北村想らしい不思議な感動を呼ぶ舞台でした。
北村想さんは小劇場ブームの時に活躍した演劇人です。おそらく名古屋で地道に活動をしてはいたのでしょうが、しばらく東京からは遠ざかっていました。近年シスカンパニーに脚本を提供するようになりました。
北村想さんの脚本の台本は虚無感と幻想性です。物語の展開は「いい加減」です。この「いい加減」という言葉は以前北村想さんの劇を評価するときに一種の誉め言葉として使われているような気がします。北村想さんの「いい加減」は幻想性とリアルが同居していることを表しているのではないかと私は感じます。
『風博士』も「いい加減」な芝居でした。そして「いい加減」だからこそ戦時中の人々の姿がリアルに描かれていました。戦争はリアルではありますが、恐怖と闘うためには空想力をたくましくしなければなりません。「いい加減」な展開が実は戦争をリアルに表現しているのです。
生と死の秘密がそこにあり、知らず知らずにその秘密に近づいているような感動がこの芝居にはあります。とてもいい芝居でした。
北村想さんの芝居を初めて見た方は、最初はずいぶん素人っぽい芝居だと感じるのではないでしょうか。しかし最後にそれが罠であったことに気づきます。不思議な劇作家ですが、それが北村さんの魅力です。