我が家には、ずっと使えないドレッシングがある。亡くなった父が最後に作ったドレッシング。父が栄の錦三丁目、ステーキととんかつの「八千代本店」に勤めていた頃、八千代のサラダにはいつもこのドレッシングがかかっていた。カリカリベーコンのサラダ。八千代のサラダの味はこのドレッシングが決め手だった。八千代本店から東急インへ移った時に、八千代メニューを継承して欲しいと社長に言われ、とんかつやコロッケ、シチュー、唐揚げなどの「名代」メニューの中に、カリカリベーコンのサラダも当然入っていた。しかし、ドレッシングは瓶に入ってテーブルに置かれていた。東急に最初からある他のドレッシングたちと一緒に。客に好みのドレッシングをかけてもらうためだ。ノンオイルの健康的なものから、クリーミーなものまで。でも、知っている人は「八千代」のドレッシングを使う。そのドレッシングがこのサラダには一番合うと知っているからだ。八千代のドレッシングは、小学校の家庭科で習う、酢とサラダ油を混ぜ合わせて作る基本的なドレッシングだ。そこに、八千代オリジナルのスパイスと野菜のすりおろしが混ざっている。大体のレシピは分かる。だが、分量までは分からない。父の頭の中にしかないからだ。父が亡くなる前に、よく冗談で娘に言っていた。「おじいちゃんが死ぬ前に、ドレッシングの作り方だけでも教えておいてもらわないといかんなぁ。」と。しかし、娘が興味をもっていたにもかかわらず、じいちゃんに教わる暇もなく、父は逝ってしまった。
昨日サラダを作ったのだが、どうしても最後の1回分を使い切る気になれない。本当に1回分しか残っていない。これを使い切ると父の味が何も残らない気がして。実家の母も同じことを言う。「何をしてもお父さんの味が再現できない。色々教えてもらったのに・・・。」我が家にあるドレッシングを研究して、近いものくらいは作れそうな気がしている。でも、やはり、似て非なるものにしかならない。父の先輩だった方がご存命のうちにレシピを聞きたい。でもきっと、同じものは再現できないのだろう。二度と食べられなくなったものがたくさんある。思い出の中にしかないから良いのかも知れないが。叶うことなら、再現して食べてみたいものだ。
昨日サラダを作ったのだが、どうしても最後の1回分を使い切る気になれない。本当に1回分しか残っていない。これを使い切ると父の味が何も残らない気がして。実家の母も同じことを言う。「何をしてもお父さんの味が再現できない。色々教えてもらったのに・・・。」我が家にあるドレッシングを研究して、近いものくらいは作れそうな気がしている。でも、やはり、似て非なるものにしかならない。父の先輩だった方がご存命のうちにレシピを聞きたい。でもきっと、同じものは再現できないのだろう。二度と食べられなくなったものがたくさんある。思い出の中にしかないから良いのかも知れないが。叶うことなら、再現して食べてみたいものだ。