005年5月15日(日)
#270 ライトニン・ホプキンス「MOJO HAND」(COLLECTABLES COL-CD-5111)
ライトニン・ホプキンス、60年のアルバム。ニューヨーク録音。
この、ブルース史上余りにも有名な一枚については、ありとあらゆるブルース本、ブルースサイトで書き尽くされて来たので、今更筆者のような浅学の者が、シッタカを書いても無意味だろう。ただただ、音を聴いての感想のみ、書き留めることとしたい。
テキサス在住のライトニンを、ニューヨークでレコード店を経営していたボビー・ロビンスンが招いてレコーディングした一枚。ここにはブルースの魅力の「全て」があるといっても過言ではない。
まずは、タイトル・チューンの「モージョ・ハンド」。リスナーは、これでいきなり打ちのめされる。
歌詞からしてスゲーの一言。自分の恋人が他の男とデキちまわないように、ブードゥ教の本場、ルイジアナくんだりまで出かけていって、まじないをかけてもらうって、ワオ、何てこったい!って感じだ(笑)。
そして、そのドスのきいた渋~い歌声、大きなうねりを感じさせる、アコースティック・ギターの響き。一歩下がってライトニンをしっかりと支える、ウッドベースとドラムスのビート。圧巻としかいいようがないサウンドだ。
キメはやっぱり、ラストのセリフ「That's what I'm gonna do」だな。シ、シブ過ぎるぜ!
続く「コーヒー・フォー・ママ」は「モージョ・ハンド」に似た系統の、アップテンポのナンバー。
ここでも、ライトニンの、ワンアンドオンリーなギター・スタイルが堪能できる。
たとえていうなら、雲ひとつなく晴れ渡ったテキサスの青空。そのプレイには、迷い、ためらいといったものが全くない。
「オーフル・ドリーム」はスロー・テンポのナンバー。ライトニンの内省的にして攻撃的、地の底まで轟き渡るような歌声に、またもリスナーはノックアウトされる。これぞライトニン!といいたくなるヘビー級パンチ。
「ブラック・メア・トロット」は一転、軽快なテンポのシャッフル。ライトニンのカントリー・テイストのギターソロが延々と続くインスト・ナンバー。
ギターを弾く者なら一度はコピーしてみたくなるような、軽妙なフレーズが満載である。
「ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン」は、本盤では珍しくピアノをフィーチャーしたスロー・ブルース。
とにかく、ライトニンの歌唱が「圧倒的」のひとこと。その、魂を吐き出すかの如きシャウトを聴くうちに、心が震え出し、そしてそれが止まらなくなる。
ライトニン=ギター・サウンドというイメージが一般的だろうが、たまにはこういうふうにピアノをバックに歌われるのも悪くないなと思う。
「グローリー・ビー」は再びギター・トリオ・スタイルに戻っての、スロー・ナンバー。
独り言を呟くように、あるいは語るように歌うライトニン。ヴォーカルに施されたエコーが、実に効果的。彼の歌声の凄みをいやましにしている。
「サムタイムズ・シー・ウィル」はアップテンポ、「モージョ・ハンド」スタイルのナンバー。ここでのライトニンのギターも、まことにカッコよろしい。
カッティングでよし、ソロでよし。1弦から6弦まで巧みに使った、メリハリのきいたギター・サウンドには、ホント、憧れますな。
「シャイン・オン、ムーン!」はスロー・テンポのナンバー。ゆったりとしたビートでも、ライトニンのギター・プレイはだれることなく、ピシッと一本、筋が通っている。
ときどき脱線気味のフレーズを弾いたりするライトニン。リズムをハズしそう。でも決してハズさない。この絶妙なリズム感こそは、彼ならではのもの。他者がそう簡単に真似できるものではないね。
ラストの「サンタクロース」も、スローテンポの曲。この一枚を録音したのが11月だったことが関係しているのだろうか、珍しく時節ネタのブルースだ。
サンタクロースのプレゼントを楽しみにする子供たちの風景をヒントに生み出された、カジュアルな題材のブルース。なんとなく、ほのぼのとした気分にさせられる。
全編、「全身ブルースマン」ともいうべきサム・ライトニン・ホプキンスの、濃ゆ~い世界が広がっている。何度聴いてもあきることのない出来ばえ。
そのジャケットデザインも、強烈のひとこと。あまたあるブルースアルバムの中でも、ひときわ異彩を放っている。この拳に強打されたら、誰だってブルース中毒になるだろう、そんな一枚。
独自のビート感覚で、他の追随を許さないライトニン。筆者にとっても、永久不滅の憧憬の対象であります。
<独断評価>★★★★★