とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

『彼岸過迄』③ 漱石と探偵小説 「停留所」と「報告」

2018-09-11 07:48:02 | 夏目漱石
 『彼岸過迄』の第2章の「停留所」は敬太郎が探偵の役割をはたしている。第3章「報告」はその解決編である。いわゆる「探偵小説」のような展開をしていて、多くの人がシャーロックホームズを思い浮かべたと思われる。

 夏目漱石が英国留学したのは1900年から2年間。シャーロックホームズが英国で最初に登場したのは『緋色の研究』の1988年、最後の短編集『シャーロックホームズの事件簿』が出版されたのは1927年である。夏目漱石が英国にいたのは、シャーロックホームズ人気の絶頂期である。夏目漱石自身が実際にシャーロックホームズを読んでいたのか記録はないが、シャーロックホームズのような探偵小説の影響をうけていたと考えても不思議はない。いや、むしろ影響を受けていたと考えるほうが妥当であろう。

 その真偽はともかくとして、探偵小説的な語り手の「視点」に対する意識が明確に出てきている。敬太郎の視点は「なぞの男」を追っている。「なぞの男」を焦点化しながら、「なぞの男」を推理して正体を暴こうとしている。しかし、ひとりの「視点」から見ている限り、「なぞの男」は結局なぞのままである。それが人間と言うものだ。

 それがわかった時、新たな方法が生み出される。複数の視点での多角的な記述である。『彼岸過迄』の後半はそういう小説実験の場となる。 
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