2005年6月12日(日)
#274 憂歌団「PURE BEST」(FOR LIFE FLCF-3889)
憂歌団、フォーライフ時代のベスト/アルバム。2001年リリース。83年から96 年に至るまでの、全17曲を収録。
フォーライフ時代の彼らは、その前のショーボート時代に比べると、試行錯誤の連続だったという気がする。
アレンジャーを迎えての、サウンド作り。従来のアコーティスティックだけでなく、エレクトリック・ギターも導入、よりポップでアップ・トゥ・デイトな音作りにも挑戦したのだが、どうもそれが成功したという印象はない。
やはり、憂歌団はあの4人が演奏するサウンドだから憂歌団なのであって、大仰なオーケストレーションを加えた憂歌団など、別のバンドとしか思えないのだ。
筆者のこの私見は、一曲目の「大阪ビッグ・リバー・ブルース」を聞けば、たちまちおわかりいただけると思う。
フルオケ・サウンドに乗った、木村充揮のやたら抑えめの歌声には、どこにも憂歌団本来の、獣的なまでの魅力はない。これを「洗練」というのかもしれないが、みょうにオカマっぽいこの歌声に、誰がひかれるというのだろう。
その思いは、次の「胸が痛い」でさらに強まる。
やたら切々と歌い上げるバラードなんだが、ピアノやエレクトリック・ギターをフィーチャーした、あまりにオーソドックスなスタイルのサウンド。なんか、聴いているこっちの胸のほうが痛くなりそう。「違う、違う、おれたちの求めている憂歌団はこんなんじゃない!」と叫んでしまいそうだ。
三曲目の「ザ・エン歌」で少し、口直し。シアターアプルでのライブ盤でも歌われていたこの曲は、憂歌団らしいアコギ・スタイルで、ホッとする。
だが、次でまたもガッカリ。「かぞえきれない雨」なんて、まるで稲垣潤一の曲のようだ。せっかくの木村の熱唱も、こんなハンパにコンテンポラリーなサウンドがバックでは、台無しというもんだ。
「わかれのうた」は、仲間でもあり、ある意味ライバルでもある上田正樹を意識したようなバラード。やはりバックはAORふう。こういうソフィスティケートされた音と、木村の天然素材なダミ声とは、どうも合わないような気がする。
正直言って、和田アキ子の亜流みたいな歌声に聴こえるのだよ。
「GOOD TIME'S ROLLIN', BAD TIME'S ROLLIN'」は、これまたテンダーな歌い方なのだが、比較的音数を抑えたシンプルな音作りをしているので、バックのオケもさほど気にならない。
ただ、もし憂歌団を聴いたことがない若いリスナーがこれを聴いたら、まったく魅力を感じることはないだろうな。あまりにキック不足な音なのだ。
続く「キスに願いを」も迫力不足の甘ったるいロッカ・バラード。
そんな感じがしばらく続き、聴き手としては、フラストレーションがたまる一方。
「嘘は罪」はアルバム「リラックス・デラックス」収録のナンバーで、筆者もリリース当時から愛聴していたものだが、こういうミニマムなバンド・サウンドはやはりいい。たとえ、木村がソフトな歌い方をしていても、しっくりくるんだわ。
それは一曲おいた「渚のボード・ウオーク」についてもいえるな。
11曲目以降は、例のシアターアプル・ライブ「ザ・ベスト・オブ・憂歌団ライブ」、そして「憂歌団/ライヴ'89~ビッグ・タウン・ツアー」から6曲。「Midnight Drinker」「シカゴ・バウンド」「おそうじオバチャン」「嫌んなった」「Stealin'」そして「君といつまでも」。
いやー、ここでようやく筆者の不満もふっとんだ。これこそ、憂歌団の音だよ。やっぱ、生(ライブ)こそ、憂歌団だよ。
ライブアルバムから6曲(つまりこのベスト・アルバムの三分の一以上)が採用されたということは、こういう生音こそ彼らのベスト・テイクだと、アルバム制作サイドもわかっているってことで。
詳細については、以前の本欄を参照していただこう。とにかく、これくらいリラックスして(実際、ウイスキーなど飲みながらやっている)繰り広げられるライブ、客席とのダイレクトなコミュニケーションが横溢したライブは、他に並ぶものがない、と断言してしまおう。
締めはスタジオ録音の「心はいつも上天気」。
静かなアコギの響きが印象的な、バラード・ナンバー。
バックのオーケストラがちと余計な気もするが、木村の歌唱も、内田のギターソロもひたすら甘く美しい仕上がりなので、まあよしとしよう。
フォーライフ時代は、憂歌団として決してグッド・タイムズ(いい時代)であったとはいえまい。サウンドのメジャー化、ポップ化も、結果的にはうまくいかず、めぼしいヒットも出ず、しかも昔からのファンにはブーイングをくらったりもした。
しかし、いまとなっては、それもまた貴重な体験。さまざまな試行錯誤の延長戦上に、現在の木村や内田の音楽活動があるのだと思う。
「ベスト=最上」と冠するには難ありの一枚だが、それはそれでよしとしたい。憂歌団13年の軌跡を捉えるには、格好の一枚であります。
<独断評価>★★★☆