2005年4月24日(日)
#268 ゲイリー・ムーア「AFTER HOURS」(ヴァージンジャパン VJCP-28097)
ゲイリー・ムーアのソロ・アルバム、92年リリース。ゲイリー&イアン・テイラーのプロデュース。
90年、ゲイリーはブルース色を前面に打ち出したアルバム「STILL GOT THE BLUES」を大ヒットさせ、以降、ゲイリーのブルース路線が続くことになる。これはその二年後に発表された、新路線第二作。
ハード・ドライヴィンなブルース・ナンバー「COLD DAY IN HELL」でスタート。
これがまあ、なんともコテコテ、ギトギト。
ギターはもちろん、歌ももちろんゲイリーによるのだが、例によってアクの強い歌声を披露している。
この一曲だけで、おなか一杯な感じ。
2曲目はギター・フレージングにアルバート・キングの影響がモロ見えな、ファンク・ブルース「DON'T YOU LIE TO ME(I GET EVIL)」。軽快なノリが◎。
3曲目「STORY OF THE BLUES」も、かなりアルバート・キングっぽい。「AS THE YEARS GO PASSING BY」をほうふつとさせるマイナー・ブルース。
ゲイリーの「タメ」のプレイが本領発揮なナンバー。レスポールの音色がまことに艶っぽい。
4曲目でスペシャル・ゲスト登場。B・B・キングである。
「SINCE I MET YOU BABY」はゲイリーのオリジナルなれど、まるでBBのオープニング曲のような雰囲気をもった、軽快なテンポのシャッフル。
BBのソロ、そして「怒り節」やふたりの掛け合いもしっかりと聴けて、ちょっとお得な気分。
「SEPARATE WAYS」は、どこかフォリナー風のバラード。ほとんどブルース色は感じさせないが、しみじみとした歌唱がイケてます。いつもバリバリ、テンションの高い歌ばかり歌っているイメージが強いゲイリーだが、抑え気味の表現もなかなかのもの。
「ONLY FOOL IN TOWN」は、アップテンポのハード・ドライヴィング・ブルース。ゲイリーらしさが、最も良く出た一曲。ギター・ソロが熱い! へヴィメタ・ファンにもおすすめ。
「KEY TO LOVE」はジョン・メイオールの作品。ブルースブレイカーズの代表的ナンバー。
ここでのゲイリーのギターも、シブさ知らずなハッスル・プレイであります。
「JUMPIN' AT SHADOWS」では一転、メロウなスロー・ブルースの世界を追求。
ここでのゲイリーのヴォーカルって、フリートウッド・マックのそれに通じるものが非常に大きい。
実際、前作「STILL GOT THE BLUES」ではピーター・グリーンの書いたマック・ナンバー、「モタモタするな」をカヴァーしていたくらいだから、ピーター→ゲイリーの影響力は想像以上に大きいものがあるのだろう。
「THE BLUES IS ALRIGHT」は、おなじみのリトル・ミルトン・キャンベルの作品。
ブルース・コミュニティにとって一種の「象徴」みたいな曲だが、この名曲をテキサスの名ブルースマン、アルバート・コリンズを迎えて演奏しているのだから、ファンならずとも聴かないわけにいくまい。
おなじみのステディなビートに乗って、アルバート・コリンズのソロも披露されるが、やっぱり、彼のテレキャスターはスゴ~い音、してます。
ソリッドで一音一音、耳に突き刺さるようなプレイ、ホンモノは違いますな。
「THE HURT INSIDE」はちょっと聴いた感じではスティーリー・ダン風の、AORなミディアム・テンポ・ナンバー。あまりブルースっぽくはない。
ギター・プレイもどことなくジャジィで、ひたすらソリッド。他の曲とはだいぶん趣きが違っていて、面白い。
「NOTHING'S THE SAME」もかなり異色。抑え目の歌唱でマイナー・バラードを歌うゲイリーは、一聴、スティングふう。
コアなファンからはこんなのゲイリーじゃない!というブーイングも来そうだが、彼の音楽性の幅広さを示す例といえるだろうね。本人は十分、マジでやっていると思う。
ラストは、ひたすら重心の低いスロウ・ブルース「ALL TIME LOW」で締めくくり。
ギターのオブリがじつにカッコよろしい。もちろん、歌にもリキが入っていて、聴き応え十分。
ゲイリーはギタリストとしてばかり評価されがちだが、その歌もけっして悪くはない。もっともソウルフルな英国の白人シンガーといえば、スティーヴ・ウィンウッド、ヴァン・モリスンあたりが上げられるだろうが、ゲイリーもその流れの中で、もっと評価されてしかるべき人だと思う。
歌をうたい、かつギターを弾く。このふたつの行為が相互に影響し合って、ミュージシャンとしての「器」がより大きくなっていく、そういうものだと筆者は思っている。
ゲイリーもまた、ブルースをみずから歌うことで、音楽への理解を年毎に深めている、そういう人だと思う。
音楽に究極の完成形などはない。自分が歌いたい、演奏したい、そう思った音楽へ向かって、一歩一歩あゆみよって行く。その「姿勢」こそが、いい音楽の本質だと思う。
ゲイリー・ムーアの「ブルースへの道」は、われわれブルースを愛好する人たちのそれと、全く違いはない。
売れる売れないで選ぶのでなく、「自分のやりたいことをやる」、このピュアな姿勢を、同じブルース愛好者のひとりとして、筆者も大いに評価したいと思う。VIVE LES BLUES!!
<独断評価>★★★★