ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

西郷ダム(再)

2021-10-27 23:30:57 | 宮崎県
2021年10月18日 西郷ダム(再)
 
西郷ダム(再)は宮崎県東臼杵郡美郷町西郷小原の二級河川耳川中流部にある九州電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
宮崎県は主要河川がいずれも包蔵水力豊富なことから戦前から活発な電源開発が進められてきました。
耳川水系では九州送電(株)による電源開発が進められ、水系最初の発電施設として1929年(昭和4年)に西郷ダム(元)と田代発電所(現西郷発電所)が建設され最大8000キロワットのダム水路式発電が稼働しました。
西郷ダムを始めとした耳川水系の発電施設は日本発送電の接収ののち、1951年(昭和26年)の電気事業再編により九州電力が継承、同社は田代発電所を西郷発電所と改称するとともに、戦後の電力需要増加に対応して発電能力を3倍以上の最大2万7100キロワットまで増強しました。
 
しかし2005年(平成17年)の台風14号により耳川水系では大量の土砂が河川やダム湖に堆積し、流域の浸水リスクが高まるとともに河川環境の悪化が危惧されます。
これを受け県・九州電力などは耳川の『総合土砂管理』に取りかかり、当ダムおよび山須原ダム『通砂運用』機能付加のための再開発事業に着手し、2018年(平成30年)に新生西郷ダム(再)が誕生しました。
再開発事業では、台風などの出水時にダムの水位を下げることで貯水池を本来の川のような状態に近づけ、上流から流下する土砂を下流へ通過させる『通砂運用』を可能にするため、ダムの一部が切り下げられ新たに大型洪水吐ゲートが設置されました。
 
西郷ダム(再)は国道327号線沿いにあります。
『永遠の鐘』と名付けられたホイストクレーンのカバーがダムのシンボル
中央のローラーゲート2門が堤体を切り下げ新たに設置されたゲートです。
出水時にはこのゲートを開放して、川底に近い位置で放流することで土砂も併せて流下させます。
いわば、主ゲートが巨大な排砂ゲートです。

 
アングルを変えて、
ゲートは計5門、左奥に見えるのは取水ゲート。

 
左岸の魚道
河川維持放流はこの魚道を使い行われています。

 
同じく左岸には低水放流用のバルブがあります。


再開発に併せて国道沿いの右岸ダムサイトがダム広場として整備され、ダムのシンボルである鐘型クレーンカバーである『永遠の鐘』のモニュメントが置かれています。
この鐘は自由に鳴らすことができます。

竣工記念碑。
 

広場のベンチには同じく再開発事業で切り出された山須原ダムのコンクリートが使用されています。


九州電力のダムとしては珍しく、天端は開放。

  
『永遠の鐘』をズームアップ。
実際にはホイストクレーンのカバーで鐘が鳴らされることはありません。


ダムの下流。


貯水池の総貯水容量245万2000立米ですが2018年(平成30年)現在の堆砂量は74万1000立米。


右岸に取水口が二つあります。
右が1929年(昭和4年)からの第一取水口。左手が戦後の発電所増強により増設された第二取水口。

左岸の魚道。


全国で初めてとなる『通砂運用』機能を付加する、再開発が行われた西郷ダム(再)で、上流の山須原ダムでも同様の再開発が2022年(令和4年)に竣工しました。
山梨県の雨畑ダムで堆砂による浸水被害が問題化するなど、ダムの堆砂はダムの寿命や流域の河川環境にもかかわる重要なテーマです。
西郷ダムの成果は今後多くのダムでフィールドバックされてゆくに違いありません。

2804 西郷ダム(元)
宮崎県東臼杵郡美郷町西郷小原
耳川水系耳川
20メートル
84.5メートル
2452千㎥/1222千㎥
九州電力(株)
1929年
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3671 西郷ダム(再)(1722)
宮崎県東臼杵郡美郷町西郷小原
耳川水系耳川
20メートル
84.5メートル
2452千㎥/1222千㎥
九州電力(株)
2018年 再開発竣工

大内原ダム

2021-10-27 16:06:21 | 宮崎県
2021年10月18日 大内原ダム
 
大内原(おおうちばる)ダムは宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代の二級河川耳川下流部にある九州電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
1951年(昭和26年)の電気事業再編で誕生した九州電力は戦後の電力需要拡大に対処するため積極的な電源開発や既設発電施設の再開発を進めます。
耳川では1955年(昭和30年)に日本初の本格的アーチダムとなる上椎葉ダムと上椎葉発電所が完成、次いで翌1956年(昭和31年)に竣工したのが大内原ダムで大内原発電所で最大1万6000キロワットのダム式発電を行っています。
同発電所は耳川水系では唯一のダム式発電所です。
 
日向市から国道327号線を西進、美郷町との境界線すぐ先に大内原ダムがあります。
ダム全景を望めるスポットはなく、下流からはこれが精いっぱい。
写真ではゲートが3門しか見えませんが、全部で6門のローラーゲートを備えています。

 
ダム直下からもチャレンジしますがここまで。

 
ダム・発電所構内はすべて立ち入り禁止のため国道からフェンス越しの撮影となります。
こちらはダムに隣接した大内原発電所
耳川水系では唯一のダム式発電所です。


発電所を上流から
直上に開閉所があります。


手前2門が取水ゲート、奥にダムのピアが見えます。

 
取水ゲートを上流から。

 
ダムの上流面。
右手が除塵機がついた取水口。

 
ズームアップ
ピアにはアーチ状の鉄骨トラス製管理橋が架かっています。
同じようなトラス橋は中部電力名倉ダムでも見られました。

 
水利使用標識。

 
大内原ダムの標柱。

 
(追記)
大内原ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2817 大内原ダム(1721)
宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代
耳川水系耳川
25.5メートル
152.6メートル
7488千㎥/1239千㎥
九州電力(株)
1956年

中岳ダム

2021-10-27 07:50:20 | 鹿児島県
2021年10月17日 中岳ダム
 
中岳ダムは鹿児島県曽於市末吉町南之郷の一級河川大淀川源流部にある灌漑目的のロックフィルダムです。
曽於東部地区は透水性の高いシラス台地となっており稲作には不向きで零細な畑作営農を余儀なくされていました。
1996年(平成8年)に農水省による国営曽於東部地区農業水利事業が着手され、その灌漑用水源として2007年(平成19年)に竣工したのが中岳ダムです。
事業全体も2013年(平成25年)に竣工し、曽於市・志布志市に跨る曾於東部地区土地改良区約3100ヘクタールの畑地の灌漑設備が整備されました。
これにより農業経営規模の拡大や合理化が図られるとともに高収益作物への転換など農業経営の改善につながっています。
ダムの管理は曽於市、志布志市が共同で受託、実際の操作は曽於東部土地改良区に委託されています。

ダムは大淀川にありますが、水利権の関係で大淀川からの補給は5%未満にとどまり、集水の大半は二級河川安楽川の高岡頭首工からの揚水に依ります。
 
国道222号線に『大淀川源流中岳ダム』の案内板があり、これに従うとダムに到着します。

ダム下から
ここからでは堤高69.9メートル、堤頂長312.5メートルの規模を実感できません。

 
右岸から
一級河川大淀川源流をロックフィル堤体が閉め切ります。

 
右岸親柱の施工者による竣工記念碑
九州ではおなじみ金箔文字。

 
右岸の横越流式洪水吐。

 
天端からの眺め。
受益農地はダムの南方遥か、ここからは見えません。

 
総貯水容量431万立米
貯水量の95%は安楽川からの揚水に依ります。

 
左岸には三角屋根の巨大な管理棟
肝付町の荒瀬ダムの管理棟とうり二つ。

 
左岸の斜樋
こちらは大淀川の河川維持放流用ゲート。

 
右岸の取水口
安楽川からの補給および灌漑用水の取水が行われます。

上流面
草が侵食しつつあります。

広い天端は徒歩のみ開放。

左岸ダムサイトには各種記念碑や説明板が並びます。
こちらは国営農業水利事業の竣工記念碑。


水利使用標識
畑地かんがいのため、年間を通じ水利権が配分されています。


湖岸に置かれた巡視艇。
艇庫もインクラインもありません。

 
中岳ダムは農業用ダムとしては珍しく一級河川本流源流部に位置します。
大淀川の水を灌漑用に利用するのではなく、既得水利権があった安楽川の水の貯留地とし大淀川を間借りしているという表現が妥当でしょう。
 
(追記)
中岳ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2881 中岳ダム(1720)
鹿児島県曽於市末吉町南之郷
大淀川水系大淀川
69.9メートル
312.5メートル
4310千㎥/4250千㎥
曽於市・志布志市
2007年
◎治水協定が締結されたダム