下校時、偶然留美子とふたりになった。
「辰雄君ってクモとかゴキブリとか好きなの?」
「ゴキなんか好きなわけないだろ」
「だってあの時怒ってたでしょう、辰雄君」
「つぶしたくなくて怒ってたんじゃないよ」
「そうなの、でも何か怒ってた気がする」
「今出てきちゃダメだろって思っただけ。意味なく出てくんなって思ってたかも」
「じゃぁクモが好きなんだ」
「んー。クモは特別好きじゃないけど嫌いでもない」
「へーぇ、気持ち悪くないの?」
「クモはさ悪い虫とか食べてくれるんだぜ、いい虫だよ。見つけたからって殺すことないだろ」
「家なんか出てきたら絶対殺しちゃうな、こないだなんか掃除機で吸い取っちゃったし」
「そんなに気持ち悪いかなぁ、大型のクモなんかゴキブリ捕まえちゃうんだよ」
「えぇー?そうなの、ふーん」
「辰雄君に見つかったクモは幸せだね」
「幸せってほどでもないだろ」
「絶対幸せだよ、生きられるんだから。あのクモ、あれから何処行ったかなぁ」
その時留美子はそう言い、口をキュッと結んでひとりうなづいていた。
「辰雄君ってクモとかゴキブリとか好きなの?」
「ゴキなんか好きなわけないだろ」
「だってあの時怒ってたでしょう、辰雄君」
「つぶしたくなくて怒ってたんじゃないよ」
「そうなの、でも何か怒ってた気がする」
「今出てきちゃダメだろって思っただけ。意味なく出てくんなって思ってたかも」
「じゃぁクモが好きなんだ」
「んー。クモは特別好きじゃないけど嫌いでもない」
「へーぇ、気持ち悪くないの?」
「クモはさ悪い虫とか食べてくれるんだぜ、いい虫だよ。見つけたからって殺すことないだろ」
「家なんか出てきたら絶対殺しちゃうな、こないだなんか掃除機で吸い取っちゃったし」
「そんなに気持ち悪いかなぁ、大型のクモなんかゴキブリ捕まえちゃうんだよ」
「えぇー?そうなの、ふーん」
「辰雄君に見つかったクモは幸せだね」
「幸せってほどでもないだろ」
「絶対幸せだよ、生きられるんだから。あのクモ、あれから何処行ったかなぁ」
その時留美子はそう言い、口をキュッと結んでひとりうなづいていた。
ホームルームが始まる前だったと思う。窓際にクモが一匹降りてきた。
誰かが窓のカーテンを引いた時、ツーッとぶら下がったのだ。
小型のクモだったが例によって女子の誰かが「キャーっ」と声を上げた。
みんなが一斉に振り向き窓際の数人が椅子を倒したり机にぶつかったりしながら逃げた。
近くにいた辰雄はクモを見つめる数人をかき分け前に出ると両手でクモを生け捕りにした。
「そこの窓開けて!」
辰雄が言うと窓際の女子が急いで手を伸ばしたがサッシにカギが閉められていて開かなかった。照れ笑いしながら開け直す窓に辰雄は閉じ込めていたクモを解放し、戻ってこないうちにすぐに閉めた。
みんなの視線が集まる中、右手で○のサインを作った。
「オッケーでっす。クモは悪い虫じゃないからね」
そう言って席に戻った。
留美子は辰雄の肩をポンポンと2回叩いてねぎらった。
誰かが窓のカーテンを引いた時、ツーッとぶら下がったのだ。
小型のクモだったが例によって女子の誰かが「キャーっ」と声を上げた。
みんなが一斉に振り向き窓際の数人が椅子を倒したり机にぶつかったりしながら逃げた。
近くにいた辰雄はクモを見つめる数人をかき分け前に出ると両手でクモを生け捕りにした。
「そこの窓開けて!」
辰雄が言うと窓際の女子が急いで手を伸ばしたがサッシにカギが閉められていて開かなかった。照れ笑いしながら開け直す窓に辰雄は閉じ込めていたクモを解放し、戻ってこないうちにすぐに閉めた。
みんなの視線が集まる中、右手で○のサインを作った。
「オッケーでっす。クモは悪い虫じゃないからね」
そう言って席に戻った。
留美子は辰雄の肩をポンポンと2回叩いてねぎらった。
辰雄は素早く右足の上履きを脱ぎ、それを打ち下ろした。
「わぁ」とも「おぉ」ともつかないどよめきが起こり、続いて拍手が爆発した。
逃げ惑っていた女子達ははらわたが飛び出してもう一歩も動けないゴキを確認する為に寄ってきた。
男子達は「ざまーみろ」とか「きもわりー」とか言いながら席に戻っていった。
みんなが見つめる中、美津子先生がティッシュを10枚くらい重ねて持ち後始末をした。
ゴキの体液が付いた上履きを履こうかどうしようか迷っている辰雄に
留美子がポケットティッシュを3枚引き抜いてそっと渡したのは誰も見ていなかった。
授業が再開されてもまだざわついている教室で、女子達は憮然とした表情の辰雄を尊敬と奇異の目で見た。
突然ですがトマトつぶしのドミノ倒しだよ ←クリック
「わぁ」とも「おぉ」ともつかないどよめきが起こり、続いて拍手が爆発した。
逃げ惑っていた女子達ははらわたが飛び出してもう一歩も動けないゴキを確認する為に寄ってきた。
男子達は「ざまーみろ」とか「きもわりー」とか言いながら席に戻っていった。
みんなが見つめる中、美津子先生がティッシュを10枚くらい重ねて持ち後始末をした。
ゴキの体液が付いた上履きを履こうかどうしようか迷っている辰雄に
留美子がポケットティッシュを3枚引き抜いてそっと渡したのは誰も見ていなかった。
授業が再開されてもまだざわついている教室で、女子達は憮然とした表情の辰雄を尊敬と奇異の目で見た。
突然ですがトマトつぶしのドミノ倒しだよ ←クリック
学校にゴキブリが現れた。
ゴキなど珍しくもないのだが、丁度音楽の授業中だったので教室は騒然となった。
キャーッキャーッと必要以上に大声を出して逃げ惑う女子達。
どこだどこだと集まってくる男子達。
集まってきたからといって退治するだけの勇気もなく、ひたすら「あっちだ」とか「そこだ!」とか情報提供をもっぱらの役割と決め込む奴が多かった。
辰雄は「こんな人間の多いところにどうして出てきたんだ、本当にバカなゴキだな。夜まで待てばお前達の時間なのに」と冷静に思っていた。こんな事で大好きな美津子先生の授業が中断される方がよほど嫌だったのだ。
「そっち行ったぞー」
長池のひときわ大きい声で床を見ると、正に辰雄の足元へカサカサと逃げてくるところだった。
こいつらは家の台所など者の多いところならあっという間に隙間に逃げ込めるのに、教室では隙間がない。
何より何十人の人間を前にしてはよほど巨大化しない限り対等に戦うことはできない。せめてカブト虫くらいの大きさであのスピードを持っていれば無敵かも知れない。
実際沖縄にいるゴキは小型カブト虫ほどの大きさなのだが、残念なことにスピードがない。のそのそと歩くので人類の敵と言うよりむしろ愛らしく、飼育箱をカブト虫とシェアーして仲良くゼリーをすすっていたりすると聞く。
とにかくそいつは辰雄に向かってきた。
虫好きの辰雄に助けを求めてきたのかも知れなかったのだが…
ゴキなど珍しくもないのだが、丁度音楽の授業中だったので教室は騒然となった。
キャーッキャーッと必要以上に大声を出して逃げ惑う女子達。
どこだどこだと集まってくる男子達。
集まってきたからといって退治するだけの勇気もなく、ひたすら「あっちだ」とか「そこだ!」とか情報提供をもっぱらの役割と決め込む奴が多かった。
辰雄は「こんな人間の多いところにどうして出てきたんだ、本当にバカなゴキだな。夜まで待てばお前達の時間なのに」と冷静に思っていた。こんな事で大好きな美津子先生の授業が中断される方がよほど嫌だったのだ。
「そっち行ったぞー」
長池のひときわ大きい声で床を見ると、正に辰雄の足元へカサカサと逃げてくるところだった。
こいつらは家の台所など者の多いところならあっという間に隙間に逃げ込めるのに、教室では隙間がない。
何より何十人の人間を前にしてはよほど巨大化しない限り対等に戦うことはできない。せめてカブト虫くらいの大きさであのスピードを持っていれば無敵かも知れない。
実際沖縄にいるゴキは小型カブト虫ほどの大きさなのだが、残念なことにスピードがない。のそのそと歩くので人類の敵と言うよりむしろ愛らしく、飼育箱をカブト虫とシェアーして仲良くゼリーをすすっていたりすると聞く。
とにかくそいつは辰雄に向かってきた。
虫好きの辰雄に助けを求めてきたのかも知れなかったのだが…
「座れや、ほれ、いいから座らせてもらえや」
大きな声だったので
座席に座っていた中年の婦人と疲れた(みたいな)人も顔をあげました。
「そこ座らせてもらえ」
有無を言わせぬその口調に
思わす2人は席を立ちました。
青白い学生はずるずると崩れるように
(見ようによってはポールダンサーのように)
座席に崩れ落ちていきました。(のですが)
2人分の席に斜めになってとりあえず座りました。
(というか全く不自然に斜めって止まりました)
「どや兄ちゃん、大丈夫か?」
お兄ちゃんの方はと言えば
斜めに固まったまま声の主を見つめています。
ありがとうともすみませんとも言葉が出ません。
それはもう青白く固まっているのです。
そんな彼を回りで10人くらいの乗客が
これもまた固まった状態で見つめているのです。
昨日食った焼き肉、うまかったぁ。。。
こんなん食えばお兄ちゃんも元気出るのになぁ
さて、どうなるのでしょう?
完全にメタボチック50ハゲさんのペースで
時間はながれているのです。
まもなく終点、乗り換え駅に到着します。
大きな声だったので
座席に座っていた中年の婦人と疲れた(みたいな)人も顔をあげました。
「そこ座らせてもらえ」
有無を言わせぬその口調に
思わす2人は席を立ちました。
青白い学生はずるずると崩れるように
(見ようによってはポールダンサーのように)
座席に崩れ落ちていきました。(のですが)
2人分の席に斜めになってとりあえず座りました。
(というか全く不自然に斜めって止まりました)
「どや兄ちゃん、大丈夫か?」
お兄ちゃんの方はと言えば
斜めに固まったまま声の主を見つめています。
ありがとうともすみませんとも言葉が出ません。
それはもう青白く固まっているのです。
そんな彼を回りで10人くらいの乗客が
これもまた固まった状態で見つめているのです。
昨日食った焼き肉、うまかったぁ。。。
こんなん食えばお兄ちゃんも元気出るのになぁ
さて、どうなるのでしょう?
完全にメタボチック50ハゲさんのペースで
時間はながれているのです。
まもなく終点、乗り換え駅に到着します。
仕事帰りの電車の中でした。
そんなに混み合う時間帯ではなく、座席とつり革がほぼいっぱいくらいでした。
私は入口から3番目くらいのつり革につかまってあと数駅、
降車駅の薬局で買う予定のものを思い出していました。
今日はポイント5倍デーだったからです。
ふと見ると入り口横の手摺りにもたれるように男子高校生がいました。
2つほど前の駅にある市立高校だと制服で分かりました。
青白い顔してるなぁ、と思いました。
この時間に乗り込んでくる高校生は、ほとんどが部活の帰りで
女子も男子も菓子パンやスナック菓子を食いながら
ぺちゃくちゃとどうでもいいおしゃべりをしているのですが
みんなもうフィリピン人か
1ヶ月くらい風呂に入ってないのかと思うくらい真っ黒い顔をしているからです。
ちょっと気になって見ていると、本当に青白い。
やがてこめかみに冷や汗が・・・
をいをい、気分悪いのか貧血か、あぁ自分も経験あるけど我慢できるかなぁ
と心配になりました。
我慢してないで座っちゃいな座っちゃいな、
カッコなんかどうでもいいから
うずくまっちゃった方が楽だよ、ほら
そう思って見ていました。
目の前の座席はかなり年配の婦人と
これもかなりくたびれた(失礼)おやじが
うつむいて座っています。
多分寝ているのでしょう。
その時、
私の隣でつり革につかまっていた男性
完全にメタボチックな体型に50%位のハゲ頭
多分正面から出会ったら避けるであろうと思われる
30代そこそこの、お兄さんとおやじの中間くらいの人が
声を上げました。
「おい、兄ちゃん!」
そんなに混み合う時間帯ではなく、座席とつり革がほぼいっぱいくらいでした。
私は入口から3番目くらいのつり革につかまってあと数駅、
降車駅の薬局で買う予定のものを思い出していました。
今日はポイント5倍デーだったからです。
ふと見ると入り口横の手摺りにもたれるように男子高校生がいました。
2つほど前の駅にある市立高校だと制服で分かりました。
青白い顔してるなぁ、と思いました。
この時間に乗り込んでくる高校生は、ほとんどが部活の帰りで
女子も男子も菓子パンやスナック菓子を食いながら
ぺちゃくちゃとどうでもいいおしゃべりをしているのですが
みんなもうフィリピン人か
1ヶ月くらい風呂に入ってないのかと思うくらい真っ黒い顔をしているからです。
ちょっと気になって見ていると、本当に青白い。
やがてこめかみに冷や汗が・・・
をいをい、気分悪いのか貧血か、あぁ自分も経験あるけど我慢できるかなぁ
と心配になりました。
我慢してないで座っちゃいな座っちゃいな、
カッコなんかどうでもいいから
うずくまっちゃった方が楽だよ、ほら
そう思って見ていました。
目の前の座席はかなり年配の婦人と
これもかなりくたびれた(失礼)おやじが
うつむいて座っています。
多分寝ているのでしょう。
その時、
私の隣でつり革につかまっていた男性
完全にメタボチックな体型に50%位のハゲ頭
多分正面から出会ったら避けるであろうと思われる
30代そこそこの、お兄さんとおやじの中間くらいの人が
声を上げました。
「おい、兄ちゃん!」
紫陽花たちと洋館をバックに写真を撮った。
逆光に留美子の髪が輝いていた。
辰雄は左手でフードを作りレンズに光が入らないようにした。
絞りを二段開けて4にした。
水色の紫陽花もいっぱい写るように留美子が少し左に寄る構図に決めた。
ピントは慎重に合わせ、ファインダーの中の留美子に呼びかけた。
「撮るよ」
ふんわりとぼけた洋館の前で紫陽花に手を伸ばした留美子が髪を金色に輝かせて微笑んでいる。
その写真だけはいつものサービスサイズではなくキャビネに伸ばして2枚プリントした。
1枚はサンキューと留美子に、もう一枚はすごくいいポートレイトだと誉めてくれた岡田さんにありがとうと言って渡した。
逆光に留美子の髪が輝いていた。
辰雄は左手でフードを作りレンズに光が入らないようにした。
絞りを二段開けて4にした。
水色の紫陽花もいっぱい写るように留美子が少し左に寄る構図に決めた。
ピントは慎重に合わせ、ファインダーの中の留美子に呼びかけた。
「撮るよ」
ふんわりとぼけた洋館の前で紫陽花に手を伸ばした留美子が髪を金色に輝かせて微笑んでいる。
その写真だけはいつものサービスサイズではなくキャビネに伸ばして2枚プリントした。
1枚はサンキューと留美子に、もう一枚はすごくいいポートレイトだと誉めてくれた岡田さんにありがとうと言って渡した。
鎌倉の閑静な住宅街を歩いていた。
キャピキャピわいわい大声でしゃべり続けていた女子達も、まだ乾ききっていない歩道や車のほとんど通らない道を歩くうちに穏やかな話し声になっていた。
「木がいっぱいだね」とか
「あそこに咲いているきれいな花、何だろう?」とか
「こんな家に住んでみたいな」等と
町の空気をかき回さないように小さな声で話した。
どんなに小さな声で話しかけても7人全員に聞こえ、みんな
「うん」とか
「すてきだね」とか
無言でうなづくかしていた。
道ばたにあった小さなお地蔵様を写そうとしている間に辰雄は仲間と少し離れてしまった。
次の目的地は分かっていたので慌てて追いつこうとはせずに、その時見えた紫陽花の咲いている家の方へ回ってみた。
うっそうと茂る木々の奥が緩やかな高台になっていて、そこに大正時代を思わせる洋館があった。
洋館の正面に回ると一面紫陽花の花が溢れていた。
まだ咲き始めて何日も経っていないらしく、紫になりきらない水色の花だったが、昨日の雨をたっぷりと吸ってそれぞれが思い切り背伸びをしているようだった。
紫陽花の水色をかき分けるようにして何歩か進むと人影が見えた。
突然現れた人影に辰雄は驚いて足を止めた。人影が振り向いた。
留美子だった。
「あっ留美子」
「辰雄君?」
辰雄は歩み寄り、洋館を見上げている留美子の横に並んで立った。
「素敵ね」留美子がつぶやいた。
「うん、すごい」
並んだまましばらく無言でいた。
「留美子」
「ん?」
「俺、留美子が好きだ」
自分でも不思議なくらい自然に言葉が出た。
留美子は洋館を見つめたまま答えた。
「うん、知ってる」
注:画像はここからおかりしたものです。
http://www.kindaikenchiku.com/kamakura/kamakura.htm
キャピキャピわいわい大声でしゃべり続けていた女子達も、まだ乾ききっていない歩道や車のほとんど通らない道を歩くうちに穏やかな話し声になっていた。
「木がいっぱいだね」とか
「あそこに咲いているきれいな花、何だろう?」とか
「こんな家に住んでみたいな」等と
町の空気をかき回さないように小さな声で話した。
どんなに小さな声で話しかけても7人全員に聞こえ、みんな
「うん」とか
「すてきだね」とか
無言でうなづくかしていた。
道ばたにあった小さなお地蔵様を写そうとしている間に辰雄は仲間と少し離れてしまった。
次の目的地は分かっていたので慌てて追いつこうとはせずに、その時見えた紫陽花の咲いている家の方へ回ってみた。
うっそうと茂る木々の奥が緩やかな高台になっていて、そこに大正時代を思わせる洋館があった。
洋館の正面に回ると一面紫陽花の花が溢れていた。
まだ咲き始めて何日も経っていないらしく、紫になりきらない水色の花だったが、昨日の雨をたっぷりと吸ってそれぞれが思い切り背伸びをしているようだった。
紫陽花の水色をかき分けるようにして何歩か進むと人影が見えた。
突然現れた人影に辰雄は驚いて足を止めた。人影が振り向いた。
留美子だった。
「あっ留美子」
「辰雄君?」
辰雄は歩み寄り、洋館を見上げている留美子の横に並んで立った。
「素敵ね」留美子がつぶやいた。
「うん、すごい」
並んだまましばらく無言でいた。
「留美子」
「ん?」
「俺、留美子が好きだ」
自分でも不思議なくらい自然に言葉が出た。
留美子は洋館を見つめたまま答えた。
「うん、知ってる」
注:画像はここからおかりしたものです。
http://www.kindaikenchiku.com/kamakura/kamakura.htm
確かに辰雄は『撮りまくった』
けれどやたらに撮るのではなく一枚一枚構図も光線も考えながら撮った。
その結果、
フィルムの密着プリントで焼き増しする写真を選ぶ時不要なカットは一枚もなく、
プリント代を計算して途方に暮れることになった。
辰雄はサービスサイズに収まった写真を見て大喜びするモデル達に気前よくただで配った。
もちろん一眼レフ貯金を取り崩したことを悔やんでもいなかった。
一枚一枚の写真は楽しかったあの時間を何度でも再現してくれる。
写った写真が動くことはないが心の中で自由に動き、
シャッターボタンを押す瞬間の息苦しさに似た喜びもまた何度でも味わうことができる。
けれどやたらに撮るのではなく一枚一枚構図も光線も考えながら撮った。
その結果、
フィルムの密着プリントで焼き増しする写真を選ぶ時不要なカットは一枚もなく、
プリント代を計算して途方に暮れることになった。
辰雄はサービスサイズに収まった写真を見て大喜びするモデル達に気前よくただで配った。
もちろん一眼レフ貯金を取り崩したことを悔やんでもいなかった。
一枚一枚の写真は楽しかったあの時間を何度でも再現してくれる。
写った写真が動くことはないが心の中で自由に動き、
シャッターボタンを押す瞬間の息苦しさに似た喜びもまた何度でも味わうことができる。
「う~っ」
「どうしたの?」
「う~っ」
「苦しいの?」
「う~~っ」
「嬉しいの?」
「う~~~っ」
「なんだよ」
「う~っ」
「歌うのかい?」
「う う うううのうーっ」
「それは宇宇宇の宇太郎だろ?」
「う~っ」
「うまく言えないのか」
「うん」
「何だよ、言えるじゃないか」
「う~っ」
「詰まってるのかい?」
「うっ」
「そうじゃなくてさ」
「うぅ~」
「詰まってるわけないかぁ」
「う~っ」
「パイプだもんな」
「う~っ」
「何か欲しいのか?」
「うぃ~っす」
「言ってみろ」
「う~っ」
「ふんふん」
「う~っ」
「ふんふん」
「う~っ」
「だからふんふん」
「う~っ」
「しつこい!」
「とりあえず、毎日会うおまえは『う~ちゃん』だ」
「どうしたの?」
「う~っ」
「苦しいの?」
「う~~っ」
「嬉しいの?」
「う~~~っ」
「なんだよ」
「う~っ」
「歌うのかい?」
「う う うううのうーっ」
「それは宇宇宇の宇太郎だろ?」
「う~っ」
「うまく言えないのか」
「うん」
「何だよ、言えるじゃないか」
「う~っ」
「詰まってるのかい?」
「うっ」
「そうじゃなくてさ」
「うぅ~」
「詰まってるわけないかぁ」
「う~っ」
「パイプだもんな」
「う~っ」
「何か欲しいのか?」
「うぃ~っす」
「言ってみろ」
「う~っ」
「ふんふん」
「う~っ」
「ふんふん」
「う~っ」
「だからふんふん」
「う~っ」
「しつこい!」
「とりあえず、毎日会うおまえは『う~ちゃん』だ」
「わぁ良かったぁ、やっぱ辰雄君だぁ」
留美子が辰雄の腕をとった。久しぶりに腕を絡ませてきた。
バッグからオリンパスPENを取り出すとみんなにホラっと見せた。
「フィルム忘れたとか言うなよな」
「ばーか、おまえと違うよ」
男子の突っ込みをかわしながら早速シャッターを押した。
「私も撮って撮って」
みんなのリクエストに笑顔で応えながら辰雄は『その時』の絞りとシャッタースピードをどうするか考えていた。
バッグには岡田さんに買ってもらった36枚撮りのリアルカラーのフィルムがもう一本、パトローネに入っている。
『撮りまくる』のもいい写真を撮る秘訣のひとつだよと言われ、予備を持ってきたのだ。これで36×2=72枚、ハーフサイズだから×2で144枚撮ることができる。
フィルムを入れる時ぎりぎりにセットしたから一本のフィルムにあと2枚ずつは余計に撮れるはずだ。
よーし撮りまくるぞ!
留美子が辰雄の腕をとった。久しぶりに腕を絡ませてきた。
バッグからオリンパスPENを取り出すとみんなにホラっと見せた。
「フィルム忘れたとか言うなよな」
「ばーか、おまえと違うよ」
男子の突っ込みをかわしながら早速シャッターを押した。
「私も撮って撮って」
みんなのリクエストに笑顔で応えながら辰雄は『その時』の絞りとシャッタースピードをどうするか考えていた。
バッグには岡田さんに買ってもらった36枚撮りのリアルカラーのフィルムがもう一本、パトローネに入っている。
『撮りまくる』のもいい写真を撮る秘訣のひとつだよと言われ、予備を持ってきたのだ。これで36×2=72枚、ハーフサイズだから×2で144枚撮ることができる。
フィルムを入れる時ぎりぎりにセットしたから一本のフィルムにあと2枚ずつは余計に撮れるはずだ。
よーし撮りまくるぞ!
6月の日曜日だった。
もう少し待てば夏休みになるのにとの意見もあったが、
夏休みは夏休みで部活やプールでみんなが揃うのは難しいのではということになったのだ。
前日の午後までぼそぼそと雨を落としていた灰色の空だったが、当日はうそのように晴れ、初夏特有の澄んだ水色になった。
「ほーら、私が言ってた長期予報当たったね」
「雨だったら嫌だもんね」
「留美子、お天気キャスターになれば?」
「アタシが晴れ女だからよ」
「晴れ女って言うなら私でしょう」
「えーっ違うよぅ、こないだ雨だったじゃん」
朝から切れ目なくおしゃべりを続ける女子達だった。
「あっ私ったら忘れた!」
「ん?なになに?何忘れたの?」
「カメラ。せっかくお父さんに借りたのに…」
全員の口が一瞬止まった。
そして全員の目が辰雄に動いた。
「大丈夫、俺が持ってるよ」
もう少し待てば夏休みになるのにとの意見もあったが、
夏休みは夏休みで部活やプールでみんなが揃うのは難しいのではということになったのだ。
前日の午後までぼそぼそと雨を落としていた灰色の空だったが、当日はうそのように晴れ、初夏特有の澄んだ水色になった。
「ほーら、私が言ってた長期予報当たったね」
「雨だったら嫌だもんね」
「留美子、お天気キャスターになれば?」
「アタシが晴れ女だからよ」
「晴れ女って言うなら私でしょう」
「えーっ違うよぅ、こないだ雨だったじゃん」
朝から切れ目なくおしゃべりを続ける女子達だった。
「あっ私ったら忘れた!」
「ん?なになに?何忘れたの?」
「カメラ。せっかくお父さんに借りたのに…」
全員の口が一瞬止まった。
そして全員の目が辰雄に動いた。
「大丈夫、俺が持ってるよ」
何をそんなに驚いてるんだい
何をってほれ、すっごくね
あんれま
うっへぇ
びっくらこきまくりのまぁちゃんだ
んだよそれ
目がぼわんぼわんだよ
頭もばくんばくんてな
もう何てったってエベレストだよ
そんなもんかい
そうとも兄弟
てかどっちが兄貴なん?
そこまではわからん。。。
何をってほれ、すっごくね
あんれま
うっへぇ
びっくらこきまくりのまぁちゃんだ
んだよそれ
目がぼわんぼわんだよ
頭もばくんばくんてな
もう何てったってエベレストだよ
そんなもんかい
そうとも兄弟
てかどっちが兄貴なん?
そこまではわからん。。。