2005年3月20日(日)
#265 須藤薫「AMAZING TOYS」(CBS/SONY 28AH 1416)
須藤薫のサード・アルバム。82年リリース。川端薫プロデュース。
須藤薫ほど、実力のわりにヒットに恵まれない女性シンガーもいないような気がする。彼女のヒット曲って、何を思い出せる? 「FOOLISH(渚のポストマン)」? 「ブラックホール」? せいぜいそのくらいだろう。
79年にデビューしてしばらくの時期こそ、毎年アルバムをリリースしていたものの、他レーベルへ移籍後はリリースのペースも大幅にダウンしている。
過去のオリジナルアルバムの多くは廃盤状態。でもそのかわりデジタル技術の発達のおかげで、今でもその音をネットでダウンロードして聴ける。だから、彼女の音楽は不滅だと思っている。
ちょっとハスキーで、パンチのある発声、伸びやかなハイ・トーン。これぞ、永遠のポップス・シンガーって声だよな。
さてこのアルバムは「ブラックホール」ヒット後に出した一枚で、そのコンポーザー、アレンジャー陣を見ると、相当気合いが入ってるな~と思わされる。
作詞に杉真理、呉田軽穂こと松任谷由実、伊達歩こと伊集院静、田口俊(REICO)、有川正沙子、そして来生えつこ。
作曲に杉真理、堀口和男(REICO)、林哲司、東郷昌和、田口俊、来生たかお、そして松任谷正隆。
アレンジは杉真理、堀口和男、林哲司、松任谷正隆。
要するに、ユーミン組を初めとして、当時最も勢いのあったポップス・ライターたちを総投入した感があります。
ミュージシャンも、ユーミンのバック勢を初めとして超豪華。マンタさんを筆頭に、新川博、林立夫、島村英二、長岡道夫、高水健司、後藤次利、吉川忠英、笛吹利明、鈴木茂、松原正樹、林仁、難波弘之、浜口茂外也、ジェイク・コンセプションといった顔ぶれ。
これで出来ばえが悪いわけがない。
「恋の最終列車」は、セカンドラインとマントラ風のジャズィなサウンドが融合したようなナンバー。林立夫のドラミングが見事である。
「さよならはエスカレーターで」は、明らかにシーナ・イーストンの「モーニング・トレイン(9 to 5)」を意識したサウンド。ジェイクのサックスがなんともキマっている。
「この恋に夢中」はドゥワップ・コーラスをフィーチャーしたミドルテンポのナンバー。黄金のパターンに、ツボを刺激されまくり。間奏の鈴木茂の多重録音ギターがいい。
シングルカットされた「涙のステップ」は、コニー・フランシスあたりの60年代ポップスを下敷きにしながらも、アレンジはしっかりと80年代風に洗練されたダンス・ナンバー。
そのサウンドは、きわめて完成度が高い。ついでにいうと、かのつんく♂氏が最近ハロプロでやっているロッカ・バラード、ドゥワップなどのオールディーズ路線は、須藤サウンドのチンケな焼き直しにしか聴こえない。
一番ポニーテールが似合う女性歌手といえば、(岩井小百合とか、渡辺満里奈とか、みうなとか)諸説あるだろうが、やはり須藤薫でFAだろ、そういう気がする。
「1950 TEAR-DROPS CALENDAR」はアップテンポの50年代調ロックンロール。須藤薫定番の失恋ソングで、でも曲調は根っから明るい。
「RAINY DAY HELLO」はきわめつけのバラード・ナンバー。大人の恋の行方を歌った、しっとり感120%のナンバー。こういう曲でこそ、彼女の歌のうまさがよくわかる。高橋真梨子あたりと十分タメを張れてる。
「PRETENDER」は須藤薫版「悲しき街角」とでもいうべきナンバー。シャネルズの「ランナウェイ」にも相通ずるものがある。アレンジ的には大滝詠一も相当意識してるかな。
「さみしいハートにSING A RING」は、アップテンポのナンバー。これもちょっとコニー・フランシス風、ネオ・オールディーズとでもいうべき路線の、懐かしいサウンドだ。
「恋の雨音」はひとりハーモニーが印象的な、マージー・ビート調のナンバー。
ハンク・マーヴィンふうの鈴木茂のプレイも、イケてます。
「DIARY」は「涙のステップ」と好一対をなす、ロッカ・バラード。もう、60年ポップスの乙女ちっくな歌詞全開で、泣かせますな。
須藤薫のウリ、泣き節も絶好調であります。
「緑のスタジアム」は、この一曲を題材に、まんま一編の映画かTVドラマが出来そうな歌。フットボールを観戦中の男女がふとしたきっかけで知り合い、恋が始まり、そして終わるというストーリー。
アイビーリーグの大学生たちの日常生活を、そのまま切り取ったような感じで、こういう恋に憧れる女性も多いはず。
ま、筆者なんぞにはまるきり縁のない世界でしたが(笑)。
ラストの「LITTLE BIRTHDAY」は、来生姉弟による正統派ラブ・バラード。内容もハッピー・エンドで、一枚を締めくくるにふさわしいナンバーであります。
ちょっとバカラックが入ったアレンジもナイス。もちろん、須藤薫のみずみずしい歌声がこの曲の命であります。
最後に豆知識をひとつ。タイトルにちなんでアルバム・ジャケットにあしらわれたブリキ玩具は、「お宝鑑定団」でもおなじみの北原照久サンのコーディネートによるものだそうです。
彼女のようなシンガーは、男性受けというよりは、同性に支持されてこそ人気が出るタイプだと思うが、セールス的にはイマイチだった。たぶん、同時期デビューの松田聖子にだいぶん食われていたように思う(男女ファンを問わず)。
でも、歌のうまさでは決して聖子にもヒケを取らなかった。押しの弱さ、タレントとしてのキャラの薄さゆえ、人気こそ出なかったが、非常にいいシンガーだったと思う。
近年では長年来の友人、杉真理とデュオ・ユニットを組んで活動している彼女。このふたりの息の合い方といったら、ハンパではない。夫婦デュオでもなかなかこうはいかないというくらい。
その原点は、やはりこのアルバムあたりにあるといえよう。楽曲提供、アレンジ、コーラス等々、陰の功労者、杉真理のサポートぶりにも、注目である。
<独断評価>★★★☆