小島教育研究所

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日本のオンライン教育があまりにもお粗末な訳(野口悠紀雄 東洋経済オンラインより)

2020-07-19 | 学習一般


 新型コロナウイルスの感染拡大で、世界の多くの国が一斉にオンライン教育を導入しました。ところが、日本では基礎教育段階のオンライン教育は、公立校では進展していません。他方、私立校の取り組みは早く、格差が広がっています。
 文部科学省は、小中学生に1人1台のデジタル端末を整備する「GIGAスクール構想」を加速するとしているのですが、それより重要なのは関係者の熱意です。
世界の小中学校はオンライン教育に移行
新型コロナウイルスの感染拡大で、世界各国の学校が閉鎖になりました。

 日本でも、3月2日、小中高校の一斉休校が決定されました。現在は再開しつつありますが、今後どうなるかわかりません。
通常の授業ができないため、世界の多くの国が一斉にオンライン教育を導入しました。
とくに欧米では、かなり迅速にオンラインに移行しました。

 アメリカでは、K-12(幼稚園年長から高校3年生まで)のレベルで、多くの学校が3月以降にオンライン授業に移行しました。

 JETRO(日本貿易振興機構)の資料によると、中国ではオンライン教育が2019年6月時点と比べて81.9%も増えました(「新型コロナ禍の下、オンライン教育などの利用が拡大(中国)」、2020年7月2日配信)。
利用者数は4億2296万人で、利用率は46.8%です。2018年12月時点での利用率は24.3%だったので、2.1倍になったことになります。
新型コロナウイルスの感染拡大で、全国の小中学校、高校、大学で新学期の開始が延期され、オンライン学習に切り替わったのですが、教育部は、1月29日には、小中学校の休校期間中はオンライン授業を受けることで学習を継続する方針を発表しました。

 韓国では4月9日以降、小学校から高校までの全学校でオンライン授業が開始されました。

 香港やインドなどでも、オンライン教育への移行が進みました。

 ところが、日本では基礎教育段階のオンライン教育は、進展していません。オンライン授業の普及は私立校などの一部にとどまり、公立校ではごく一部です。

 文部科学省の4月16日時点の調査によると、休校中または休校予定の1213自治体のうち、双方向型のオンライン指導をするのはわずか5%でした(「新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休業に関連した公立学校における学習指導等の取組状況について」)。
他社サイトからの引用となりますが、「ハフポスト日本版」が行った東京都内23区について行ったオンライン授業に関するアンケート調査によると、オンライン授業を行う予定があると回答したのは港区だけでした。ほかの区は検討中、あるいは予定なしです(「【東京23区調査】オンライン授業、導入は港区のみ。セキュリティ対策や家庭環境の差に苦慮」、2020年4月21日配信)。
港区は、各小中学校に1台ずつスマートフォンを配布して教師が動画を撮影。簡単にできる運動の紹介や教科書に掲載されている問題の解説などをYouTubeで限定公開しました。4年かけて準備していた構想を前倒しし、生徒1人にiPadを1台ずつ、計1万1000台を早急に導入する計画です。

デジタル機器利用率が、OECDの調査で最下位
経済協力開発機構(OECD)は、2018年に79カ国・地域約60万人の15歳(日本の高校1年生)の生徒を対象にデジタル機器利用率の調査を実施しました。
「1週間のうち、教室の授業でデジタル機器をどのくらい利用しますか?」に対する結果を見ると、「国語」の場合、日本は「利用しない」が83.0%です。
OECD平均は48.2%なので、大きな開きがあります。調査対象国の中で、日本は最下位でした。
「数学」「理科」「外国語」「社会科」「音楽」「美術」についても、同様の結果となりました。

学校外でPCなどを使って宿題を「毎日」「ほぼ毎日」する生徒の割合も、日本は3%で、加盟国平均の22%を大きく下回っています(OECD「生徒の学習到達度調査(PISA)」、2018年調査補足資料P4)。

日本でオンライン教育の導入が進まないのは、公立校の状況です。
私立校の取り組みは早く、一部の私立高校ではすでにオンライン授業が定着しつつあります。
「LINEリサーチ」が4月中旬、全国の高校生約900人に実施したアンケートによると、オンライン授業が取り入れられている比率は、国公立が9%だったのに対し、私立は26%でした(「【LINEリサーチ】オンライン授業への対応率は高校生で1割強、大学生も5割弱にとどまる」、2020年4月28日配信)。

 私立の幼稚園では、園児を対象にZoomのミーティングをやっているところもあります。
このように、学校間のデジタル格差が広がっています。

 デジタル格差は、教育そのものの格差です。そして、未来の社会における生活の格差につながります。
もちろん、基礎教育がオンラインだけで済むわけではありません。学校に集まることによって集団生活・社会生活の訓練をするのは、重要なことです。
したがって、オンライン教育に、新型コロナウイルスの時代の特殊事情があることは事実です。
しかし、オンライン教育は、新型コロナウイルスの時代においてのみ必要なものではありません。
オンライン教育は、地域格差を是正する重要な役割を果たせるはずです。

 例えば、図書館がないような僻地の学校の生徒でも、ネットで書籍を読めます。
あるいは、外国語の勉強で、ネイティブの発音などを簡単に聞くことができます。
日本は、もともと進めるべきオンライン教育を進めてこなかったのです。前述のOECDの調査結果は、それによってもたらされたものです。
なぜ日本で進まないのか?

 日本でなぜ基礎教育のオンライン化が進まないのでしょうか?
前述の「ハフポスト日本版」の調査で、港区以外の区で検討中、あるいは予定なしとなっている理由は、「端末の用意ができない」「家庭環境に差がある」「セキュリティー上好ましくない」「ノウハウ不足」などとなっています。
そして、「オンライン授業を行わなくても対応可能」とした区はありませんでした。
つまり、「オンライン授業が必要ないから行わない」というのではなく、「必要だが行えない」ということです。

 こうしたことはしばしば指摘されるのですが、完全に納得できるわけではありません。
「すべての家庭がPCやスマートフォンを持っているわけではないし、インターネットに接続できない家庭も多い」というのはそのとおりだと思います。
しかし、日本はスマートフォンも買えないほど貧しい国でしょうか? 1人当たりの所得でみれば日本よりずっと低い中国が、前述のように簡単にオンライン教育に移行しているのです。

 要は、日本人の意識がいまだにインターネット社会に移行しておらず、紙と電話の時代にとどまっているということにあるのではないでしょうか?
「オンライン教育を行うインフラがない」とか、「セキュリティーの問題がある」と言うのですが、港区がやったようにYouTubeで動画を公開することなら、今や小学生でもできます。

「教員にノウハウがない」と言うのですが、オンライン教育は「ノウハウが必要」というように技術的に高度なものではありません。
要はやる気があるかどうか、熱意があるかどうかです。

 文部科学省のネット環境も整備してほしい
文部科学省は、7月10日、「2019年度文部科学白書」を公表し、全国の学校や児童生徒のネット環境を整える「GIGAスクール構想」を加速するとしました。
この構想は昨年末に打ち出されたもので、小中学生に1人1台のデジタル端末を整備することを目標にしています。

 一斉休校を受けて、目標達成の時期を2023年度から今年度中に前倒しすることを決定。新型コロナ対策の補正予算に2292億円を盛り込みました。
しかし、PC整備の予算を確保すれば、それで問題が解決できるとは思えません。

第1に、なぜ公的な補助がないと機器が整備できないのでしょうか? すでに述べたように、日本の1人当たり所得は、PCが買えないほど低いとは思えません。
第2に、1度機器を購入すれば済むわけではありません。維持やサポートが必要です。通信費も必要になります。これらについても、国が補助することになるのでしょうか?
第3に、単位認定の仕組みも、オンライン授業を想定したものになっていません。例えば、学校教育法施行規則は、通信制を除く高校においてオンラインで取得できる単位を、全課程の修了要件の5割弱と定めています。

 要は、上で述べたように、関係者にやる気があるかどうかではないでしょうか?
ところで、各省庁の白書は、普通は公表されればウェブで全文が読めます。ところが、上記の白書については、簡単な「概要」が公表されているだけで、全文はウェブでは読めません。「令和元年度文部科学白書の公表について」という発表文には、「令和2年7月下旬 刊行予定」と書いてあるだけです。
学校のネット環境を整えることも重要ですが、文部科学省のネット環境も整備してほしいものです。

以上



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