2005年9月25日(日)
#284 ジミー・ペイジ「OUTRIDER」(GEFFEN UK:WX155 924 188-1)
ジミー・ペイジのソロ・アルバム、88年リリース。彼自身のプロデュース。英国コッカムにての録音。
80年のZEP活動停止後は、映画「ロサンゼルス」のサウンドトラックを除けば、目立ったソロ・ワークのなかったペイジの、実質的なファースト・ソロ・アルバム。
ソロといってもペイジのこと、もちろん歌は他のヴォーカリストを招いて録っているのだが、今回はいずれも40年代生まれのベテラン・シンガーたち、ジョン・マイルズ(ジョン・マイルズ・バンド)、クリス・ファーロウ、そしてペイジの盟友、ロバート・プラントの三人をフィーチャーしている。
のっけから始まるへヴィーなギター・リフ、ミディアム・スローなビート、高音のシャウトがカッコよいのが「WASTING MY TIME」。ペイジと、ヴォーカルのジョン・マイルズの共作。
ジョン・マイルズの声は、ある意味、ZEP時代のプラントにも通じるシャープネスを感じさせて、なかなかいい。事実、ペイジはこの年、マイルズを擁したバンドでライブも行ったりしているので、相当彼のことを気に入っていたのだろう。
続く「WANNA MAKELOVE」もマイルズとのコラボレート・ナンバー。ミディアム・テンポで、重心が低く、アクセントのはっきりしたビート。
どことなくかつてのバンド、ザ・ファームに似たサウンドだ。ストリングベンダーとか使ってるし。
ドラムスは一曲目同様、この後ZEP再結成時にも参加した、ボンゾ・ジュニアことジェイスン・ボーナム。彼は父親ほどダイナミックでも、パワフルでもないのだが、オーソドックスにまとまったプレイを聴かせてくれる。
この曲でも、延々と繰り返される、重厚なギター・リフが印象的。「響き」がなんともよい。ペイジってほんと、リフ作りの名人だなと思う。イマイチなソロをとるよりは、ずっとリフだけを弾いていて欲しいくらい(笑)。
「WRITES OF WINTER」はインストゥルメンタル・ナンバー。ペイジのオリジナル。パーソネルは、ベースのダーバン・ラバード、そしてボーナム。
曲調はアップ・テンポに変わる。メロよりもリズム中心、映画のサントラふうといいますか、「ロサンゼルス」の延長線上にある音ですな。
ストリングスベンダーをはじめとする、多重録音。各種ギターによるさまざまなサウンドの試み、そんな感じである。
「THE ONLY ONE」は、アルバム中唯一、ロバート・プラントと共演したナンバー。
いってみれば本盤の「目玉」なのだが、もしあなたがパーシー・ファンで、この一曲だけのために本作を買おうかなと考えているとしたら、それはちょっとやめたほうがいいかなという感じ。
というのは、歌にどうも往年のキレが感じられないのだ。ペープラの近作のときにも書いたことなのだが、80年代以降のプラントは、シンガーとしてはピークを過ぎてしまったように思う。ZEP全盛時に、喉を酷使し過ぎてしまったためだろうか。
このナンバーでもプラントは、微妙に音程を外しているふうだし、いまひとつ切れ味がない。よほどジョン・マイルズのほうが出来がいい。
とはいえ、サウンドはかつてのZEP、それも「プレゼンス」あたりの後期ZEPをほうふつとさせるアップ・テンポのビート。まあこのへんを楽しめばいいかな、と。
A面ラストの「LIQUID MERCURY」は再び、インスト・ナンバー。ペイジの作品。
この手の演奏オンリーものは、「音楽」として楽しむには、ちと食い足りないという感がある。映像のバックに流れているというのならともかく。
ソロ部分は、やはりペイジなんで、そんなに巧いとはいえないし(苦笑)、ギター・インストだけで何曲も続けられても、正直しんどい。
というわけで、全編をインストで通さず、適宜ヴォーカルを配していったプロデュース法は正解だったと思う。
後半のトップ、「HUMMINGBIRD」でクリス・ファーロウ登場。曲はレオン・ラッセルの作品。B・B・キングの歌でおなじみのナンバー。
ファーロウの歌は、同じ高音系でもマイルズともプラントともかなりちがって、むしろ「シブい」雰囲気がある。彼らの中では、最年長(40年生まれ)だけに年期を感じさせるというか、歌に説得力がありますな。
彼の場合、ベースにあるのは、ハードロックというよりは、ブルース、R&B。そのへんの差ともいえそう。バックの演奏も、その違いをうまく把握していて、変にへヴィーにならず、オーソドックスなものに徹している。
「EMERALD EYES」は、ふたたびインスト。ペイジの作品。歌心さえも感じられる、メロディアスなナンバー。
アコースティック・ギターの演奏をベースに、エレクトリック・ギター、そしてギター・シンセサイザーを融合させた、ギター・オーケストラともいえる奥行きのある音がいい。
ことに、ほとんど生のストリングスかと聴きまごう、ギター・シンセの成熟したサウンドには驚かされる。
新しいテクノロジーを、進んで自分の音楽に取り込み、今までにない音楽世界を創出しようというペイジの積極的な姿勢、これは大いに評価していいと思う。
「RRISON BLUES」は、ペイジ、ファーロウ共作によるブルース・ナンバー。
この曲では、ファーロウの歌、ペイジのギターは、ともにハジけまくっている。
シャウトしまくるファーロウに負けじと、「HEARTBREAKER」ばりのクレージーなソロを弾きまくるペイジ。サイコーです。エンディングまで、一発録りのスリルが堪能出来る一曲。
ラストの「BLUES ANTHEM」は、カントリー調のバラード。ペイジ、ファーロウの共作。
しみじみとした味わいのあるメロディ、郷愁感漂う、ギター・シンセのアレンジ。
いささかオーバー・アクション気味の歌いかたではあるが、ファーロウの歌声は心にしみるものがある。「IF I CANNOT HAVE YOUR LOVE...」の歌詞とともに。
以上、名盤とか、傑作とか、そういうのではまったくないけれど、すぐれたプロデューサーにして初めて生み出しえる世界が確かにそこにあるので、この一枚、けっこう好きです。
むしろ、このアルバムの買い手の大半をしめる、ZEPファン以外にこそ、聴いていただきたい一枚。
本盤を聴くたび、常にファンの期待に応えて、良質の音楽をプロデュースしていくこと、その大変さ、そして素晴らしさを強く感じるものであります。
<独断評価>★★★