ぼくがグレン・ミラー・オーケストラを聴きに行ったのは高校時代でした。もちろんその頃はすでにグレン・ミラーはこの世にはおらず、後進がバンドをまとめて積極的に活動していました。いわば「若手の登竜門」的な存在のバンドになっていたように思います。
題名は知らなくとも、聴いたことのあるナンバーがたくさん出てきて、とても満足して家路についたのを覚えています。
それから何年かして、映画「グレン・ミラー物語」の存在を知ったのでした。
■グレン・ミラー物語 (The Glenn Miller Story)
監督…アンソニー・マン
音楽…グレン・ミラー
編曲…ヘンリー・マンシーニ
公開…1954年
出演
☆ジェームス・スチュワート(グレン・ミラー)
☆ジューン・アリスン(ヘレン・ミラー)
☆ヘンリー・モーガン(チャミィ)
☆チャールズ・ドレイク(ドン・ヘイネス)
☆シグ・ルーマン(質屋のオーナー)
☆ジョージ・トビアス(シュリブマン)
☆ハートン・マクレーン(アーノルド将軍)
☆ルイ・アームストロング
☆ジーン・クルーパ
☆グレン・ミラー・オーケストラ etc・・・
*以下はネタバレが含まれています*
物語はグレンが不遇の時代から始まります。グレンは大事なトロンボーンを質屋に預けては糊口をしのぐ、という生活を送っていたのですが、そんな時期に大学の同窓生であるヘレンに唐突とも言えるプロポーズを行い、見事に花嫁と幸せな生活をスタートさせます。このへんの強引さも一途なグレンの人柄を表しているようで、とても興味深かったですね。この頃からグレンは、個性を持った独自のサウンドを追求しようと躍起になっています。
ジェームス・スチュワート
安定したショウバンドの伴奏者としての職を得てからのグレンは現状に満足しますが、妻ヘレンは音楽の勉強に時間を割くことを強く勧めます。また、初代グレン・ミラー・バンドの設立費用を内緒で貯め込んであったり、グレンにさまざまなアドバイスを送ったりして、「個性の際立ったグレン・ミラー・バンドの設立」に向けて夫を励まします。まさに内助の功があってのグレン・ミラーだったわけですね。ある意味夫唱婦随といった感じも受けますが、決してヘレンは陰の存在ではなく、積極的にグレンに協力しているのが清清しい感じを受けます。いつもニコニコしているヘレン、女性としての魅力にもあふれていると思います。
グレンが習作として作った「ムーンライト・セレナーデ」を自己のアレンジで大ヒットさせたのを皮切りに、彼は次々とヒットを飛ばします。ヘレンを強引にニューヨークへ連れて来たときに教えた自分の電話番号「ペンシルヴェニア6-5000」をモチーフにした曲を発表するシーン、不遇時代にはイミテーションしかあげられなかった「真珠の首飾り」の本物を誕生祝いにプレゼントするシーン、ヘレンが昔から愛聴していた「茶色の小瓶」をアレンジするなど、過去のシーンを仕掛けとして散りばめて置き、のちにその曲たちを劇中で披露するなど、演出の工夫が見られますね。
派手なシーンこそありませんが、自分の音楽に賭けるひとりの人間の努力と執念が窺える秀作ではないかと思っています。
古き良き時代の、アメリカン・ドリームを実現したグレンの成功物語、とも言うことができるでしょうが、やはりここは、個性的な自己のサウンドを目指してついにはそれを確立するグレンの苦心の物語と見たほうがしっくりくると思いますね。またヘレンとグレンとの夫婦愛も見逃すことができないポイントだと思います。
第二次世界大戦が始まると、グレンは志願して陸軍の音楽隊に大尉(のち少佐)として入隊します。ところが行軍訓練中に音楽をありきたりの退屈なマーチから急遽「セントルイス・ブルース・マーチ」に変更、直上官の大目玉を食らいますが、アーノルド将軍からは認められ、グレン自身は楽団を組んで慰問に出かけることを提案、快く受け入れられます。
前線では、空襲中にひるむことなく「イン・ザ・ムード」を演奏し続けて大喝采を浴びるシーンなどが印象深かったですね。
1944年の12月、グレンはクリスマスの特別放送のためパリに飛びますが、その途中ドーバー海峡で遭難、行方不明になります。同月18日には公式に戦死と発表れました。
ラスト・シーンはそのパリからの特別放送を聴いているヘレン、やチャミィ、シュリブマンの旧友たちですが、オープニングの「ムーンライト・セレナーデ」に続いて、あの思い出深い「茶色の小瓶」が流れるところなど、グレンの想い出にひたるヘレンの悲しみがよく伝わってきました。
ジューン・アリスン
楽団の個性を大切にしていたグレンの音楽はこれからも生き延びるだろう、とチャミィやシュリブマンはヘレンを勇気づけます。そしてその言葉通り、グレンの音楽はこの21世紀でも愛され続けているんですね。
結末は悲しいですが、将来の夢を忘れない、前向きなセリフも心に残りました。
ジャズ好きな人、1950年代の健康的なアメリカ映画が好きな人にはお勧めしたい作品だと思います。
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