ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

天神ダム

2021-10-30 16:33:57 | 宮崎県
2021年10月19日 天神ダム
 
天神ダムは左岸が宮崎県都城市山之口町山之口、右岸が宮崎市田野町乙の大淀川水系境川にある灌漑目的のロックフィルダムです。
大淀川右岸地区は南九州特有の透水性の高い火山灰土壌で形成され、地味が薄い上に水利に乏しく安定した水源確保と灌漑施設の整備が強く求められていました。
1981年(昭和56年)に農水省による国営大淀川右岸地区かんがい排水事業が着手され、その灌漑用水源として2001年(平成13年)に完成したのが天神ダムです。
土地改良事業全体も2004年(平成16年)に完了し大淀川右岸土地改良区の約1900ヘクタール超の田畑のかんがい排水設備が整備され、大淀川右岸地区は宮崎県有数の野菜、果樹等園芸農業地帯となっています。
ダムの管理は宮崎市が受託しています。

一方、2005年(平成17年)台風14号により貯水池上流で大規模な山体崩壊が発生し、大量の土砂流入により計画以上の堆砂が進行するとともに貯水池の濁水が常習化しました。
これに対処するため2023年(令和5年)竣工をめどに国営施設機能保全事業が着手され、土砂流入防止設備や清水選択放流設備などが整備されてます。
 
堤高62.4メートル、堤頂長441.7メートルと農業用ロックフィルダムとしてはなかなかのスケール。

 
洪水吐直下まで車で入れますがスペースがないのでUターンが大変。
転回できないと500メートル以上の鬼バック。

 
左岸から下流面
リップラップにはセイタカアワダチソウが繁茂。

 
上流面も然り。


左岸の横越流式洪水吐。


天端からの眺め
左手は洪水吐、奥の高架橋は宮崎道。

総貯水容量670万立米の貯水池。
2005年(平成17年)に貯水池上流で大規模な山体崩壊が発生しました。

山体崩壊による濁水対策として国営施設機能保全事業で設置された清水選択放流設備。
表層の清水を選択取水できるようになりました。

 
右岸の斜樋
巡視艇繋留用浮桟橋が隣接しています。

広い天端ですが車両は進入禁止で徒歩のみ開放。

 
洪水吐脇の親柱には『田の神様(たのかみさあ)』が安置されています。
南九州特有の民間信仰で田んぼの守り神とされています。

竣工記念碑。


水利使用標識
受益農地の過半が畑地のため、年間を通じて水利権が配分されています。

 
管理事務所。

 
宮崎県北部のダムでは必ずついて回る2005年(平成17年)の台風14号ですが、県南部の天神ダムでもその災厄を受け、対応を余儀なくされました。
 
(追記)
天神ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2844 天神ダム(1730) 
左岸 宮崎県都城市山之口町山之口 
右岸 宮崎県宮崎市田野町乙 
大淀川水系境川 
 
 
62.5メートル 
441.7メートル 
6700千㎥/6270千㎥ 
宮崎市 
2001年 
◎治水協定が締結されたダム

渡川ダム

2021-10-30 08:30:13 | 宮崎県
2021年10月18日 渡川ダム
 
渡川ダムは左岸が宮崎県東臼杵郡美郷町南郷中渡川、右岸が同県日向市東郷町下三ケの一級河川小丸川上流部にある宮崎県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
1935年(昭和10年)に内務省は河川総合開発の先駆となる『河水統制事業』を採択し全国で治水・利水を一貫した河川開発が実施されることとなりました。
宮崎県では1938年(昭和13年)に県電気建設部(現県企業局)により小丸川の治水と発電を目的とした『小丸川河水統制事業』が採択され、4基のダムおよび発電所の建設が着手されました。
このうち浜口ダム(現川原ダム)と川原発電所、戸崎ダムと石河内第二発電所は1940年(昭和15年)に完成するも直後に日本発送電に接収され、戦後は九州電力が事業を継承しました。 
一方多目的ダムとして松尾ダムが戦時中の中断を挟んで1951年(昭和26年)に竣工、こののち小丸川河水統制事業は『小丸川総合開発事業』に衣替えし、同事業により1956年(昭和31年)に小丸川最上流部に渡川ダムが竣工しました。
渡川ダムは建設省(現国交省)の補助を受けて建設された補助多目的ダムで小丸川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、宮崎県企業局渡川発電所(最大1万2000キロワット)でのダム水路式発電を目的としています。
渡川ダムの完成により、1938年に着手された『小丸川河水統制事業』は着手より18年の年月をかけようやく全事業が竣工するに至りました。
 
ダム便覧には10年以上前に撮影された下流からの写真が掲載されていますが、今は木が茂りこの写真が精いっぱい。
クレストにラジアルゲート3門を備えています。
 
ダム下流面が望めるのはこのアングルだけ
堤頂部の襟がなく曲線でスロープに続く独特のフォルム
一方黒ずんだ堤体はコルゲートパイプのシェルターで被覆されまるでクロヒョウのような雰囲気。
 
撮影ポイントがないので同じような絵が続きます。
 
ズームアップ
コルゲートパイプを使ったチューブ状のシェルターは同じ宮崎県営の綾南ダム松尾ダムなどで見られます。
 
渡川ダム貯水池図
ずいぶん傷んでます。
 
水利使用標識
ダム便覧では有効貯水容量は2990万立米となっていますが、こちらは2790万立米。
当ブログでは水利使用標識に従います。
 
湖岸にしがみつくように建つ管理事務所。
こちらにも管理人さんご夫婦がが住み込みで駐在されています。
 
撮影ポイントがないのは宮崎県ダムあるある。
無理に欲張らず見えるところで満足するのも長く安全にダム巡りするコツだと思います。
 
(追記)
渡川ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2818 渡川ダム(1729) 
左岸 宮崎県東臼杵郡美郷町南郷中渡川 
右岸 宮崎県日向市東郷町下三ケ 
小丸川水系渡川 
FNP 
 
62.5メートル 
173メートル 
33900千㎥/27900千㎥ 
宮崎県県土整備部 
1956年 
◎治水協定が締結されたダム