僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

草原のクンクー

2014年02月24日 | SF小説ハートマン



遠くで何かが啼いている。

そうか、ここにはクンクーが生息しているんだったな。


クンクー!


何頭かいるようだ。まだ本物にはお目にかかっていないが一度見てみたいものだ。遠視スコープに手をかけた時、突然地面に震動を感じて振り返る。
大きな物体が目前に迫ってくる。
ハートマンは瞬間的にハンディウエポンをホルスターから引き抜いた。


片膝をついてハンディウエポンを構えると、迫ってくるように感じたその大きな物体は実際は動いてはいなかった。

巨大なクンクーがハッシーを咀嚼しながらこちらを見ている。時折前足でハッシーの根元を掘るように地面をたたく。

いつからそこにいたのか。景色に溶け込んでいたので全く気付かなかった。
グリーンの濃淡まだらの体色、全身がきらきらと輝く半透明の体毛で覆われている。
体長は5メートルくらいあるだろう。地球の牛とカバをあわせたような体形だ。堅い表皮とその色は恐竜をイメージさせる。

だがまったくおとなしい、天敵がいないせいなのかも知れない。
体も大きいがその乳房もそうとうなものだ。クンクーの乳は栄養豊富でハッシーミルクとして製品化されている。
だがハッシーに含まれる麻薬成分のアルカロイドは当然のことながらクンクーの乳にも含まれている。
子どもには不向きのミルクだ。

よく見ると12-3頭の群のようだ。おとなしいと分かっていても、その大きさと風貌に圧倒される。
用心しながら近付いてみた。近付くにつれむっとするほどの体温を感じる。
この星の生き物は例外なく体温が高い。太陽光線を体に蓄えるシステムを持っているのだ。
体が緑色をしているのもその為だろう。
体温が平常で40度位と高いのは、夜に急激に低くなる気温に耐えるように自然に備わった生体のシステムなのだろう。

クンクーはハートマンなど全く意識に無いようだ。
そばによって体をたたいてみたが、その場を動こうともしない。

時折クンクー!と啼き仲間とコミニュケーションを取り合っているようだ。
その声はかなり大きいのだが、間近で聞いても遠くの声に聞こえる。


ギターみたいなやつだな。人間とは違う周波数の音で会話しているのか、驚いたもんだ。


地球で昔流行したと言われるクラッシックギターは、近くで演奏しても遠くで鳴っているように聞こえるといわれる楽器だ。
とにかくあの娘の手がかりを探そう。

今思えば名前くらい聞いておけば良かった…
ハートマンが離れるとそれを待っていたかのようにクンクーの群が移動を始めた。



























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想い出のステップ

2014年02月22日 | SF小説ハートマン
いい曲だね、一杯おごるよ。
何気ない風を装って声をかけた。コーラスガールは微笑みで応える。

ドリンクは何にする?何か元気の出るやつ教えてよ。
元気が欲しいのならハッシーミルクがいいんじゃない、C-3オーガニックファームのよ。私の故郷なの。

ハッシーミルクなら何度か飲んだことがある。麻に似た植物ハッシーだけを食べるほ乳類クンクーの乳だ。
ハッシーの葉にはアルカロイドの一種が含まれていて、それを大量に食べるクンクーの乳にも当然含まれる。
アルカロイドは麻薬成分なので、禁止ではないがこの星では成人の飲み物に指定されている。

クンクーはその名の通りクンクーと鳴く大型の動物で、ハッシーの草原に群れを作っているのだが、
野生のものでも近寄って搾乳することが出きるくらいおとなしく愛らしい生き物だ。
肉も利用できるのでC-3惑星ではクンクーを人工的に繁殖させて行う酪農が盛んだ。


じゃ、それホットで。

C-3惑星人は体温が高い。通常40度位だ。今までステージで踊っていたのだから今は45度位あるかも知れない。
肌が触れ合っているわけではないのに全身から温かい赤外線が感じられる。
ホットのハッシーミルクと彼女のおかげで、バイソンの酔いがまろやかにハートマンを包み込む。


踊ってくれるかい?
コーラスガールはOKの微笑みを返す。


フロアーに降りて彼女の腰に手を回す。
体温に乗って胸元からハッシーの蒸れた匂いが湧き上がってくるが、不快ではなくむしろずっと嗅いでいたいような気持ちだ。
ダンスは彼女が慣れた感じでリードする。

ハートマンはもう揺れているだけで幸せな気分だった。ハッシーが効いてきたのか…

ほほえんでいるコーラスガール。深いターコイズブルーの瞳。
ハートマンの残り少ない稼働脳細胞に一瞬パルスが走る。

ただ揺れているだけだと思っていたこのダンス。これはいつかミリンダが教えてくれたもの。

特別なあなたにだけ教えてあげるのよ、と言って笑っていたあの時のステップだ。
あたしのステップ、忘れちゃだめよ。これは私が生まれるずっと前からある特別なステップなの。
何度も何度も繰り返したあの、ミリンダのステップだ。
ハートマンの手に、足に、唇にミリンダの体温がよみがえる。


君、誰から教えてもらったんだ。このステップ。これはミリンダの・・・






















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PS-project

2014年02月21日 | SF小説ハートマン




宇宙の果て、銀河組織GEALMAによって地球クローンが作られようとしていた。

水、酸素、窒素、快適な温度、不快なものをすべて排除しデザインされた動物、植物たち。
「天国を体験できる!夢のリゾート」


しかし表面上の明るいアドコピーの裏でもう一つの計画が密かに、しかし着々と進められていた。

PS計画だ。
追伸計画と符号で呼ばれているペットサピエンス計画。
それは、宇宙各地から集められた宇宙人をペットとして改造し、報酬を支払えば何でも自由にできるようにしてしまうおぞましい計画だ。

簡単に言えば、安全を保障された環境での奴隷遊びだ。
絶対服従、暴力、破壊、SEX、殺人。
心の裏にある欲望を理性や他人の目、法律、そんな縛りからすべてを解放してやったとき人は何がしたいと思うのだろうか。


「あなたの素直な欲望を全て満たしてあげましょう。周りの目を気にする必要はありません。あなたのしたことを誰もとがめません。ノイローゼなんてバイバイ!スカッとやっちゃおう。何でもあなたの思いのまま。あんたはスペシャルゴッド!やっちまえ!」


ここに送り込まれる奴隷達は
あらゆる人種の要望に応えるために宇宙各地から異星人達が集められ、研究棟と呼ばれる改造室でで中枢神経のバイオ手術受けていた。

奴隷狩りを一手に引き受け法外な報酬を得ているのがGS-DS、そしてその組織を恐怖で仕切っているのがBBと呼ばれるサイココスマーだった。




パスワードをいくつか入力すると、GEALMAのロゴマークをバックに過激なアドコピーがモニターに現れた。
「あんたはスペシャルゴッド!やっちまえ!」

厳重な警備の目をぬってハートマンが潜入する。
左腕に埋め込んだバイオ・リストコンピュータがゲートロックのパスワードを見つけ確実に解除していく。


難なく最深部へ潜入することに成功した。アラームは鳴らない。
その部屋では研究員が数名、モニターを見つめながらマニピュレーターを操作をしていた。

ハートマンはそのモニターを見て思わず息をのんだ。

モニターが特殊なポットに全裸で横たわるミリンダの姿を映し出していたからだ。













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サイバークラブ

2014年02月20日 | SF小説ハートマン




客は全てアンドロイドか異星人のようだった。


バーテンが機械的に広げてみせるメニューに目をやる。

 「ギガトリップ」
これは体内を流れる合成体液を送り出しているバイオポンプを縮小させ、思考回路に届くイオンの状態を狂わせる。
要するにアンドロイドに心筋梗塞の状態を作り出し、脳を酸欠状態にしてしまうようなものだと思えばいい。

脳は異常を快復しようと通常発信しないパルスを断続的に出力するようになる。
アンドロイドにとってこの不安定な状態が、ある意味の陶酔感に変わるのだ。



 「ミクロバギー」
これは培養された細菌の一種だ。無防備な体内に入ると猛烈な勢いで繁殖する。
その時アルコールに似たエネルギーと性的興奮を起こすホルモンを多量に放出する。

こいつをやっているヤツは決まって汗をかき、目をぎらぎらとさせている。

免疫システムには弱いので一定時間のタイマーを組み込んだ免疫抑制剤をドリンクに混合して使う。



「トリプルチューン」
今は合成脳細胞専用なのであまりやっているやつはいないが、一昔前は人間の間にもアンダーグラウンド市場でかなり流行った。

不快な感覚を全てシャットアウトしてしまうレセプターが主成分の薬(ヤク)だ。
時間とともに非常にハイな気分になり際限がない。

そして限度を越すと戻れなくなる。かなりの宇宙人がそれで命を落としたと聞く。




「バイソン」
おう、ここにもあったか。

通称「原っぱ」と呼ばれる酒だ。
合成アルコールに地球のバイソン草で香りをつけたものだ。
ボトルに一本、乾燥した草の葉が入れてある、

その昔地球ではこの草は普通に自生しており、雑穀から作る蒸留酒に浸しておくと
透明な液体がうっすらと色づき、独特の香りが抽出されるので
安い割にうまいと人気の酒だった。

地球のものから培養された本物のバイソン草なら値段も高いが格別だ。


とりあえずそれを注文する。
隣ではもうべろべろにラリっちゃってるおやじ宇宙人が、もう一杯トゥーフィンガーでくれと、くだを巻いている。


客は皆いかれた連中だが、嘘はない。
この店の雰囲気は好きだ。
ハートマンはカウンターのいちばん隅のスツールに座り
時折話しかける無表情なバーテンダーに無表情な相づちを返しながら10分も経たないうちにすっかり溶け込んでいた。






約束の時間だ。

店を出て指定の場所へ向かう。




















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ヘルシードリンク

2014年02月19日 | SF小説ハートマン



置いてってくれ。

バーテンダーにそう告げて、あと2杯も飲めば空いてしまうボトルを引き寄せた。

ミリンダは医療チームによって隔離され、ハートマンでも3日間は会えないと担当チーフに宣告されていた。
経過だけでも知りたいと隔離ブースに足を運んでみたが、何度試してみても受付のモニターは冷たく[disable]を表示するだけだった。


今日はどうしたんだ、いつもの俺じゃない。


こんなに飲んだのは久しぶりだ。
左手首に目をやると、バイオ・リストコンピュータがプロパティ15%と表示している。
やれやれ、脳細胞の85パーセントはおねんねって訳だ。ま、たまにはいっか。

このまま酔いつぶれてしまえたらきっといい夢が見られるのだろう。

実際ハートマンはそうしようと思ってこの店に来たのだ。
彼のバイオ・リストコンピュータは彼自身の脳細胞、その稼働していない部分を使用している。
CPUは常に脳細胞のパルスを監視し、リアルタイムでニューロスキャンする事によって見つけ出した空き細胞をリザーブする。

あとは自分のパルスを自在に送り込んでそいつらを強制的に働かせるって寸法だ。
だがハートマン自身はそれを意識することはない。


まったく人間の脳ってやつはなんて大げさにできてるんだ。
持っている能力の30パーセントも使っていないなんて。
初めっから全部働かせることが出きれば本当はこんなバイオリストコンピュータなんていらないんだ。

自分の脳が自分で使いこなせないなんて変じゃないか、
これで人間は本当に進化した生物って言えるのか?


ハートマンは頬杖をついたまま最後のグラスを飲み干した。
後味の悪い酒だ。どうせ合成酒が何割かブレンドされてるんだろう。

ラベルさえブランドものなら中身なんて吟味するヤツはいない。
いつからそうなってしまったのか、酒はブランドネーム=値段だ。
ニヤニヤしたこの店員が店の裏でボトルの中身を入れ替えてるに違いない。

「玉付き」のボトルを注文すれば良かった、
こんな店にそれがあればだが…




もう帰ろう、

振り返ったその時、ライブステージで歌うコーラスガールの一人がじっとこちらを見ているのに気がついた。

歌いながらだが、じっとこちらを見て視線を逸らそうとしない。
何かを訴えかけているようだ。


ハートマンの残り少ない稼働中の脳細胞がメモリーの分析を始めた。

















イラスト「宇宙へつづく道」は 清水 航平君の作品です。 前橋市立笂井小学校6年生
















































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Fanky Jog

2014年02月18日 | SF小説ハートマン

頭の中を空にして一人ハートマンは走っている。
トレーニング専用に作られたジョギングチューブの中をひたすら走る。

速度はいつもの70%にセットした。
今日は少し長く走ろうと思ったからだ。


チューブはゴーグルをつけなくても360度の方向に好きな映像を描き出す
もちろん。これが「映像」と呼ぶにふさわしいかどうかは別の問題だが…

テンキーをいくつかたたくだけでどこでも走れると言うわけだ。

100年前のニューヨーク、朝霧に濡れたセントラルパーク
火星のコローニーによくある赤褐色のガイドアベニュー
エリジウムステーションの長い上り坂のような外周
馬が走る抜けるモンゴルの草原

今は、ラウンドサイトを地球№126にセットした。一番好きなサイトだ。 
これでジョギングチューブの左側がセイシャルブルーの海岸、右側がブリリアントグリーンの熱帯樹林になる。

アロマフレグランスの効果は人間の五感を完璧に欺く。
背後に並ぶコントロールパネルさえ見なければ、そこがバーチャルスペースだとは誰にもわからないだろう。

不可視光線オプションは限界ぎりぎりまで上げておいた。
フレッシュアップしたばかりの皮膚をチリチリと焼く紫外線も悪くない。


ミュージックチャンネルは女性ソウルににセットしたままだ。
いつも大好きなダイアナ・ロスのファンキィでグルービーな歌声から始まる。

しかし今日は足が重い気がする。
いつものように体がリズムを刻まないのだ。


ハートマンの心がまだ回復しきっていないせいかも知れない















※画像はあまりにきれいなのでつい黙ってお借りしてしまいました
 著作権の問題がある場合は速やかに削除いたします










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生命体

2013年11月09日 | SF小説ハートマン





あ、あのぅ、S3-E3、妙なことが起こっていますよ
移動する生命体です。
ひょっとすると知能を持っているかも知れないですよ。

近づいてくるようです
何か武器のようなものも持っている感じです
私のデータベースには安全に対処する選択肢が見つかりません…



なんだなんだ?
D-4QP、何のことを言ってるんだ

生命体だって?そんなものは歴史で習っただけで
現実にはいない、過去のお話だろう?








そう言えば私、最近夢をよく見るんです
私の記憶領域のどこかに、
100年くらい間に一緒に暮らしていた人間のゴーストが残っているのかも知れないって
ドクターに言われました

でもこれは、ゴ、ゴーストなんかじゃないです
本当にこっちに向かって来るんですって
ほら、武器を構えた!
わわわわっど、どうしましょう…


D-4QP、確認した
僕も以前一緒に仕事をしたことがあるヒューマンアンドロイドのサニーに
夢のことを聞いたことがあるよ

ハートマンに記録しているた映像データと分析結果を転送して
この星でも人間と遭遇したことを報告しておこう
そして、


そ、そして何ですか?


とりあえず死んだふりでもしておこう


し、死んだふりって?


バッテリーが切れたとか、回路がショートしたとか、何でもいいから
動いちゃいないんだと思わせるんだ!


あっはい。




くんくんくんくんっ 何か臭うぞ感じるぞ
太陽以外の赤外線も感じるぞ

人間だって?馬鹿なことを
そんな愚かな生き物はとっくの昔に滅びたはずだ










とにかく動かないことだ
生命とか機械とかに思われないように

そうだ、家具になっていればいい
もしかして座るかも知れない
そうなれば捕らえるのは簡単だ、、、
























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その向こうに

2013年02月26日 | SF小説ハートマン




何があるのだろう

「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」と川端は説明した
だが今、そこが雪国でないことは明白なことだ
宇宙に雪はない
そもそも水分が存在しないのだから

暗黒であるはずの宇宙が
何故まばゆく光り輝いているのか

光が何かにぶつかり、その結果輝きという可視光線に変化しているのだ
何かとは何か
それは物体であったり、空気であったりするのだが
この宇宙空間にそれはない
あるとすればダークマターなのだが
その存在が予測された時から
それは光の振動を妨げることは皆無とされてきた

つまりその

透明なガラスのようなもので
室内から窓の外を眺めると
風は入ってこないが
景色は全く変化無く見ることができる
といったものである

ガラスはあんなに硬い「物質」なのに
光は抵抗なく通す
ガラスに穴が空いているのかというと
そうでもない

何光年も離れているところから飛び出た光が
 光は秒速30万㎞×60秒×60分×24時間×365日×何光年ってどんだけ?
誰にも邪魔されずに飛んできて地球の人がそれを見て…

反対に、どこかで誰かが(何かが)
地球を見て考えているかも知れないじゃないか…



















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星降る夜に…③

2013年01月07日 | SF小説ハートマン





5つの音に誘われて全国から集まってきた人がいる
ある人は大型宇宙バスで
ある人は個人のスペースギアで
ある人は鉄道で








みな昔からの友達に再会したかのように微笑み
星に触れ、ハグすることで幸福感を味わうのだった









プロセッサーSAKAMOTOは
宇宙を満たすブラックマターの感覚そのものだ、
温かい触覚と音楽、可視光線、β電磁波の融合が
人の幸福遺伝子を刺激している、分析した








みんなに好かれる訪問者
エイリアンのイメージを一新する星たち








若田記念国際宇宙空港は幸福感に包まれている



かのように見えた…
















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星降る夜に…②

2013年01月06日 | SF小説ハートマン




地球に到着したと思われる物体からは
相変わらず光とβ電磁波が放出されていた

宇宙検疫隊が自衛隊とNASAの協力を得て監視を続けている

およそ72時間が経過した頃
物体から音が聞こえ始めた
それは正確に5つの周波数で順番に2秒間ずつ発せられ
3回鳴った後10分休むことを繰り返していた

テレビのニュースを見た子供が
昔の鉄道博物館で見たロマンスカーの警笛だ、と叫んだ

コミュニケーションを欲しているのかも知れない…

現場にSAKAMOTOが招集された
SAKAMOTOは日本生まれだが、宇宙通信音楽理論で世界的権威で
U&U(ユニバーサルユニバース:2050年ナスカに設立された宇宙大学)の特別委員の肩書きを持つ
星間音波がブラックマターの基盤だと初めて証明したことにより一躍有名になった


さらに72時間が過ぎると、
音は次第に小さくなり消えてしまうかに見えたが
物体の中心が白く形を現し始めていた

鳥か?








物体の一部が粘液のように広がったかと思った瞬間
人間の子どもと思われる生物が絞り出された
しっかりと直立し歩き始める…








歩いた後に奇妙な物が残されていた

卵なのか?








そして次々と成長を始めた異星人達
どこから?そして目的は?
SAKAMOTO教授の分析結果は?





つづく

































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星降る夜に…①

2013年01月06日 | SF小説ハートマン


さいたま市にある若田記念国際宇宙空港は
今日もC3-PAX惑星への出発便で混み合っていた





定位置に付いた隊員のひとりが
レーダーに光を感じた

この時間に航路を横切るデブリはないはずだが…








星の形をしたデブリは空気との摩擦で発熱し
七色に輝きながら地球に衝突した
いや、衝突と言うより着陸と言った方がいいかもしれない
通常感じるはずの衝撃波が全くなかったからだ

ソフトランディング?
隕石やデブリにしては何か変だ
誰もがそう感じた








着陸地点の回りに非常線が張られ
すぐに調査が始まった
異星からの訪問者だということは
表だっては誰も口にしないが
もう宇宙検疫官だけでなくみんな気付いていた








地球にはない不思議な素材でできている
指で押せばへこむほど柔らかく、ほのかに温かい
わずかだがβ電磁波を放出している




つづく












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思い出のシーン…トント②

2012年06月09日 | SF小説ハートマン
トントは突然ぼくにこう問いかけた。
「宇宙君、生命って何だと思いますか?」

僕は以前トントから教えてもらっていたDNAのことを思い出して
「自己複製のシステムを持っていること、でもウイルスみたいなヤツは違う。」
と答えた。
「そうですね、ウイルスは他人の細胞に入り込んで無理やり複製を作らせるシステムなので生命があるとは言えないですね。
でももう少し別の見方もあるんですよ。」

「そうなの?別の見方もあるの?生命って、生きてるってどうゆう事なの?」
トントは僕に玩具を見せながら言った。
直径が2㎝くらいのステンレス球が6個ブランコのようにフレームからぶら下がっている卓上の玩具だ。
オシャレなオフィスの家具コーナーでよく見かけるアレだ。

「今玉は全部止まっていますね、それじゃ宇宙君一番右にある球を1個だけ揺らして残りの球にぶつけてみてください。」
カチッカチッと球のぶつかる音がして、ブランコは左右に揺れる。

正確には揺れているように見える右の球が隣の球にぶつかった時、一番左の球が弾かれて左に飛び出す。
左の球が戻った時、今度は右の球が弾かれる。その繰り返しがしばらく続く。
真ん中にある4個の球は全く動かない。不思議な感じがする魅力的な玩具だが、物理の原則をはっきりとそこに示している。


「2個揺らすと反対側も2個揺れるんだよね、トント。」
「そうなります、楽しいですね。」
「何度やっても面白いけど、ねぇトントそれが生命とどんな関係があるの?」

僕はもどかしくなってトントに尋ねた。

「1個揺らした時、目の前にある動かない球はいくつですか?」
「4個だよ。」
「いつもですか?」
「いつもだよ。違う球になるけどね。」
「宇宙君、それです。」
トントは玩具から離れて、体を構成している細胞の話とルドルフ・シェーンハイマーという科学者が行った実験のことを話し始めた。


彼は食べ物に含まれる窒素に特殊な方法で印を付けた。
その後その食べ物が消化されどうなるか成熟したネズミに3日間だけ餌として与え実験してみたのだ。
原子の直径はおよそ百億分の1メートル(オングストローム)生きている細胞も原子で出来ているが、その直径は大体30万~40万オングストローム、もちろんどちらも肉眼では見ることができない。
そんな小さな物が集まって人間の体も草も石ころも全てのものが構成されている。
この手も足も爪も涙さえも小さなつぶつぶの集合体だ。

ところでその食べ物はどうなったか。
もちろん体内で消化されたのだが、排泄された糞も尿も血液も内臓も全てを顕微鏡で詳細に調べてみたところ、驚くべき事が分かった。

当初窒素は栄養素として体内に吸収された後エネルギーとして使われ、燃えかすとなって尿中に排出されると考えられていたのだが、実際は排出された窒素は与えられた量の30%にもならずほとんどが体内に蓄積された。
しかもその場所は脂肪ではなく、体の臓器全てに入り込んでいたのだ。

その間ネズミの体重には全く変化がなかった。
つまり食べた食物の原子は体の一部になり、いままでそこにあった体の原子は体内に捨てられたということだ。


全ての物質は空気さえもそうだが、原子というつぶつぶで出来ている。
生物は食物を体外から取り入れ、そのつぶつぶを今まで使っていたつぶつぶと入れ替えているのである。

砂丘の砂粒に似ているかも知れない。

砂丘にある砂は風により毎日移動してその姿を変えるが、全体としての砂丘は依然としてそこにある。
ただ砂丘が生命活動と決定的に違うところは、全体としての姿を全く変えずにその中身だけを毎日取り替えているというところだ。

シェーンハイマーはそのことを「ダイナミックスタイル=生命の動的な状態」と呼んだ。















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思い出のシーン…「トント」

2012年06月08日 | SF小説ハートマン
「宇宙、いらっしゃい。」
気がつくとママがそばに立っていた。

「餃子作るの手伝って。」
僕の肩を抱いて台所へ連れて行った。

丸い餃子の皮に具をスプーンで取り、指で水をつけながら包んでいく。
ヒダを上手に作れるようになって僕の大好きなお手伝いになった。
いつもママと楽しい会話をしながら競争で作る。

上手になる前、僕の作った餃子はすぐに分かってお父さんにも笑われたものだった。
「これは爆発したのか?それともワンタンなのか?」

今はママとほとんど変わらない形に包める。

「うーむ、お前は料理の鉄人になれるかも知れない…」
なんてお父さんに言われたこともある。

そんな楽しいはずのお手伝いにも今日は手が動かなかった。
ママが5個作る間に僕は何とか1つ、しかも形になっていない。

ただ涙が落ちるのを必死にこらえていた。

ママは一人でしゃべっていた。

「餃子はねキャベツだけじゃなくて白菜も入れるのよ、中国人のお友達が教えてくれたの。
その人今度ね小龍包も肉まんも教えてくれるって。
ママ習ってきたら宇宙にも教えてあげるからね。宇宙は鉄人だからすぐに上手になるわよ。
ショウロンポウっていうのはね、小さい肉まんみたいな物だけど、中にスープの煮こごりみたいのを入れてね、煮こごりって知ってる?…」

ママは一人でしゃべり続けていた。

僕が黙っているのに、どうしたの?って聞かないでいつも通りどんどん餃子を作り続けた。

僕はこらえきれなくなってママに抱きついた。
わぁーんと大声を上げて泣いた。
ママは僕の背中を何度も何度もそっとなでながら抱いていてくれた。 














  
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ハートマン番外編…林をぬけて

2012年02月19日 | SF小説ハートマン


任務ではない久しぶりの単独行動だ。


宇宙(ひろし)は2ヶ月あまり続いたセクションでの強化訓練を終え
気力が充実していた。

しばらく地球に戻って温泉にでも入ってこい

そう言われて定期便に乗ってはみたものの
何故か胸騒ぎが収まらずその便でここに戻ってしまった。


やはりそうだ。


植物にはハンディウエポンで焼かれた跡がくっきりと残っている。








原子力施設に侵入する









赤外線センサーが増やされている
通常のエネルギー施設ならこんな事はあり得ない。

宇宙(ひろし)は確信した。

さらに奥へ侵入を続ける










おっと危ない
植物に擬態した触覚センサーだ。

ゆらゆらとうごめくコイツにうっかり触れようものなら
四方から細く絞られたレーザービームが降り注ぐはずだ








こんな威嚇は子供だましだ
だが、うっかり近づかない方がよい
決まって何かトラップが仕掛けられているものだ

宇宙(ひろし)は気配を消した。
このまま暗くなるのを待つしかないのか…


数分もしないうちに
植物たちの一角がうっすらと明るくなる
スパッスパッっと微かな音
ダクトを廃棄物が通過する時特有の音だ
続いてズサッと何かが投げ出される音


行き場のない核廃棄物が
あの事故から100年も過ぎているというのに
未だに問題を起こしている

またか
宇宙(ひろし)は拳を握りしめた。









不法投棄だ。





























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ハートマンのスーパー授業「素粒子」

2011年10月25日 | SF小説ハートマン



なぁ宇宙(ひろし)、聞いてるか?




人間の体は細胞が集まってできてるのは知ってるな

人間が仮に1㍍だとすると
細胞は10万分の1㍍だ


細胞はそれぞれ分子で構成されている
ものは何でも分子でできているっていうのも知ってるな

分子はいくつかの原子が集まってできてるんだ
水は H2O ヘリウムが2個と酸素が1個だ
スイヘイリーベボクノフネ…って覚えたあれだ

天然ウランが自然界では一番でかい原子なのだが
最近は人間がいろんな原子を勝手に作り出したりしてる
原発からは自然界ではあり得ないものが沢山作られる

それはそれとして
原子は何でできてるんだ?


原子だから全てのものの元!
一番小さい単位だ!
って昔の人は思ったんだよ

ところがそうじゃなかった

原子の中心に原子核があってその周りを電子が飛び回っている
原子核は原子の10万分の1くらいでその周りにある電子は
1秒間に6600兆かい原子核の周りを回っている

らしい…

これでおしまいかと思ったら
原子核は陽子と中性子で出来ていた

へぇ~っ

と思ったらまだ先があった
原子核を壊してみたら(どうやって壊すのか?)
中からクォークとレプトンが出た!

レプトンはいくつかのニュートリノで出来ているらしい…

そんなもんどうして分かるんだ?
分かるようにやってみたのが
これ
スーパーカミオカンデなんだ



ちっこい粒の一つ一つがこれ



東海村から神岡鉱山に素粒子を毎日毎日打ち込んで
その内の5億個に1個くらいが反応するんだそうだ
素粒子を発射する為の電気代が
年間50億円もかかるんだ

でもこの実験は今のところ世界一!
2位じゃダメなんですよ。

なぁ宇宙(ひろし)分かったかい




















 
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