NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#269 ダリル・ホール&ジョン・オーツ「ベスト/リッチ・ガール~キッス・オン・マイ・リスト」(RVC RPT-8095)

2022-08-10 05:02:00 | Weblog

2005年5月5日(木)



#269 ダリル・ホール&ジョン・オーツ「ベスト/リッチ・ガール~キッス・オン・マイ・リスト」(RVC RPT-8095)

ダリル・ホール&ジョン・オーツ、初期のベスト・アルバム。81年リリース。日本のみ、カセットのみの特別企画。

ホール&オーツについて書き出すと、とんでもない字数になりそうなんで、今回はこの一枚というか、一本についてのみ書くことにしたい。

80年代の彼らは、まさに「向かうところ敵無し」状態。出す曲、出す曲がナンバーワンヒットだったのを思い出す。

そんな彼らの、初期ヒットも含めた81年までのベスト集。捨て曲など、まったくないのがうれしい。

トップの「キッス・オン・マイ・リスト」は80年リリースのアルバム「モダン・ヴォイス(VOICES)」からのシングル。ふたりの共作。

これが翌年、見事ビルボードでナンバーワンとなり、以降怒濤の快進撃が続くきっかけとなる。

軽快なリズム、そしてダリル・ホールの脳を直撃するようなハイトーン・ヴォーカルがまことに印象的。

ところでこの曲、タイトルから勘違いされやすいが、歌詞を読むにラブソングというより、恋人に愛想尽かしをした男の心境を歌ったようなんだね。

「リッチ・ガール」は、それに先立つこと3~4年前、77年に放ったスマッシュ・ヒット。ホールの作品。

アルバム「ビッガー・ザン・ボゥス・オブ・アス」からのシングル。日本でもヒットしたので、この曲で彼らの名前を覚えたリスナーも多いだろう。

彼らのサウンドルーツ、モータウンの音をぷんぷんと匂わせる一曲。この頃は、モダンな雰囲気はほとんど無かったなあ。でも良曲だと思う。

「キッス~」同様、女性に対してちょっとシニカルな詞が(モーホーっぽい彼ららしくて?)個性的であります。

「僕のポータブル・ラジオ」はふたりの共作。79年のアルバム「X-STATIC」から。

このあたりから、エレクトリック・ポップというか、ディスコ・オリエンテッドというか、時代の変化を意識した音になってきたような気がする。チョッパー・ベースとか、シンセの使いかたとか、今聴いても実にカッコいい。

「ふられた気持ち」は「モダン・ヴォイス」収録。ブルーアイドソウル・デュオの大先輩格にあたるライチャス・ブラザースのカヴァー。スペクター=マン=ウェイルチームによる作品。

オリジナルは掛け値なしの名曲だが、ホール&オーツも決して負けてはいない。ホールの高音、オーツの低音、それぞれのヴォーカルの個性を見事に生かした名唱である。

「バック・トゥゲザー・アゲイン」はオーツの作品。「ビッガー・ザン・ボゥス・オブ・アス」に収録。

アレンジとか聴くに、ストリングスの使いかたとか、サックスの入れかたとか、このころはまだサザン・ソウル色が強く、洗練度はイマイチであった。でも好きだけどね。

ホール&オーツといえば、当然、立役者はホールのほうだけど、こうやってオーツ・フィーチャリングな曲にもイカしたのが結構あるのがうれしい。

「世界は美しい」は、アルバム「X-STATIC」収録。ホールとサラ・アレン(「サラ・スマイル」でも歌われたホールの恋人、サラのことね)の共作。

ベースがガクンガクンと腰に来て、いやーなんともカッコええ。ファンク=ディスコ路線の中では一番好きな曲かも。

B面トップの「ウェイト・フォー・ミー」は、おなじく「X-STATIC」収録。ホールの作品。

バックのジェイ・グレイドンのギターが実に目立っている。いなたいソウル路線を一歩踏み出して、いま風に衣替えできたのは、グレイドンの功績大かも。

「ドゥー・ホワット・ユー・ウォント」はふたりの共作。「ビッガー・ザン・ボゥス・オブ・アス」に収録。

「リッチ・ガール」同様、まだまだ泥臭さが抜けない音作りですが、ふたりの歌のディープな絡みは素晴らしい。

「ユー・メイク・マイ・ドリームス」は「モダン・ヴォイス」収録。ホール、オーツ、アレンの共作。

かなりエレクトリック・ポップ色の強い一曲。メリハリのはっきりしたリズム。あまりメロディとか歌い口に味わいはないが、ディスコではウケそうな感じ。

「イッツ・ア・ラーフ」は、78年のアルバム「アロング・ザ・レッド・レッジ」から。ホールの作品。

このアルバムあたりから、ポップ化が進行したといえそう。グレイドンも、本作から参加するようになったんじゃなかったっけ。

ホールの高らかな歌唱ぶりがとにかくいい。ここから「キッス~」そして「プライヴェート・アイズ」での大ブレイクへの道のりは、ほんのわずかだ。

「想い出のメロディ」はオーツの作品。同じく「アロング・ザ・レッド・レッジ」収録。彼のシブい歌声、これもまたH&Oの魅力だ。

ヴォーカルデュオというと、勿論ふたりともちゃんと歌えないとダメなんだが、意外と双方の声質がカブっている場合が多い。

例えばケミストリーとかエグザイル、キンキキッズみたいに、よほどのファンでもない限り、どっちがどっちかよくわからんというケースが多いのだが、H&Oはその点、見事に個性の塗り分けが出来ている。

ホールの声をオーツと聴き間違える奴なんて、ありえないでしょ(笑)。

華のあるホールの影に隠れがちではあるが、オーツの歌もかなりうまい。ある意味、正統派のソウルシンガー然としているのは、オーツのほうかもしれない。

ソロ、掛け合い、ハモり、すべてオッケーで、しかも個性がまったくカブらない。彼らこそ、究極のデュオという気がするね。

さて、ラストは、本作中では最も初期のヒット、「サラ・スマイル」。ふたりの共作。75年、RCA移籍後初のアルバム「ダリル・ホール&ジョン・オーツ」に収録。

この当時は、ホールの歌いぶりも後のそれとはだいぶん違う。なんかまだ、か細い印象。自分のキャラが決まらなくて手探り状態、ってところですな。

でも、この曲は本当に名曲だと思う。ゆったりしたバックのサウンドに、優しく、しみじみとした情感のある歌。後のキレのいい歌声はそこには見られものの、素材としての良さ、みたいなものは隠しようがない。

いなたいアレンジも含めて、いとおしく感じられる一曲であります。

今でも活動は続けているものの、リリースは完全にマイペースになってしまったH&O。だが、80年代前半の活躍ぶりはまさに「ミラクル」と呼べるものがあった。

そしてその黄金期に彼らが生み出した作品群の充実ぶりは、ハンパなものではなかった。

今回紹介した「ベスト」は、当時の筆者の所蔵盤中ベスト3に入るへヴィー・ローテーション・アルバムだったが、ひさびさに聴いてみて、それも当然だったなと確信した。

歌、サウンド。H&Oに死角なし。やっぱ最高であります。

<独断評価>★★★★★