横暴な権力が人々を苦しめる状況が描かれる。これは誇張した形で描かれるのではあるが、社会の状況を考えると誇張とは思えない。権力に追い詰められる人民の苦悩がリアルに伝わってくる。
作 ラジヴ・ジョセフ
翻訳 小田島創志
演出 小川絵梨子
キャスト 成河 亀田佳明
舞台はタージマハル建設中のムガル帝国。登場人物はフマーユーンとバーブルの2人。タージマハルの建設現場で夜通し警備をするのだが、タージマハルの完成したとき、その建築責任者が褒美として、働いた2万人がそのタージマハルを見ることを認めてもらうことを願いでる。それに起こった皇帝は2万人の手を切る命令を出す。ふなゆーんとバーブルが手を切り落とす役目を与えられる。それをやり終えた二人は精神的に壊れていく。そしてさらに悲劇は連鎖していく。
この作品は「ことぜん」シリーズの第三弾である。「ことぜん」とは「個人」と「全体」の関係を描く作品を連続上演する企画の名称だ。
現在の日本の状況を見ると、国家のために「個」を見失っている人が多い。それが本当に国家のためならばわからなくもない。しかし実際には一部の権力者のわがままのためなのだ。人間は自分のやっていることに正義を求める。だから自分のやっていることが客観的に見れば悪でも、自分で理屈を捻じ曲げて正義にしてしまう。自分は正しいことをしていると思いこんでいる。今、安倍政権に忖度している官僚はみんなそうなのだろう。こうなってしまえば悪の連鎖は終わることはない。
健全なる「個」を取り戻すためには、健全なる「全体」を築く必要がある。それは簡単なことではない。しかし諦めてはならない。やはり大切なのは健全な「個」を育てる努力である。正義を見つめる「個」の努力である。
深く考えさせられる作品であった。
