ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

高鍋防災ダム

2021-10-21 23:08:34 | 宮崎県
2021年10月16日 高鍋防災ダム
 
高鍋防災ダムは宮崎県児湯郡高鍋町上江の小丸川水系宮田川にある農地防災目的のアースフィルダムです。
小丸川水系では台風や豪雨による洪水被害が多発し流域の農地に多大な被害をもたらしてきました。
そこで宮崎県は農林省(現農水省)の補助を受けた防災ダム事業高鍋地区に着手、1968年(昭和43年)に高鍋防災ダムは竣工しました。
ダム便覧ではダムの目的は『FA(防災・灌漑)』となっていますが、現地で確認したところ灌漑容量の配分はなく、普段は流入量をそのまま放流する流水型防災専用ダムとなっています。
当ダムでは、建設の際に堤体の盛り立て用の土砂採取によりできた窪地に湧水が溜まり人工的な湿原が出現しました。
これが高鍋湿原で、希少なハッチョウトンボやサギソウなどが見られる九州を代表する低層湿原となっています。
 
高鍋湿原は遊歩道が整備され、豊かな植生物が見られる3月から10月にかけて一般に公開されています。しかし今回は午前9時から開園前の訪問となり湿原の見学はできませんでした。
天端は車道で右手が下流面
対岸(左岸)に湿原が広がります。

 
天端を走る車道
貯水池に水がないこともあり、ここを走るドライバーの多くはこれがダムだと気づかないかも? 
 
右岸の越流式洪水吐
珍しいY字型の洪水吐です。
 
アングルを変えて。
 
超広角で。
 
洪水吐導流部。
 
ちょっとわかりづらいですがこれが貯水池。
洪水時には約100万立米を貯留します。
 
左岸から見た天端と下流面。
 
ダムと湿原の案内板。
 
奥が湿原になりますが開園は午前9時から。
7時半ごろに到着したので中の見学はあきらめました。
 
いわゆる流水型防災ダムですが、中に入れなかったため事務所裏手にある放流管を確認できませんでした。

2832 高鍋防災ダム(1701)
宮崎県児湯郡高鍋町上江
小丸川水系宮田川
25.5メートル
179.1メートル
1194千㎥/996千㎥
高鍋町
1968年

一ツ瀬ダム

2021-10-21 14:10:18 | 宮崎県
2021年10月15日 一ツ瀬ダム
 
一ツ瀬ダムは宮崎県西都市の二級河川一ツ瀬川本流上流部にある九州電力(株)が管理する発電目的のアーチ式コンクリートダムです。
1951年(昭和26年)の電気事業再編令で誕生した九州電力は戦後の電力不足に対応するため各所で積極的な電源開発を進めます。
宮崎県では戦前より電源開発が進められていた耳川水系上流部に1955年(昭和30年)に日本初の本格的アーチダムとして上椎葉ダムを建設、この実績を活かし1963年(昭和38年)に包蔵電力豊富な一ツ瀬川に建設したのが一ツ瀬ダムです。
一ツ瀬ダムは堤高アーチダム7位、堤頂長同3位、総貯水容量はアーチダムでは2位、全ダムでも10位の2億6131万5000立米と我が国アーチダム屈指のスケールを誇り、日本ダム協会により日本100ダムに選ばれています。
ここで取水された水は一ツ瀬発電所に導水され最大18万キロワットのダム水路式発電を行いますが、これも一般水力としては全国10位の発電能力となっています。
さらに2013年(平成25年)には河川維持放流を利用した一ツ瀬維持放流発電所(最大330キロワット)が稼働しました。
また、1985年(昭和60年)に竣工した国営一ツ瀬川かんがい排水事業により一ツ瀬ダムは事実上約3500ヘクタールの田畑の水源としての役割も担っています。
 
一方当ダム完成後、一ツ瀬川では豪雨等による濁水がダム湖に滞留し下流の利水や河川環境への悪影響が顕在化します。
これに対し九州電力は一ツ瀬ダムの運用の変更や非常用放流設備の改造、下流の杉安ダムでは底部放流設備の設置等により対応を図っていますが抜本的な解決には至っていません。
 
一ツ瀬ダムは従来下流からの展望ポイントがないとされていましたが、国道バイパスの完成によりダムと正対できるようになりました。
堤高130メートル、堤頂長415.9メートルの巨大アーチは圧巻そのもの
左右両岸および中央部にクレストゲート各2門、計6門を配し、上椎葉ダム同様左右両岸にジャンプ台式洪水吐を備えています。
天端に巻き上げ機やピアがないので堤頂部は一直線、そして完璧なシンメトリー
ダム便覧には日本一美しいアーチという記述もあります。

 
中央のラジアルゲートをズームアップ。

 
右岸のジャンプ台式洪水吐。

 
洪水吐をズームアップ。

 
ダムサイトにある宮崎交通の『一ツ瀬ダム』バス停。

水利使用標識が2枚
こちらは一ツ瀬発電所向け最大出力18万キロワットを誇るため、取水量も毎秒137立米と絶大。


こちらは2013年(平成25年)に稼働した小水力発電所の水利使用標識。


左岸から
広角レンズでは収まりきらないので超広角で撮影。
構造物がなくすっきりした天端、そこから突き出たまるでロボットの2本の腕のような洪水吐斜水路が特徴的。

もう1枚。


残念ながら天端は立ち入り禁止。
スケールでは一ツ瀬に大きく劣る上椎葉ダムの人気・知名度が高いのはダムが広く開放されていることが大きいんでしょう。
一方ダム湖の米良湖は日本第10位の貯水容量を誇り、ダムから上流22キロ地点まで貯水池が続きます。
上記のように発電のみならず下流域約3500ヘクタールの灌漑用水の事実上の水源にもなっています。

 
後付けのコンジットゲート
この位置に設置したことで濁水対策として活用できます。

 
一ツ瀬ダムのもう一つの目玉は右岸下流側のこの巨大なコンクリート工
右岸ジャンプ台式洪水吐の水叩きで1982年(昭和57年)に施工されました。

 
いかにもドーム型アーチと言った風の上流面。

 
さらに上流から
左右中央の6基のゲートを一望します。

 
右岸の発電用取水設備。
発電用ダムとしては珍しい選択取水設備で、農繁期には表層取水を行うほか、濁水対策として濁水の状況に合わせて清水を取水できるようになっています。
同様の取水設備は同じく濁水に悩む徳島県の長安口ダムでも採用されています。

正面から。


こちらはダムから水を送る一ツ瀬発電所
一般水力としては日本第10位の18万キロワットの発電能力を誇ります。


なお一ツ瀬ダムが通算1700基目のマイルストーンとなりました。
1600基目が昨年11月23日の山口県の深坂ダムですので、100基積み上げるのに約11か月かかりました。
2000ダムへの道はまだまだ遠い。

2829 一ツ瀬ダム(1700)
左岸 宮崎県西都市中尾
右岸     同市片内
一ツ瀬川水系一ツ瀬川
130メートル
415.9メートル
261315千㎥/155500千㎥
九州電力(株)
1963年

杉安ダム

2021-10-21 06:44:38 | 宮崎県
2021年10月15日 杉安ダム
 
杉安ダムは左岸が宮崎県西都市南方、右岸が同市方内の二級河川一ツ瀬川中流部にある九州電力(株)が管理する発電目的のアーチ式コンクリートダムです。
1951年(昭和26年)の電気事業再編で誕生した九州電力は戦後の電力不足に対処するため各所で電源開発を進めます。
一ツ瀬川では1959年(昭和34年)より九州最大規模となる一ツ瀬ダム・発電所の建設に着手し、併せて一ツ瀬発電所の逆調整池として1963年(昭和38年)に杉安ダムが竣工しました。
杉安ダムは一ツ瀬発電所の出力調整による水位変動を緩和するとともに杉安発電所(最大出力1万1500キロワット)でダム水路式発電を行います。
さらに1985年(昭和60年)に竣工した国営一ツ瀬川かんがい排水事業により杉安ダム貯水池には一ツ瀬川土地改良区杉安取水口が設けられ約3500ヘクタールの農地への灌漑用水がここで取水されます。
 
一方で一ツ瀬ダム完成以降豪雨等による濁水がダム湖に長期間滞留し下流の利水や河川環境への悪影響が顕在化します。
これに対し九州電力は一ツ瀬ダムの運用の変更や非常用放流設備の改造、当ダムでの底部放流設備の設置等により対応を図っていますが抜本的な解決には至っていません。
 
西都市中心街から一ツ瀬川沿いの国道219号線を北上すると、左手に杉安ダムが姿を現します。
堤高39.5メートル、堤頂長156メートルの小ぶりなアーチダムです。
クレストにはラジアルゲート7門を装備していますが、建屋の陰になり5門しか見えません。
 
訪問時は河川維持放流として右岸ゲートから放流中。
 
ゲートをズームアップ。
アームの傾斜がきつくゲートがそっくり返っているようです。
手前にはきれいな虹が見えます。
 
左岸ダム下流にあるこの設備は、濁水対策として新設された底部放流設備放流口。
 
ダムサイトの宮崎交通『杉安ダム』バス停。
 
ダム上流左岸には二つのゲートが並びます。
こちらは濁水対策として新設された底部放流設備取水ゲート。
貯水池の環境整備のため、貯水池低部の濁水の放流や排砂を行います。
 
こちらは杉安発電所への取水ゲート。
 
ダム上流面。
 
さらに上流から
総貯水容量は876万5000立米
一方有効貯水容量は堆砂が進み224万7000立米に留まり堆砂率は74%。
 
上流から遠望
左手が発電用取水口、右手が底部放流設備。
 
2828 杉安ダム(1699)
左岸 宮崎県西都市南方
右岸     同市方内
一ツ瀬川水系一ツ瀬川
39.5メートル
150.6メートル
8765千㎥/2247千㎥
九州電力(株)
1962年