1980年代に一世を風靡したドラマに「金曜日の妻たちへ」がありましたよね。ぼくはテレビをほとんど観ないのですが、このドラマが「金妻現象」を起こして人気を得ていることは知ってました。たしか、このドラマがきっかけで「浮気」が「不倫」などという婉曲な言葉に言い換えられるようになったんではなかったでしょうか。
ドラマはパートⅢまであって、パートⅠの主題歌はピーター・ポール&マリーの「風に吹かれて」が使われたり、パートⅡの挿入歌にはバンバンの「いちご白書をもう一度」が使われたりしてたんですよね。そしてパートⅢの主題歌がこの「恋に落ちて」でした。テレビを観ないまでも、この曲は有線放送やラジオでしょっちゅうオンエアされていたし、演奏したことも多かったので、自然に覚えてしまいました。この曲をカラオケの十八番にしていた人も多かったように思いますね。
ピアノ主体の典型的なバラードで、ミディアム・スローの8ビートです。この手の曲って、たいがいオーバー・プロデュース気味にストリングスやシンセサイザーが施されがちなんですが、この曲のレコードでのアレンジは必要最少限、という感じ。おそらくは「不倫」相手へのつのる想いを託した歌なんでしょうが、そのさりげないアレンジがドロドロになりがちな雰囲気をうまく上品に昇華させているような気がします。
ドラムやベースもベーシックなパターンに終始していますが、これが却って曲を落ち着かせている効果があると思います。
ピアノによるイントロもとても印象的ですよね。ぼくも弾いてみたくなって、楽譜を買いましたよ。
小林明子さんは、大学時代はハード・ロック・バンドでキーボードを担当していました。大学卒業後、東大教授の秘書を経て音楽制作会社に勤務することになるのですが、このころブレッド&バターへの楽曲提供などをきっかけにして本格的な音楽活動を開始しました。
「恋におちて」は、1984年に書かれたものですが、この曲を歌う予定だった歌手が引退してしまいます。その後偶然ドラマ「金曜日の妻たちへ」の関係者がこの曲を聴いて気に入りました。そして替わりの歌手を探していたのですが、結局小林さん自身が歌っていたデモテープの歌声がいい、ということになり、小林さんの歌手デビューとなったんだそうです。
もともと歌い手としてのトレーニングを積んでいたのかどうかは寡聞にして知らないのですが、柔らかで心地よい、安定した歌声ですよね。ほどよい力の抜け具合もよく、時折り聴かせるファルセットもきれいです。
この曲は抑えても抑えてもこみ上げてくる想いを描いた歌だと思うんですけれど、気持ちの高ぶりを抑えた、しんみりと落ち着いた歌いぶりに好感が持てます。
オリコンでも通算7週1位を獲得してますし、年間チャートでも85年は3位、86年は6位にランクされています。また、85年のレコード大賞では新人賞も受賞しました。
小林さんはこの曲の大ブレイクをきっかけにシンガー・ソング・ライターとして活躍しました。でものちにプログレッシヴ・ロックのフィールドで活動したい、という希望で渡英したんですよね。元JAPANのメンバーなんかともコラボしたりしていたようです。
「恋におちて」はJ-POP史上に残る名曲だと思います。近年では徳永英明さんが自己のアルバムでカヴァーして話題になりました。他にも河村隆一さんとか、岩崎宏美さんなんかもカヴァーして愛唱しているようです。
小林明子『FALL IN LOVE』
[歌 詞]
◆恋におちて -Fall in love-
■歌
小林明子
■シングル・リリース
1985年8月31日
■作詞
湯川れい子(英語部分は山口美江 クレジットなし)
■作曲
小林明子
■編曲
萩田光雄
■チャート最高位
1985年 週間チャート オリコン1位
1985年度年間チャート オリコン3位
1986年度年間チャート オリコン6位
■収録アルバム
FALL IN LOVE
■製作総指揮…ジェリー・ブラッカイマー
■監督…リドリー・スコット
■音楽…リサ・ジェラード、ハンス・ジマー
■原作…マーク・ボウデン
■2001年 アメリカ映画
■出演
☆ジョシュ・ハートネット(エヴァーズマン二等軍曹)
☆ユアン・マクレガー(グライムズ特技下士官)
☆トム・サイズモア(マクナイト中佐)
☆エリック・バナ("フート"一等軍曹)
☆ウィリアム・フィクトナー(サンダーソン一等軍曹)
☆サム・シェパード(ガリソン少将)
☆オーランド・ブルーム(ブラックバーン上等兵)
☆ユエン・ブレムナー(ネルソン特技下士官)
☆ロン・エルダード(デュラント准尉)
☆ジェレミー・ピヴェン(ウォルコット准尉)
☆ヒュー・ダンシー(シュミッド衛生兵)
☆ヨアン・グリフィズ(ビールズ中尉)
☆ジェイソン・アイザックス(スティール大尉)
☆ジョニー・ストロング(シュガート一等軍曹)
☆ニコライ・コスター=ワルドウ(ゴードン曹長)
☆グレン・モーシャワー(マシューズ中佐)
☆ジェリコ・イヴァネク(ハレル中佐)
☆スティーブン・フォード(クリッブス中佐)
☆リチャード・タイソン(ブッシュ一等軍曹)
☆パベル・ボーカン(ブライリー准尉)
☆チャーリー・ホフハイマー(スミス伍長)
☆トム・グアリー(ユーレク二等軍曹)
☆ダニー・ホック(ピラ三等軍曹) etc・・・
戦争関連の映画はわりと好きで観ます。もちろん「戦争が好き」、という意味ではなくて、アクションものとして観ているんですけどね。
でも結構見受けられるのは、アメリカを「善」、敵対国を「悪」とした図式のものですよね。こういった類のものは単なる「アクションもの」としてしか観ませんし、あまり心に残るものでもありません。
しかし、極限の場における兵士の心理を掘り下げたものとか、「敵対国」からの視点も取り入れて極力フラットに描こうとしているもの、あるいは忠実に史実を再現しようとしているもの、戦争の醜悪さを描こうとしているものなど、いわゆる「社会派」的な作品は考えさせられることも多く、よく観ます。
この「ブラック・ホーク・ダウン」は、世界最強を自認するアメリカ軍が、意に反して地獄のような戦闘に引きずり込まれてゆくさまを率直に描いた作品です。その意味でいうと、史実を忠実に再現しようとした映画の種類に入るかもしれません。
1993年、国際世論におされたアメリカ軍は、民族紛争の続くソマリア内戦に介入します。そして内戦を終結させようと、最大勢力ババルギディル族を率いて和平に反対するアイディード将軍の副官2名を逮捕するため、10月に約100名の特殊部隊を首都モガディシュへ強襲させました(モガディシュの戦闘)。
当初、作戦は1時間足らずで終了するはずでしたが、作戦の開始直後に、アイディード将軍派の民兵の攻撃により、2機の軍用ヘリコプター、ブラックホークがロケット弾RPG-7によって撃墜されてしまいます。
作戦(副官の逮捕)には成功しますが、敵地の中心へ仲間たちの救出に向かう兵士らは、泥沼の市街戦に突入していくのです。
映画の開始約40分後から延々80分以上に渡って淡々と、しかも実にリアルに戦闘シーンだけが描かれてゆきます。政治的な側面の説明も最小限にとどめられています。
画面はほとんどアメリカ軍からの視点なのですが、それも戦術的なもの(つまり戦闘シーン)に限られていて、各兵士のデリケートな人間としての感情などには極力、あるいは必要以上にスポットを当てず、ドキュメンタリー・タッチで映像は続いてゆきます。
もちろんアクション映画お定まりの人間離れしたヒーローなどは一切登場せず、各兵士がそれぞれの持ち場で最善を尽くす様子だけをカメラは追っています。しかしその中でも、古参兵士役のエリック・バナとウィリアム・フィクトナーの臨機応変な活躍ぶりは目立っていると思いました。
もともとぼくは、製作者のジェリー・ブラッカイマーの作品に対しては、悪く言えばこけおどしのような、派手なアクション・シーンが多いわりには中味の薄いものが多い、と思っていましたが、この作品に限っては、余計な装飾を省いているような気がします。ただ忠実に戦闘シーンを追い、アメリカ軍が次第に守勢に回って敗北の危機にさらされるまでを撮り続けているのです。
そしてアメリカ軍の戦術的危機にも大胆に切り込むなど、従来の「世界の警察たる強いアメリカ」という前提にも振り回されていません。アメリカ軍の醜態にもメスを入れたものとしては、あの「プラトーン」にも通ずるものがあるかもしれません。
登場人物が多いため、1度観ただけでは整理がつきにくいかもしれません。でもあえて登場人物を絞らなかったのは(原作よりは絞られている)、個人の活躍にスポットを当てるよりも、全体の流れを描くほうに重きを置いているのかもしれないですね。逆に言えば、登場人物のほとんどが「英雄的働き」をしているのです。
出演者を見ると、ジョシュ・ハートネット、トム・サイズモア、ウィリアム・フィクトナー、ユエン・ブレムナーなど、「パールハーバー」とか「ヒート」などのアクション大作で見たことのある顔ぶればかりです。個人的にはロン・エルダードの好演も見応えがありました。
映画そのものはとても面白く観ることができました。まさに画面に釘付け状態でした。144分があっという間に感じられました。
戦後60年にわたって平和を享受している日本にあって、なかなかこういう極限状態は想像しにくいですが、それでも現実には戦乱・動乱の真っ只中にある国も多いことを知っておく必要があると思います。せめてこういう類の映画でその悲惨さ、醜悪さの存在を脳裏に焼き付けておくべきなのかもしれないですね。
「ブラック・ホーク・ダウン」 予告編 日本版
人気blogランキングへ←クリックして下さいね