【Live Information】
やっと行くことができた。
雨の上がりきらない、薄暗い夕方の倉敷の町。
美観地区と呼ばれる観光地のやや外れにある、白壁の町並みにひっそり溶け込んだ古本屋。
一目で本好きなのが伝わってくる(少なくとも僕にはそう思えた)女店主が、物静かに、店を守っている。
古本屋というと古書が乱雑に山積みされている印象があるけれど、さりげなく整頓された店内からは物静かな清潔感や微かな知性のようなものが 「あるのが当たり前」な感じで漂っているような気がした。
そんな店内の空気が僕を控えめに歓迎してくれているような錯覚に陥りながら、本棚を見て回る。
本棚のひとつに、CDが陳列されている。
手に取ってみる。
高柳昌行(guitar)、吉沢元治(bass)、豊住芳三郎(drums)という、日本のフリー・ジャズ草創期を担って奮闘したメンバーからなる、ユニークなトリオのライブ盤だ。
これを買って今夜の演奏場所に戻ろうと店主に品物を差し出すと、小さいけれど涼しげなよく伝わる声で、
「このCDは、制作の方が亡くなられたのでもう作られないのですよ。これが最後の一枚です」
と教えてくれた。
その言葉がイントロダクションとなって会話がはじまった。
この店へ来たいとずっと思っていたこと。
背表紙のタイトルを読むだけで楽しくて時間が経ってしまうこと。
そのうちに、子供の頃の倉敷の様子をお互いに話しあって、「懐かしいですねえ」などと言い合ったり。
店の外では、観光客だろうか、中年のちょっとお洒落な夫婦が中の様子を伺いながら、入ってみようかどうしようか迷っている。
閉店時間も間際なので、店休日だけを聞き、また来てみたい気持ちを抱えながら店を出た。
この古本屋は、ここに移転してくる前から通算すると開店25周年を迎えるそうだ。
店主の田中美穂さんはエッセイストでもあり、苔や亀に詳しいことで知られているユニークな方だ。
古本屋の名は、「蟲文庫」という。
今夜の演奏場所に戻ると、さっきの中年のご夫婦が入ってきた。
そして演奏後、ふたりはぼくたちに笑顔を向けながら、楽しそうに店を出て(たぶん宿へ)行った。
【Live Information】
5月1日(水:祝日)
岡山 元町珈琲 岡山西の離れ店 (岡山市北区白石235-7 tel 086-250-2358)
【出 演】小野ハンナ(piano)、皆木秀樹(bass)
【料 金】
【演 奏】18:00~、19:00~ (2回ステージ)
5月3日(金:祝日)
岡山 ピアノバー (岡山市北区野田屋町1-11-10 清水ビル3F tel 086-222-8162)
【出 演】美淋つゆ子(piano)、皆木秀樹(bass)
【料 金】1000円(飲食代別途)
【演 奏】21:00~、22:00~ (2回ステージ)
※シットイン可
5月8日(水)
岡山 ピアノバー (岡山市北区野田屋町1-11-10 清水ビル3F tel 086-222-8162)
【出 演】MISA(piano)、皆木秀樹(bass)
【料 金】1000円(飲食代別途)
【演 奏】21:00~、22:00~ (2回ステージ)
※セッション可
5月18日(土)昼
岡山 下石井公園 (岡山市北区幸町10-16番地先 tel 086-803-1686)
ジャズ・イン 西川 2019春 Ⅱ
【出 演】三浦"whoomin"史雄(vocal, mouth-harp)、黒瀬尚彦(guitar)、内山行生(guitar)、内村奈実(keyboard)、新田佳三(drums)、皆木秀樹(bass)
【料 金】無料
【演 奏】14:40~15:00
5月18日(土)夜
岡山 GROOVY (岡山市北区田町2-5-23 tel 086-221-7721)
【出 演】山本博之(piano)、皆木秀樹(bass)
【料 金】2000円(飲食代別途)
【演 奏】20:00~ (2回ステージ)
※シットイン可
5月22日(水)
倉敷 アヴェニュウ (倉敷市本町11-30 tel 086-424-8043)
【出 演】古山修(guitar)、新田佳三(drums)、皆木秀樹(bass)
【料 金】1000円(飲食代別途)
【演 奏】20:00~、21:00~、22:00~ (3回ステージ)
※シットイン可
5月24日(金)
岡山 ピアノバー (岡山市北区野田屋町1-11-10 清水ビル3F tel 086-222-8162)
【出 演】古山修(guitar)、皆木秀樹(bass) ライブ&セッション
【料 金】1000円(飲食代別途)
【演 奏】21:00~、22:00~ (2回ステージ)
※セッション可
5月26日(日)
岡山 ホテルグランヴィア岡山 (岡山市北区駅元町1-5 tel 086-234-7000)
【出 演】山科賢一(piano)、秋山もへい(sax)、河本ゆり(violin)、皆木秀樹(bass)
【料 金】
【演 奏】
5月31日(金)
倉敷 木庵 (倉敷市川西町18-23 tel 086-421-9933)
【出 演】秋山文緒(piano)、皆木秀樹(bass)
【料 金】飲食代のみ
【演 奏】19:00~ (2回ステージ)
【Live Information】
「ロック・アラウンド・ザ・クロック」(1954年)をロック・ミュージックの歴史の始まりとするなら、ロックの誕生からすでに60年以上経っていることになります。
その中でも、1960年代後半から1970年代半ばくらいまでがより創造的でより革新的な空気に満ちていた時期だったのではないでしょうか。この頃がぼくの中でのロック界が燦然と煌めいていた黄金期なのです。
多くのミュージシャンがさまざまな方向性やスタイルを模索、確立していったその当時、「ニュー・ロック」「アート・ロック」と呼ばれていたサブ・ジャンルがありました。代表的なミュージシャンとして、クリーム、ジミ・ヘンドリックス、ドアーズ、ディープ・パープル、ナイス、フランク・ザッパ、そしてヴァニラ・ファッジなどの名が挙げられます。
1960年代後半当時のディープ・パープルとヴァニラ・ファッジは、曲におけるオルガンの比重が大きいこと、積極的にクラシカルな要素も取り入れていること、やや陰のあるサウンドを持っていること、など共通点も多いです。そのため、アート・ロックの旗手と見なされている部分もあったようです。
ヴァニラ・ファッジは、1967年にファースト・アルバム「ヴァニラ・ファッジ」とデビュー・シングル「ユー・キープ・ミー・ハンギン・オン」をともに全米6位に送り込み、順風満帆なスタートを切りました。
とくに豪快で重量感のあるティム・ボガート(bass)とカーマイン・アピス(drums)のリズム・セクションは一躍注目を集めるようになりました。
アート・ロックの旗手として評判を高めていったヴァニラ・ファッジが翌1968年に第4弾シングルとしてリリースしたのが「ショットガン」です。
「ショットガン」は、ジュニア・ウォーカー&オール・スターズが1965年に全米(ビルボード)3位に送り込んだ大ヒット曲です。
「ユー・キープ・ミー・ハンギン・オン」はシュープリームスのカヴァーですし、ヴァニラ・ファッジはR&Bからも多くの影響を受けていたのかもしれませんね。
イントロから重量感たっぷりのドラムが炸裂します。
オルガンとギターがサイケデリックで緊迫した空気を醸し出しています。
リード・ヴォーカルはオルガンのマーク・スタイン。ソウルフルな声質が曲によくマッチしています。
ヴィンス・マーテル(ギター)とマーク・スタイン(オルガン)のソロが、ヘヴィーでやや陰鬱な曲調を高めてゆきます。
そしてカーマイン・アピスのソロ。
ずっしりしたグルーヴ、独特の音色、ワイルドで血がたぎるようなフレーズ、どこを取ってもカーマインそのものの豪快なドラミングです。
この当時としては、存在感の大きさではジョン・ボーナム(レッド・ツェッペリン)と双璧をなしていたのではないでしょうか。
続くティム・ボガートのウェットでソウルフルなソロのシブいこと。
エンディング前のコーラス・ワークは、「アート・ロックたるヴァニラ・ファッジの本領発揮」といったところでしょうか。
ジュニア・ウォーカー・ヴァージョンの「熱さ」を受け継ぎながら、ブリティッシュ・ロックならではのダークな雰囲気と、ヘヴィーなサウンドを加味したヴァニラ・ファッジの「ショットガン」は、のちに全盛をきわめることになるハード・ロック・シーンに大きな影響を与えた、ロック界の重要なマイルストーンではないかと思うのです。
ティム・ボガートとカーマイン・アピスのふたりは、ヴァニラ・ファッジ脱退後はともにカクタスやベック・ボガート&アピスに加わり、1970年代屈指の強力なリズム・セクションとしてブリティッシュ・ロック界に君臨しました。
[歌 詞]
[大 意]
ショットガンだ
ぶっ放せ
ターンしろ、ベイビー 今すぐに
X線を装備してダンスしに行くんだ
今すぐショットガンを買うんだ
壊せ、装填してぶっ放せ、ベイビー
翔べ、ベイビー
翔ぶんだ、ベイビー
◆ショットガン/Shotgun
■歌・演奏
ヴァニラ・ファッジ/Vanilla Fudge
■シングル・リリース
1968年
■作詞・作曲
オートリー・デウォルト/Autry DeWalt
■プロデュース
ヴァニラ・ファッジ/Vanilla Fudge
■録音メンバー
☆ヴァニラ・ファッジ/Vanilla Fudge
ヴィンス・マーテル/Vince Martell (guitar, vocal)
マーク・スタイン/Mark Stein (keyboards, vocal)
ティム・ボガート/Tim Bogert (bass, vocal)
カーマイン・アピス/Carmine Appice (drums, vocal)
■チャート最高位
1968年週間チャート アメリカ(ビルボード)68位
■収録アルバム
ニア・ザ・ビギニング/Near the Beginning (1969年)
ヴァニラ・ファッジ『ショットガン』
【Live Information】
セッションの時に聞くセリフ。
「失敗してすみません」
「間違えてすみません」
「へたですみません」
失敗は悪いことでしょうか。
間違えられるのは迷惑なことなのでしょうか。
もしかして、「失敗したから叱られることを恐れて、先手を打って先に謝っておく」的な?
なにもしないよりはるかにまし。
鍵盤を押さえなければ、弦を弾かなければ、息を吹き込まなければ、物語ははじまりません。
大切なのは、ありのままの自分の音を出すこと、自分にできることを精一杯やること、だと思います。
いま「うまい人」だって、かつては「下手で、たくさん間違え、失敗ばかり」していた頃があったのです。
失敗は失敗、ミスはミスですが、それは「悪いこと」ではありません。
悪いことではないのだから、自分を責める必要はないのです。
「失敗」を「悪いこと」ということにすると、いずれ自分が失敗した人を責めるようになります。
誰かを責めるところにいい結果は生まれません。マイナスのループに陥るだけです。
だから「すみません」を言わなくても大丈夫です。
「ありがとうございました」でいいんです。
「失敗=悪」、あるいは「ミス=恥」と捉えなくても大丈夫です。
失敗やミスは自分にとっての「課題」や「弱点」を教えてくれるものなのです。
【Live Information】
レッド・ツェッペリン。
言うまでもなくロック史上に残るバンドであり、語り継がれるであろう存在です。
「ハード・ロックの雄」として有名ですが、単に大音量でハード・ロックを演奏するだけのバンドではありません。このことについては、いまでは大多数のロック・ファンの共通認識となっていると思います。
彼らの音楽のベースになっているのがブルースであるのはもちろんですが、サイケデリックな一面を持っていたり、大胆に新たな要素を取り込んでみようとする進取性も見受けられます。そして、特筆されるのは、トラッド・フォークから強い影響を受けていることです。
アコースティックな響きを持つツェッペリンの曲といえば、まず「天国への階段」があげられるでしょう。
ぼくがそれ以上に好きなのが「サンキュー」です。
アコースティック・ギターのカッティングと、グルーヴィーなファンク調のリズムが優しくも心地良いのです。
ジョン・ポール・ジョーンズの奏でるオルガンは気品があり、どこか安らぎをもたらしてくれる感じがあります。
ジョン・ボーナムのドラムは、こういうバラードでも変わりはないですね。
ズシリと重量感がありながらも、リズムは決してもたることはありませんし、音色には「ボンゾ(=ジョン・ボーナム)そのもの」の独特なカラーがあるのです。
もともとツェッペリンはシングル・レコードをほとんどリリースしないバンドで、この曲もシングル・カットはされていません。
しかし、名盤「Ⅱ」の中にあって、淡いながらもしっかりとした輝きを放っているのです。
派手ではありませんが、はっきりした個性を持っているので、アルバムの曲の配置が「引き締まって」いるように思えるんです。
LPレコードではヘヴィなブルースの「レモン・ソング」の次に位置されていて、そのアコースティックな落ち着いた曲調でA面を締めくくるにこれ以上ない雰囲気を醸し出しています。また逆に、次にかかるB面1曲目のハード・ロック・ナンバー「ハートブレイカー」のメタリックな要素を際立たせている感じもしますね。
この曲は、ロバート・プラントが本格的に作詞した初めての曲です。
当時の夫人に捧げられた、情熱的なラヴ・ソングだということです。
[歌 詞]
[大 意]
もしも太陽が輝くのを拒んでも
私はまだあなたを愛しているだろう
山々が海へ崩れる時
あなたと私はそこにまだいるだろう
優しい女よ、私はあなたに私の全てを捧げよう
優しい女よ、それ以上何もない
雨の小さなしずくは痛みのささやき
愛の涙は失った過ぎ去りし日
私の愛は強く、あなたと共にいることは間違ってはいない
私たちは死ぬまで一緒に行こう
私のひらめきはあなたが私へ向けているもの
ひらめきを見ておくれ
そして今日、私の世界は微笑む
あなたの手は私の中にあり、私たちは何マイルも歩く
私にとってあなたが唯一のものであることを感謝している
ハピネス、もう悲しいことはない
ハピネス、私は嬉しい
◆サンキュー/Thank You
■歌・演奏
レッド・ツェッペリン/Led Zeppelin
■発 表
1969年10月
■収録アルバム
レッド・ツェッペリン Ⅱ/Led Zeppelin Ⅱ (1969年)
■作詞・作曲
ジミー・ペイジ、ロバート・プラント/Jimmy Page, Robert Plant
■プロデュース
ジミー・ペイジ/Jimmy Page
■録音メンバー
☆レッド・ツェッペリン/Led Zeppelin
ロバート・プラント/Robert Plant (lead-vocal)
ジミー・ペイジ/Jimmy Page (12string-acoustic-guitar, electric-guitar, backing-vocal)
ジョン・ポール・ジョーンズ/John Paul Jones (bass, organ, backing-vocal)
ジョン・ボーナム/John Bonham (drums, backing-vocal)
レッド・ツェッペリン『サンキュー』
【Live Information】
なんとなく、なんとな~く「ムーンライト・サーファー」を聴いてみたくなりました。
歌っているのは石川セリ。
1979年にシングル・カットされています。
石川セリといえば、あの井上陽水夫人にして、シンガーの依布サラサの母です。
石川セリはポップス系のシンガーで、1970年代後半から人気を得るようになりました。
1977年に発表した陽水作の「ダンスうまく踊れない」が知られていますが、これは1982年に高樹澪のカバー・ヴァージョンが大ヒット、オリコン・チャートの3位にまで上昇しました。
そのほかにも荒井由実や南佳孝らから曲の提供を受けていますが、ぼくが一番好きな彼女の曲は、なんといっても「ムーンライト・サーファー」です。
もともとは1977年に発表したサード・アルバム「気まぐれ」に収録されていたものですが、2年後にシングル・カットされました。
作詞作曲は中村治雄。
「中村治雄」といってもピンと来ないかもしれませんが、反骨のロッカーとして知られる「PANTA」の本名だと言えば、うなずいたり驚いたりと様々な反応があるのではないでしょうか。
過激なパフォーマンスで知られた頭脳警察を率いていたPANTAとは思えないような作風ですが、どこか胸に染み入るようなセンチメンタリズムが漂っていて、そこを避けては聴けないような気がしていたんです。
曲は三部構成になっています。
キーボードによるアルペジオに導かれて曲が始まります。
バックに流れる波の音のSE。
ボサノバの雰囲気も感じられるシンプルなバラードで歌が始まります。
ボリューム・コントロールを活かしたギターのオブリガードと、抑え気味のシンセサイザーによるバッキングにとてもそそられます。
ミドルはレゲエ風。ベースの太い音色がたくましくうねっていますが、時おり遠吠えするかのような高音でのフィル・インに気持ちを高揚させられますね。
そしてサビは軽快なロックン・ロール。サーフ・ロックそのものの明るいノリで、いわゆる「テケテケ・サウンド」的なギターは潮風と白い波を感じさせてくれるんです。
だけどどこか哀愁が漂っているんです。
歌詞を読むと、思い浮かぶのは海辺でデートを重ねているふたりの姿です。
ボードから落ちた彼を見て、はしゃぎ、明るく笑う彼女。
そんな彼女を笑顔で優しくこづく彼。
歌詞の中の彼女は、失恋して、楽しかった日と海辺の記憶に浸っているのでしょうか。
でも詞を読んでいるうちに、そうではないことが分かってきます。
「星をさがすの あなたの星を」
彼は、決して戻ってくることのできない遠くに行ってしまったんですね。
わずか14字で詞の風景をガラリと変えてしまうこの表現が大好きです。
そして彼女は、涙で彼を悼むかわりに、夜の海で波に乗るのです。
きっと彼がそうしていたように、笑顔で。
ポップで温もりのあるメロディですが、月の光が映える静かな海を思わせるようなアレンジからはなんともいえない哀愁が漂ってきます。
彼女は砂浜に座り、暗い海を、いやそのもっと遠くを、かすかに微笑みながら見つめているのでしょう。
どちらかといえばマイナーな存在の曲、知る人ぞ知る曲、と言った方がいいのかもしれません。
でも石川セリの、感情を胸の奥にしまい込んだようなボーカルがこの曲の良さを引き出しているようにも思うのです。
[歌 詞]
◆ムーンライト・サーファー
■歌
石川セリ
■発表
1977年
■作詞・作曲
中村治雄
■編曲・プロデュース
矢野誠
■シングル・リリース
1979年7月
■収録アルバム
気まぐれ(1977年)
石川セリ『ムーンライト・サーファー』