだ事ないんですけどね)。
あの場面、映画では絵的に映えるようにわざと派手派手な演出にしてるんだろうなーと思ってたら、原作はもっと派手だった。
そういや『奇岩城』もこんな感じだったっけと懐かしく思い出してしまいました。ファントムが姿を現さずに、手紙で指示を与える所は『八点鐘』っぽい。
これがおフランスのミステリーなのね、と妙に納得。

■たのしいダンジョン大冒険
ALW版の舞台&映画では話を三角関係に絞っているため、冒険活劇的な要素はごそっと省かれてますが、原作ではすごいです。ていうか楽しいです。
オペラ座の地下ってそこんじょらの地下室とはスケールが違うんですねー。地下五階のややこしく入り組んだ壮大な空間に舞台装置のからくりあり、貯蔵庫あり、地下水脈&地底湖あり、パリ・コミューン時代の牢獄あり。ワンダリングモンスターみたいな得体の知れない連中も住み着いている。そこへペルシア帰りの稀代の奇術師・落とし穴大好き&からくり大好きのファントムくんが住み着いて勝手に改装を重ねてる(ていうか、建築段階ですでに潜り込んでたらしい。あんたいったい歳いくつなんだ)。これはもうダンジョンですよ。ウィザードリィの世界ですよ。
これ、ピーター・ジャクソン辺りに原作準拠で違う映画を作って貰ったらそれはそれで楽しいだろうなーと思いました。ロマンス:ラウルくんの不思議のダンジョンの比率が2:8くらいで。でも巨大ゴリラでロマンスが描けるPJだったら、原作版の歩く腐乱死体みたいなファントムでも普通にラブロマンスがやれそうです。ていうか、嬉々として原作に忠実なファントムを撮りそう。
もちろんゲームも出します。ラウルになってダンジョンを攻略するヤツ(バイオハザードみたいなの)か、ファントムになって侵入者を罠にハメまくるヤツ(影牢みたいなの)。あー楽しい。

■それでも最後は愛なのね
そんなこんなで冒険者気分を楽しんでたら、最後がいきなり映画と同じようなオチでびっくりしました。
原作のファントムくんは映画のようなダンディーなおじさまではなく腐乱死体で、しかも見た目が死体っぽいからって棺桶の中で寝るお茶目さんで、芸術と心中しそうな映画版と違って、クリスティーヌとの平凡な新婚生活を夢見る小市民的な側面も持ってたりする愉快なヤツです。
そして原作のクリスティーヌは、ファントムの正体を知ってからはひたすら怖がる一方で(歌には惹かれてたみたいですが)、ラウル一筋。
だからまさか、そんなクリスティーヌが最後の最後にファントムの想いを受け止めてやるとは思ってなくて、不意を突かれてしまいました。
しかもそれに対するファントムが……たった1回のキスと涙ですべてをゆるせてしまうほど、そんなにも愛に餓えてたのかと思うといじらしいやら不憫やらで、なんとも言えない気持ちになってしまいました。
あと、映画と原作では後日談も違うんですが、よく考えたらファントムがあの後もずっとクリスティーヌに魂を捧げてたって意味では一緒なんだなあと思いました。

■映画と原作
映画の方で気になったのは、途中まで恩着せがましく「お前の歌に翼を与えてやった」と歌っていたファントムが、一番最後には「きみが私の歌に翼をくれた」に変わっていたこと。一方的な師弟関係ではなく、クリスティーヌもまたミューズとして、ファントムの芸術の成就に欠かせない存在だったことが伺えます。
これに対して原作では、何せファントムくんの野望は「平凡な新婚生活」なので……魅惑の声もクリスティーヌを釣る餌でしかないのかも。クリスティーヌは覚醒した後も、お師匠様には叶わないと思ってたみたいですしね。スゴ過ぎる原作ファントムの歌は、人間には多分再現不可能。
この点に関しては映画の方が好きですね。音楽による魂の結びつきが表現されてて。
ちなみに舞台&映画では劇中劇のオペラもオリジナルですが、原作では実在のオペラになってました。クリスティーヌの歌う夜の女王のアリアとか、ちょっと聞いてみたかったかもと思いました。『魔笛』って魔術的な内容だから、この話に似合うと思います。

追記:原作ファントムの野望が『平凡な新婚生活』っていうのも、考えてみたら切ないですね。人の羨む才能に恵まれていながら、普通の人が普通に手に入れている『平凡な一市民としての生活』だけがどうしても手に入らなかったっていう所が。


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