○ 取締役会設置会社は取締役会で代表取締役を選定・解職しますね(法362条2/3)。また363条(取締役会設置会社の取締役の権限)には業務を執行する取締役としては「代表取締役及び代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの(=選定業務執行取締役)」としています。
一方、取締役会非設置会社については、348条(業務の執行)で「取締役は、株式会社(取締役会設置会社を除く)の業務を執行する。」と規定し、また349条で「取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。」と規定されています。
⇒(ちょっと横道に逸れますが)「その他株式会社を代表する者」って何者なのでしょうか?変な規定ですね!!例えば代表取締役常務の場合は「取締役常務代表」とか言うのでしょうか、あるいは取締役でない者、例えば課長でも代表する者として定めることが出来るという意味でしょうか?「xx商事株式会社 代表課長?→課長の中のトップ?」全く意味不明の規定ですね。
○ 名刺をもらったときに、「取締役」とだけ記載されている場合、その取締役が取締役会非設置会社の取締役、即ち業務執行権限のある取締役か、取締役会設置会社の取締役かわかりません。また、後者の場合は、選定業務執行取締役か、業務執行を行なわない、即ち業務執行権限の無い取締役か分かりません。また、その取締役に業務執行の権限があるかどうか等いちいちチェックしませんし、そもそも普通の人は、こんな会社法の規定等知りません。また、名刺には「取締役営業本部長」とか記載していますね。この場合、名刺を受け取ったものは、この人は、営業についての権限があると思うのが常識ですね。まあ、「副社長」とか「取締役副社長」とだけ記載されていても、この場合は表見代表取締役の規定(354条)が適用されますので外見的には業務執行権限があると誰しも思いますが。
○ 取締役は、単なる取締役会のメンバーであるという考え方ですので、業務執行権限とは別というのが会社法の考え方ですね。勿論社外取締役は、業務を執行しませんが、社外取締役といえども、名刺に「xx株式会社 社外取締役 ○○ ○○」と書くのでしょうか?そんなことはありませんね。
○ 一方、法14条では以下の様に規定していますね。
1.事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。 (「一切」というのもおかしいね。普通は一切の権限など持っていないのが常識で、法律の方が非常識)
2.前項に規定する使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
14条の規定を知っていようが知らなくても、例えば名刺に販売部長と記載されておれば、当該ビジネスの常識の範囲内の販売はできる権限があると名刺を受け取った人は思いますし、調達部長の場合は、通常の範囲内の調達・購入権限があると思いますね。これが常識です。
○ 使用人であっても、法14条の規定で当該事項に関する権限を有しています。取締役なら、その取締役が業務執行取締役かどうかに拘わらず、取締役が自ら私にはこの権限が無いのです等と取引先に説明しない限り、普通は当該事項(取締役が取引先に話をする事項)について、常識の範囲内の権限があると思います。即ち、取締役(調達担当)とか記載されている場合は、一定額以内の調達権限があると考えるのが常識ですね。
⇒取締役について、14条と同じような規定はありません。「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた取締役は、当該事項に関する裁判外の行為をする権限を有する。」という規定を会社法に規定すべきだと思いますね。
○ 取締役会設置会社の選定業務執行取締役に関連して学者が変なことを言っています。即ち、普通の取締役に業務執行をゆだねることができますが、その場合は、委ねられた限りで業務執行をすることになるが、「業務執行権限はあくまで対内的な関係で付与されるにすぎない」と神田教授(会社法7版172ページ。お金が無いので古い7版しか持っていません)が言っています。
⇒業務執行には二面性があります。対内的と対外的です。調達担当取締役が調達計画を建て外部の業者から調達します。販売担当取締役は、販売計画を建てお客様に販売します。人事担当取締役でも、施設管理する総務担当取締役でも同様です。コインの表裏で、自分は社内の対内的なことだけしか行なわないということはありません。対内的な業務執行権限は、同時に対外的な業務執行権限を持たないと、通常は業務を執行できないのが常識です。