つづきです。『神の国の証人ブルームハルト親子』(井上良雄 著:新教出版 より)
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ゴットリービンは、前述のように、ブルームハルトの計らいで、実家から離れて生活することになったが、しかしその苦しみはそれで終わることはなかった。
むしろ、それはブルームハルトとが介入するようになってから、いよいよ激しくなるように思われた。
あの怪しい物音や怪しい出来事は、彼女についてまわって離れなかった。その上、彼女は全身の痙攣を起こすようになり、それが次第に激しくなって、頻繁になっていって、5分間も安静にしていることがないというほどになった。
ある時は、そのような激しい痙攣のために彼女の寝ているベッドの骨組が壊れてしまった。・・・その様子を見ていた医師のシュペート博士が、目に涙を浮かべて「病人をこのような状態にしておくとは、この村に一人の牧師もいないのだと、人は思うかも知れない」と呟いた。
この言葉が、その場にいたブルームハルトの心を刺し貫いたようである。
それから間もない日曜日(それは6月26日と言われるが)の夕方に、ブルームハルトとの「戦い」の展開にとって重要な出来事が起こる。
この出来事については、ブルームハルト自身が、前述の宗務局宛ての「報告書」の中で詳細に語っている。
「日曜日の夕方、私はまた彼女のところに行った。彼女の友人も何人か、そこにいた。私は、黙って恐ろしい痙攣を見ていた。私は少し離れたところに座っていたが、彼女は腕をよじり、頭を脇の方に曲げ、からだを高く上の方へ湾曲させていた。
その口からは、泡が度々流れ出て来ていた。これまでの経過から見て、そこにはなにか悪魔的なものが働いているのだということは、私には明瞭だと思われた。
私には、これほど恐ろしい事態の中で、何の手段も助言も見出せないということが、苦痛であった。
そのようなことを考えている間に、一種の憤怒(Ingrimm)が私をとらえた。私は飛び出していって、彼女の硬直した手をつかみ、その指を、無理やりに、祈るときのように組み合わせ、意識を失った状態ではあったが、その耳に向かって、彼女の名を大声で叫んで言った。
『手を合わせて、主イエスよ、助けてくださいと、祈りなさい。私たちは、随分長い間、悪魔の仕業を見てきた。今度は、イエスがなさることを見よう』。
・・・すると、それから間もなく、彼女は覚醒し、私が言った祈りの言葉を繰り返し、痙攣は全く止んだ。それは、その場にいた者達にとって、非情な驚きであった。
それは、この問題のための活動へと、私を抗し難い力で、投げ入れた決定的な瞬間であった。私は、それまで、そのようなことは少しも考えていなかった。
そして今も、私を導いているのは、何か直接的な衝動である。私は、この衝動について、極めて強い印象を持っている。この直接的な衝動ということが、その後しばしば、私にとっての唯一の慰めであった。
なぜかと言えば、当時まだその恐ろしい展開を予想できなかった問題に、関わりを持つようになったのは、自分自身の選択や、思い上がりによることではないということを、この直接的な衝動ということが、私に確信させてくれたからである。」
・・・つづきます。