2005年9月11日(日)
#282 ウィッシュボーン・アッシュ「WISHBONE FOUR」(MCA MCAD-10350)
ウィッシュボーン・アッシュ、四枚目のアルバム。73年リリース。彼ら自身によるプロデュース。
前年あたりから、ライブ・バンドとしての評価をぐんぐんと高めて来た彼らだったが、スタジオ録音でも十分イケることを証明してみせた、会心の一枚。セールス的にも、一番成功している。
アッシュといえば、ツイン・リ-ド・ギターなど、その演奏力の高さばかり言及されがちのバンドだが、いやいやどうして、曲作り、歌ともに一流であることが、このアルバムを聴くとよくわかる。
オープニングの「SO MANY THING TO SAY」は、スライド・ギターのイントロが印象的なドライヴィング・ナンバ-。この曲でのキーポイントは、アコギなども交えたきめ細かいアレンジと、そしてなんといっても迫力あるヴォーカルだろう。
ものすごく上手いというのではないが、気合いが十分に伝わってくるような歌声。
アッシュは歌については、特に誰がフロントという感じでなく、ドラムのアプトン以外の三人が交互にリードをつとめ、他はそのハモやバック・コーラスにまわるという体制をとっている。たとえるならば、ビートルズのシステムに近い。
ほぼ全員が歌に参加して、声の細さ、アクの足りなさといった、個々の弱点をうまくカバーしあっている。バンドのヴォーカルとしてはある意味、理想の形態かもしれないね。
二曲目の「BALLAD OF THE BEACON」はフォーク/トラッド調のバラード・ナンバー。メロディ・ラインが実に美しい。
アッシュの曲は、歌詞の大半をベースのマーティン・ターナーが書き、メロディやアレンジは全員で作るという方法で生み出されている。
つまり、素材をもとに、スタジオ内のリハでそれを大きくふくらませ、熟成させていくのだ。ライブ・バンドという顔の一方、緻密なスタジオ・ワークをこなすバンドでもあったのだな、彼らは。
ここでのアコースティック・ギターの響き、クールなエレクトリック・ギターのソロは、たとえようもなく素晴らしい。もちろん、素人っぽさを残した、でも力一杯なコーラスも。
ライブ向きではないが、非常に完成度の高い一曲だ。
続く「NO EASY ROAD」は一転、ハードなロックン・ロール。(「ARGUS」にボーナス・トラックとして入っていた曲でもある。)ハイ・トーンでのシャウトがきまっている。
ピアノやホーンを加えて、かなりアメリカ・オリエンテッドな音になっているのにも注目。後半のサックスのブロウとか聴くと、ブリティッシュ・ロックの枠を大きくはみ出して来たなと思う。前作「ARGUS」と比べると、明らかに一皮むけている。
そう、アッシュは本作あたりより、「英国のバンド」から、「世界のバンド」へと脱皮を始めたのである。
次の「EVERYBODY NEEDS A FRIEND」は再びフォーキーなバラード。こちらもメロディアスな良曲だ。
アコギ、そしてストリングスを加えたソフトなアレンジ。ギター・ソロも特にツイン・リードを押し出すこともなく、普通に端正なプレイでまとめている。ある意味、ビートルズにも通じるところがある。
まあ、アッシュにハードなライブ・バンド・サウンドを期待しているファンにとっては、もの足りない音かもしれない。
しかし、これもまたアッシュの世界。彼らの音楽的な引き出しは、想像以上に多く、しかも大きいのだ。ミーハーなお子ちゃまたちにはちと、理解が難しいかな(笑)。
この曲、8分24秒と、ちょっと長過ぎるのが玉にキズかもしれないけどね。
続く「DOCTOR」は、前曲での欲求不満(?)を一気に晴らすかのような、はじけたロック・ナンバー。
もちろん、お家芸の迫力あるギターソロ、アンディとテッドの掛け合いもたっぷり味わえます。
中間部以降とか聴くと、結構のちのHR/HMによくありそうな展開。この一曲が後続バンドにも、少なからず影響を与えたと思われますな。
次はミディアム・テンポのバラード、「SORREL」。フォーキーなサウンドに、ツイン・リードが意外とうまくマッチしている。
ロックというより、むしろフュージョン(当時そのいいかたはなかったが)寄りのものすら感じる。後年、彼らがフュージョン的な方向へもむかったことを思い合わせると、ナットクがいったりして。
「SING OUT THE SONG」も、かなり大人向けの成熟した音作りの一曲。知らずに聴けば、間違いなくアメリカのバンドと間違えそうなカントリー調だ。
それこそ、CSN&Y、バンド、デッドあたりと並べて聴いても違和感がないくらい、他国の音楽を完全に消化している。
ここでは、テッド・ターナーがラップ・スティールをプレイしているのが、聴きもの。
ラストは、本作中唯一アプトンが歌詞を書いた「ROCK 'N ROLL WIDOW」。
タイトルにR&Rとあっても、サウンドのほうはかなり落ち着いた雰囲気の、ミディアム・テンポのバラード風ロック。メロディ・ラインには、哀愁すら漂っている。
マーティンのどこか素朴でまったりしたヴォーカルが、なかなかいい感じ。お世辞にも上手いとはいえないのだが、曲調にぴったり合っているように思う。
効果的に配されたテッドのスライド・ギターもいい。要所要所でサウンドをひきしめているキーパースンは、彼だったといえそうだ。それだけに、この後、彼が脱退したとの報を聞いたときには、かなりがっかりしたものだ。
とにかくこの一枚、キャッチーな曲作りといい、絶妙なアレンジといい、「味」で勝負のヴォーカルといい、完成度はおどろくほど高い。
ライブの素晴らしさはもちろんではあるが、ウィッシュボーン・アッシュ、そのスタジオ・ワークもなかなかあなどれない。「LIVE DATE」以上に彼らの音楽的実力が発揮された作品、それはこの「FOUR」なんじゃないかな。
<独断評価>★★★★☆