ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

貴方解剖純愛歌 ~死ね~

2019年09月27日 | 名曲

【Live Information】  



 これからの日本のポピュラー音楽界を活気づけ、支えていくであろうミュージシャンのひとり、あいみょん。
 「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」は、そのあいみょんのデビュー・シングルです。


 もともとTOWER RECORDS限定のワン・コイン・シングルとしてリリースされたインディーズ・シングルなので、オリコン・チャートの記録は堂々の「圏外」。
 では、ひっそり目立たないデビューに終わったのかというと、どうやらそうではなさそうです。


 病んでいるというか、多少ホラーじみているというか、今どきの言い方をすれば「メンヘラ」な歌詞は大きなインパクトを残しました。
 なんといっても、愛する相手に「死ね」。
 死ね、ですよ、死ね。
 「死ね。 わたしを好きでないのならば」。
 こんな強烈な言葉をぶつけてくるラブ・ソングを聴いたのは初めてかもしれないなあ。


     


 対照的に、メロディーはポップ。そして、とにかくパワフル。
 ブルー・ハーツなどを思い起こさせるパンクなムードも持ちながら、飛び跳ねるように、伸びやかに歌われる、どこか「胸キュン」な曲です。
 歌詞が超過激であることを忘れてしまうような、軽やかな疾走感。
 あいみょん自身がライブのMCで、「世界一ピュアで可愛いラブ・ソング」と言ってのけるのもうなづけます。


 なんといっても、あいみょんの独特の感性が窺える歌詞が新鮮ですね。
  「ねぇ~」と「死ね~ぇ~」で韻を踏むところなんか、あとで考えると誰にでもできそうだけれど、それはいわゆるコロンブスの卵というやつで、実際こういうふたつの響きが同じ単語が脳裏に飛び出してくるところがまさにあいみょんの感性なのだと思うなあ。
 腕を切り落としたり目をくり抜いたりと、過激でホラーな言葉がひっきりなしに飛びだしてくるのですが、明るくエネルギッシュなメロディのおかげもあってか、ジメジメ感や絶望感があるようには思えません。
 「唇を縫い 私だけのキスを味わえばいいの」なんて、ちょっとした江戸川乱歩の世界?、、、でもなんだか可愛くもあるんです。
 どぎついとも思える歌詞だけれど、これは実際に腕を切り落としたり目をくり抜いてやろうとしているわけではなくて、それくらい相手のことが好きで好きでたまらないのだ、ということをあいみょん視点で言葉にしているだけなのではないでしょうか。
 ちょうど尾崎豊が「盗んだバイクで走りだす(15の夜)」「夜の校舎、窓ガラス 壊してまわった(卒業)」という言葉を当時のティーンエイジャーの荒れた気持ちを象徴する言葉として使い、彼らの思いを代弁したように。
 あいみょん自身も「冷たいアスファルトに流れるあの血の何とも言えない赤さが綺麗で(生きていたんだよな)」という歌詞を書いていますが、これなんかも「象徴としての歌詞」なんじゃないかな。
 (尾崎の歌を「犯罪を助長する」とか、「"血の赤いのが綺麗"だなんて不謹慎!」、などと評する声もあるようですが、これは国語力のなさ、いや想像力のなさから来ているのではないか、と自分では思っています。どのように読むのかは自由ですが、自分の感性に合わないだけで「不謹慎」「失礼」と決めつけてそれを押しつけて欲しくはないなあ)


     


 もちろん否定的な声もあるでしょうし、その否定的な声も受け取り方のひとつです。
 でも、きっと若い世代はあいみょんの率直な言葉や感性に安堵し、自分の気持ちを代弁してくれることに対して共感や信頼感を覚えていることでしょう。そして彼らはあいみょんに大きな拍手を送るであろうということは、想像するに難しくないのです。


 あいみょんって一見気だるそうな表情をしているけれど、その表情とはうらはらに声には明るさと温もりと湿り気が含まれていて、とても人間らしい響きがあると思うんです。



[歌 詞]



◆貴方解剖純愛歌 ~死ね~
  ■歌・ギター
    あいみょん
  ■リリース
    2015年3月4日
  ■作詞・作曲
    あいみょん
  ■編曲
    samfree
  ■チャート最高位
    2015年オリコン週間チャート  圏外



 あいみょん 「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」



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