僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

始まりはあの時だったのか

2014年03月28日 | SF小説ハートマン







その夜、夕食の終わったテーブルで父は小さな指輪を取り出し子供に渡した。

指輪は周囲に奇妙な文字が刻まれておりセラミックのような乳白色をしていたが、
感触はまったく異なっていた。
触れると温かく、握りつぶせるほどに柔らかかったのだ。

手のひらに乗せしばらく見ていただけで小さなドーナツ型の跡を赤く残すほど発熱した。
それでも熱くて火傷してしまうという感覚は全くなかった。

手のひらを通してエネルギーが流れ込んでくるのを感じ、全身に広がるにつれて不思議な安らぎと癒しを感じるのだった。



「これはレベル7に行く選ばれた者だけが身につけるものだ。これにはお前のルーツが刻まれている。
出発の日の夜明け、太陽の光の中で指につけなさい。後は全てこれがお前を導いてくれるだろう。」

「何かすごいねお父さん。でもお父さんは何でしてないの?お父さんだってレベル7に行ったんでしょう?」


「ああ、確かに行った。だが、私にこの指輪は合わなかったらしい。」

「どうして僕がこれをするの?何かいいことあるの?」


「いいことばかりではないかも知れない。だが、全てはこのリングが教えてくれるだろう。
いいか、出発の日、夜明けにつけるんだぞ。わかったらもう寝なさい。」



半信半疑でリングを受け取ると、もう一度しっかりと見つめた。

周囲に刻まれた文字の一部がほんの僅か琥珀色に光り「チッ」と音を立てたが、
エアコンディションの吸気スイッチがONになった音に紛れて2人とも気が付かなかった。



このリングが少年の運命を激動に導くことになるとは、希望に満ちた本人はもちろん知る由もなかった。
リングの意味を知っている父親の想像をも大きく超えて、全てのドラマはここから始まるのだった。

つづく

















コメント
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