ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

秋吉敏子トリオ Live At Blue Note Tokyo '97

2007年06月28日 | 名盤


 今や日本はアメリカをも凌ぐ勢いの、第2のジャズ大国と言われています。
 そして今では、山中千尋、上原ひろみ、アキコ・グレース、川上さとみ、安井さち子、早間美紀など、女性ピアニストの活躍が目立っています。
 こうした動きの源流とも言えるのが秋吉(正確には「穐吉」)敏子さんの存在です。
 まだ民間人が渡米することさえ困難だった1956年、秋吉さんは奨学金を得て、日本人で初めてバークリー音楽院の門をくぐりました。現代で言えば、野茂英雄投手のメジャー移籍、いや、はるかにそれ以上の重みのある挑戦ではなかったかと思います。


 秋吉さんのピアノを聴いていると、「女流」だとか、「日本人ピアニスト」だとかの、狭いカテゴリー分けが無意味に思えてきます。
 彼女は性差や国籍の違いなど問題にしないくらいスケールの大きな、自分のスタイルをはっきりと持つピアニストだと改めて思うのです。
 「ピアニスト」である秋吉さんが影響を受けたスタイルは、やはりジャズの伝統的な流れのひとつである「バップ」にあると思います。「バップ」の音楽世界を貪欲に吸収したうえで、自分のルーツ、つまり日本人であることを音楽に反映させたのが「作曲家」としての秋吉さんのスタンスではないでしょうか。


 「ピアニスト秋吉敏子」を聴きたい時に、ぼくがCD棚から最近よく取り出すのが、この「ライヴ・アット・ブルー・ノート・東京'97」です。このメンバーは、秋吉さんが単独で帰国する時のスペシャルなトリオだということです。
 このトリオは1997年にブルー・ノート東京でライヴを行いましたが、その模様を録音したテープが発掘され、「ライヴ・アット・ブルー・ノート・東京'97」のタイトルでCDとして発表されたわけです。
 欲を言えば、もう少し録音が良ければな~、と思うこともなきにしもあらずですが、それ以上に熱のこもった、それでいてどこかアット・ホームな演奏には耳を傾けずにはいられません。


 聴いていて目立つのが、ドラムの日野元彦さんの活躍ぶりです。グルーヴィーな4ビートを出しつつ、ある時はスティックで、またある時はブラシで、秋吉さんのピアノが発する音に呼応しています。そのドラミングは、ピアノと拮抗したり、ピアノの後押しをしたり、サウンド全体を煽ったり、ドラムでカウンター・メロディーを歌ったり、と実に音楽的で、秋吉さんのピアノを2倍にも3倍にも魅力的なものに仕立て上げているようです。
 日本のジャズ界を支え、牽引していた日野さんですが、このライヴの2年後の1999年に、惜しまれながら53歳の若さで亡くなりました。


 ベースの鈴木良雄さんのプレイ、「堅実」という言葉がピッタリと当てはまりますね。オーソドックスに4ビートでウォーキングしながら、バンドのサウンドを下から支えている感じです。派手さはないのですが、実に味のあるプレイだと思います。鈴木さん自身がもともとピアニストであるという経験から、フロントを支えるためのプレイを熟知しているのかもしれません。また、ベース・ソロの時にはとてもメロディックに歌っていますが、これはソロ構築がベースからの視線だけでなく、メロディー楽器からの視線も備えているためあのように歌えるのではないかと思うのです。



左から 鈴木良雄、秋吉敏子、日野元彦


 全7曲中、秋吉さんのオリジナルが3曲、スタンダードが3曲、バド・パウエルの曲が1曲です。中でもぼくが好きなのは、明るいメロディーが楽しい「カウント・ユア・ブレッシング・ステッド・シープ」、バド・パウエル作の高速4ビートでダイナミックなドラム・ソロが堪能できる「ウン・ポコ・ロコ」、秋吉さんオリジナルの意欲作「ロング・イエロー・ロード」、これも秋吉さんの作で情熱的なラテン・リズムの曲「シック・レディ」あたりでしょうか。


 日本のジャズ界の扉を世界に向けて開いたのが秋吉さんでしょう。いわば、ジャンルを問わず国際的に活躍する日本人のパイオニア、といったところでしょうか。
 秋吉さんは、78歳になる今でも現役で活躍中です。いつまでも第一線で弾き続けて欲しいプレーヤーのひとりです。

 

◆ライヴ・アット・ブルー・ノート東京 '97
  ■演奏 
    秋吉敏子トリオ フィーチャリング日野元彦
  ■リリース 
    2001年9月21日
  ■録音 
    1997年9月22日〜24日 (ブルー・ノート東京)
  ■収録曲
    ① ロング・イエロー・ロード/Long Yellow Road (秋吉敏子)
    ② カウント・ユア・ブレッシング・ステッド・シープ/Count Your Blessing Stead Sheep (Irving Berlin)
    ③ ウン・ポコ・ロコ/Un Poco Loco (Bud Powell)
    ④ ソフィスティケイテッド・レディ/Sophisticated Lady (Duke Ellington)
    ⑤ アイ・ノウ・フー・ラヴズ・ユー/I Know Who Loves You (秋吉敏子)
    ⑥ 星に願いを/When You Wish Upon A Star (Ned Washington, Leigh Harline)
    ⑦ シック・レディ/Chic Lady (秋吉敏子)
  ■録音メンバー 
    秋吉敏子(piano) 
    鈴木良雄(bass)
    日野元彦(drums)

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ビールの大瓶と小瓶

2007年06月27日 | ネタをたずねて三千里
♪ビール瓶にもいろんな大きさ・種類がありますね。↑

 
 何年か前のできごとです。
 その夜もステージに上がっておりました。
 チラホラお客さんはおられたのですが、客席には空席が目立っていました。
 バンドさんもどことなく不完全燃焼のような演奏です。
 店の雰囲気もやや盛り下がっておりました。
 そんな時に彼らはやってきたのです。


 男性2人に女性4~5人のグループでした。
 静かな店内が一度に騒がしくなります。
 男性のうちの年長者がいろいろ仕切っているようです。
 「おい、みんな早う入ってこんかい」
 「早う、空いてるところへ座らんかい」
 その声のデカイこと・・・。
 ステージで音を出していることや、
 他にもお客がいることなんて、てんで眼中にない様子です。


 連れの女性陣たちも嬌声をあげています。
 彼女たちはライヴ・ハウスへ初めて来たみたい。
 どうやら男性の年長格が、
 「自分はこういうジャズの生演奏のあるおシャレな店も知ってんねんぞ~」
 と女性たちに自慢したかった感じです。
 ワイワイキャーキャー言いながらドヤドヤと店内に入ってきた彼ら、
 もう完全に自分たちだけの世界に浸っています。


     
     ライヴ・ハウス(イメージです)


 他のお客さんもさすがに迷惑そうな顔つきになっています。
 ステージ上のわれわれもお互い顔を見合わせて、
 「なんやねんあれは。かなわんなー」とタメ息。
 でも彼らの口調やド派手なスーツ、察するにどうもカタギではないようです。
 注意する度胸もないわれわれは、
 なるべく彼らを刺激しないように、大人しく弾き続けるのでした。


 と、そこへひときわ大きな声が!
 「おーい!早よ注文取りにこいや!」
 かの年長格がややイライラしながら怒鳴っています。
 お店のバイト君、おどおどしながらもあわててテーブルへ走っていきます。
 年長格、片手を開いてさらに怒鳴ります。
 「ビール!とりあえずこんだけや!早うせんかい!」
 よく見ると、その開いた片手の小指がない!
 うわ~ヤバ~、ホンマモンのヤーさんや~
 そこへ気の弱そうなバイト君、
 その小指のない片手を突きつけられて、思わず口走りました。
 「ビール大瓶4本と小瓶1本ですか?」


 ・・・。


 一瞬店内がシーンとした後、
 ステージにいたわれわれはとばっちりがくるのを恐れて、
 さも何事もなかったかのように、いきなり熱心に演奏を始めたのでした。
 おしまい。


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ハムスター

2007年06月26日 | 随想録

 
 飼うことになりました、ハムスター。

 知人宅で飼われていたハムスターがご懐妊・出産と相なったため、

 引き取り手を探していたのです。

 ぼくは、動物はなるべくなら飼いたくなかったんです。

 動物が苦手、ってことはないんですが、

 やっぱり生き物の世話ってたいへんだし、死んだら可哀相だし。

 でも結局は飼うことに同意して、一匹だけ貰ってまいりました。

 葛藤したわりにはさっさとカゴやエサを買いに行ったりして・・・(^^;)


     


 ハムくん、名前はまだありません。

 種類は聞いたけど忘れました(^^;)。

 ♪だ~い好きなのは~ ひまわりのたね~♪

 体長はまだ5cmほど。ちっちゃいです。

 シッポらしきものも見えません。
 
 まだまだ発展途上のハムくん。


     

 
 いや~、チョコマカとよく動きます。

 動くからうまく写真を撮れませんでした。

 元気いいなー。

 元気いいけど、ハムスターってとても神経質なんだそうな。

 可愛らしいからついつい手を出してしまうけれど、

 あんまり構うと弱るらしいので気をつけねば。


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ワイアード (Wired)

2007年06月25日 | 名盤


 昨日6月24日は、ジェフ・ベックの63回目の誕生日だったそうですね。いつ見ても若々しいジェフ、とても63歳になんて見えません。
 ジェフに限らず、現役ミュージシャンって、みんな実年齢より若く見えます。これもひとえに、音楽というクリエイティヴな職に携わっているからでしょう。
 ジェフも、彼のギターも、年齢とともにまだまだ進化を続けているようです。だからこそいつまでも若くいられるんじゃないでしょうか。


 一時は「アルバムを2枚出したらバンドを解散させる」などと揶揄されたジェフが辿り着いたのが、「ギター・インストゥルメンタル・ミュージック」です。
 それは、ジェフが「自分の感性をもっとも直接的に表現できる唯一のスタイルがギター・ミュージックである」ということを実感したすえに到達した見解だと思います。つまり、自身がもっとも進みたい道に進むことを決意した、とでも言ったらいいのでしょうか。その形の現れが、「ブロウ・バイ・ブロウ」でした。





 「ブロウ・バイ・ブロウ」はジャズからの影響を強く感じさせるもので、リラックスして自由に弾くことを前提としたものでした。それに続く「ワイアード」は、「ブロウ・バイ・ブロウ」の流れを汲みながらも、よりハードにプレイしているようです。前作に比べ、よりフュージョン色を強めた、非常にテンションの高いサウンドが聴かれます。


 この頃のジェフは、マハヴィシュヌ・オーケストラとツアーに出たり、スタンリー・クラーク(bass)のソロ・アルバム「ジャーニー・トゥ・ラヴ」に参加したりと、積極的にエレクトリック・ジャズに接近・傾倒して、多くのものを吸収していた時期だと言っていいでしょう。
 前作「ブロウ・バイ・ブロウ」で成功したジェフは、さらにその路線を深く追求してゆこうとします。そのために集めたミュージシャンはジャズ・ロック界で活躍する腕利きばかり。ジェフが気持ちよくギターを弾くことができ、安心してバックを任せられる面々が集まっています。





 1曲目の「レッド・ブーツ」からしてフュージョンとハードロックを融合させたような凄まじい演奏が展開されています。ギターももちろん素晴らしいのですが、シンセサイザーやドラムスとのせめぎ合いはまさに「バトル」です。同じようなハード・ドライヴィンな曲に「ヘッド・フォー・バックステージ・パス」「蒼き風」「ソフィー」などがあります。
 ファンキーなのは「カム・ダンシング」と「プレイ・ウィズ・ミー」。グルーヴィーなリズムに乗せて、これまた黒っぽいウィルバー・バスコムのベースと、ジェフのギターが歯切れよく曲を引っ張ってゆきます。
 「グッド・バイ・ポーク・パイ・ハット」は、ジャズ界の偉大なベーシスト、チャールス・ミンガスの作です。ジェフはこの曲を「哀しみの恋人たち」のようなスロー・バラードに仕立てています。
 「ラヴ・イズ・グリーン」はアコースティックなナンバー。ピアノに加え、ジェフがアコースティック、エレクトリック双方のギターをオーヴァー・ダヴィングしています。このロマンティックな曲でアルバムに幕を下ろします。


 目立つのが、ヤン・ハマーのシンセサイザーの存在ですね。時にはジェフのギターと対等に張り合ったり、存在感を主張したりと、白熱したインタープレイを繰り広げています。このふたりの共演は、新鮮なうえに適度の緊張感があり、良い意味でのライヴァル同士がセッションをした、という印象が強いです。
 また、全8曲中4曲を提供したナラダ・マイケル・ウォルデンの存在も特筆されるべきでしよう。現在では偉大なプロデューサーとして活躍しているナラダ・マイケルですが、このアルバムでは作曲とドラムスで大きく貢献しています。


     


 「ワイアード」は、スリリングなギター・アルバムです。と同時に、優れたジャズ・ロック(あるいはフュージョン)の作品でもあり、前作に勝るとも劣らないギター・インストゥルメンタル・アルバムの最高峰のひとつ、と言ってもいいでしょう。
 まさに、聴き手を「金縛りにあわせる(wired)」作品だと思います。






◆ワイアード/Wired
  ■演奏
    ジェフ・ベック/Jeff Beck
  ■リリース
    1976年5月
  ■プロデュース
    ジョージ・マーティン/George Martin①~④, ⑥~⑧
    ヤン・ハマー/Jan Hammer⑤
  ■収録曲
   [side A]
    ① レッド・ブーツ/Led Boots (Max Middleton)
    ② カム・ダンシング/Come Dancing (Narada Michael Walden)
    ③ グッドバイ・ポーク・パイ・ハット/Goodbye Pork Pie Hat (Charles Mingus)
    ④ ヘッド・フォー・バックステージ・パス/Head for Backstage Pass (Wilbur Bascomb, Andy Clark)
   [side B]
    ⑤ 蒼き風/Blue Wind (Jan Hammer)
    ⑥ ソフィー/Sophie (Narada Michael Walden)
    ⑦ プレイ・ウィズ・ミー/Play with Me (Narada Michael Walden)
    ⑧ ラヴ・イズ・グリーン/Love Is Green (Narada Michael Walden)
  ■録音メンバー
    ジェフ・ベック/Jeff Beck (guitars)
    マックス・ミドルトン/Max Middleton (electric-piano, clavinet)
    ヤン・ハマー/Jan Hammer (synthesizer, drums⑤)
    ウィルバー・バスコム/Wilbur Bascomb (bass)
    ナラダ・マイケル・ウォルデン/Narada Michael Walden(drums①②⑥⑦, piano⑧)
    リチャード・ベイリー/Richard Bailey (drums③④)
    エド・グリーン/Ed Greene (drums②)
  ■チャート最高位
    1976年週間アルバム・チャート アメリカ(ビルボード)16位、イギリス38位、日本(オリコン)7位




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「貞子」と出会った夫婦

2007年06月24日 | ネタをたずねて三千里
          ♪映画『リング』より


 ぼくの先輩ミュージシャン(ジャズピアニスト)にTさんという方がおられます。余談ですが、Tさんの奥方は1984年のロス五輪に出場したという経歴の持ち主です。


 さて先日の夜、そのTさん夫妻が我が家に遊びに来られました。夕食後、お茶を飲みながら四方山話でくつろいでいたところ、T夫人が「そうそうMINAGIさん、あのね~」と話しはじめました。


T夫人「『リング』見たことある?」
MINAGI「まだですけど、あら筋は知ってますよ。いきなりどうしたんですか?」
Tさん「あれ、見た人に何か起きるってホントなのかなぁ?」
MINAGI「ビデオ見てる最中にデッキが急に全くフリーズしてしまった、という話なら何度か聞いたことがありますよ」


 その何日か前、T夫妻もはじめて『リング』をビデオで見たそうなんですよ。もう皆さんは知っておられると思いますが、つまり「山村貞子」という名の霊能者に呪いをかけられたビデオを偶然見てしまった女性が、恐怖と戦いながら呪いを解く方法をつきとめてゆく、という話なんですね~。

 
 貞子が這いずってきてその女性の前夫をとり殺すところの怖さなどは相当なもんです。近所のクソガキ共に「貞子が来よるでぇ~」と脅しただけで泣いて逃げ帰るってくらいなもんです。


     
     山村貞子


 で、『リング』を見た翌日のこと。今までただの一度も「交通事故」というものを起こしたことのないT夫人が中年の女性の運転するミニバイクと接触事故を起こしたそうなんです。(ちなみにTさんは大型特殊の免許まで持っているが、絶対に運転をしない主義である。荷物の多いベーシストには真似のできん主義や…)



 T夫人「事故そのものは全然たいしたことなかったんだけど」
 最寄りの交番で事故後の処理をしていた時。
 T夫人「お互いの名前と連絡先を交換しあうでしょ?」
 そこでT夫妻は顔を見合わせました。
 T夫人「相手の名前ね、  
      貞子 
        
っていうのよ~」



 おいおい………



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ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク (Music From Big Pink)

2007年06月22日 | 名盤


 ぼくがこのアルバムを初めて聴いたのは、まだ20歳台前半の頃でした。正直その時は、この地味で飾り気のない音楽がとても退屈に思えたものでした。でも、このアルバムを発表した頃のザ・バンドの面々も20歳台だったんですね。それなのにもかかわらず、老成感のある深い音を出しています。


 ザ・バンドの個性を主張しているのは、アメリカ南部に根ざしたロックン・ロール、ブルーズ、フォーク、カントリーなどの芳醇なサウンドや、味わい深いヴォーカル、何とも言えない懐かしさのある重厚なメロディーなどです。
 どちらかというと、「時代の先端を走る」というよりは、古き良きアメリカを体現しているような音だと思います。
 そんな彼らのデビュー・アルバムが、この「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」です。
 ジャケットの絵はボブ・ディランが描いたものです。


     


 ザ・バンドの前身は、アーカンソー州出身のロカビリー・シンガー、ロニー・ホーキンスのバック・バンドだった「ホークス」でした。
 アメリカで芽の出なかったロニーは、リヴォン・ヘルムを含めた自身のバンドを結成し、拠点をカナダのトロントに移します。しかしメンバーが次々と脱退したため、ロニーはトロントのミュージシャンでメンバーの補充を図りました。こうして集められたのが、ロビー・ロバートソン、リック・ダンコ、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソンのカナダ人4人です。つまり、バンドのアメリカ人は、ドラマーのリヴォンただひとりだったわけです。


 彼らは1964年にロニーから独立、「リヴォン・ヘルム&ザ・ホークス」などと名を変えて活動を続けます。そんな彼らにボブ・ディランとの共演という話が舞い込んだのが65年。それ以後、ザ・バンドは、フォーク・ロックへと移行しつつあったディランのサウンドを支えるべく、幾度もツアーに同行しました。
 ツアーを終えた66年7月、ディランはバイク事故で重傷を負います。静養のため、彼はウッドストックの近くに一軒の家を借りました。ここにはホークスの面々も呼ばれてセッションが重ねられることになります。元はディランのリハビリ的セッションでしたが、ここでは古いトラッド・ナンバーやロックンロールに加え、ディランの自作、ホークス自身の作品をも交えて演奏されました。このセッションでディランとホークスの絆は深まり、ホークスの音楽的アイデンティティーも確立されたと言ってもいいでしょう。
 ちなみに、このセッションが行われた家はピンク色に塗られていたことから「ビッグ・ピンク」と呼ばれていました。そしてこの名称がザ・バンドのデビュー作のタイトルにもなりました。


     
     「ビッグ・ピンク」


 ホークスは1968年に「ザ・バンド」と名を変え、デビュー・アルバム「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」を発表します。
 ぼくがこのアルバムの中で好きな曲は、「怒りの涙」「ザ・ウェイト」「チェスト・フィーヴァー」「火の車」「アイ・シャル・ビー・リリースト」などです。
 「怒りの涙」は、ディランとのセッションで生み出されたと思われる曲で、ホーンやオルガン、アコーディオンなどが絶妙に溶け合っています。ゆったりとしたメロディーにのった哀愁漂うリチャードの声がとても印象的。
 「ザ・ウェイト」は、ザ・バンドの代表曲のひとつと言ってもいいでしょう。リヴォン、リチャード、リックの三者三様のヴォーカルが冴えわたるこのミディアムテンポのナンバーからは、抽出されたアメリカのルーツ・ミュージックのエッセンスがたっぷり味わえます。映画「イージー・ライダー」にも使われました。


 「チェスト・フィーヴァー」も、このアルバムのハイライト曲のひとつでしょう。イントロの重厚なオルガンが印象的。力強いリヴォンのドラムにも心惹かれます。途中で入る「救世軍バンド」的な展開がとても面白い。のちスリー・ドッグ・ナイトがカヴァーしています。
 「火の車」はディランとリックの共作です。この曲でもガースの弾くキーボード群の活躍が耳に残ります。サイケデリックな響きも感じられる曲ですが、キーボーディストのブライアン・オーガーもこの曲を取り上げています。
 「アイ・シャル・ビー・リリースト」はディランのペンによる名曲。ファルセットで聴かせるリチャードの歌声も美しいのですが、バックに流れるキーボードの音色も素晴らしい効果をあげています。


          


 このアルバムはいたってシンプルで、飾り気のないサウンドが特徴になっています。「枯淡」とでも言ったほうが似つかわしい、枯れた味わいがあります。
 サイケデリック・ロックやアート・ロックが全盛だったこの頃にこういう素朴な音が出ていたというのは、逆に言えば彼らが自分たちのしっかりとしたオリジナリティーを持っていた、ということの証明になると思います。
 また、メンバーの5分の4がカナダ人だったことが、アメリカの音楽を客観視できることに繋がったのかもしれません。


 エリック・クラプトンは、完成度の高いこのザ・バンドのデビュー・アルバムを聴いて、クリームの即興的な演奏に嫌気がさし、解散を思い立ったと言われています。
 またジョージ・ハリスンはボブ・ディランを訪ねたときにこのレコードをたくさん買い、イギリスに帰ると「これは傑作だから絶対に聴くべきだ」と言って周りに配ったという話が残っています。



◆ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク/Music from Big Pink
  ■歌・演奏
    ザ・バンド/
  ■リリース
    1968年7月1日
  ■プロデュース
    ジョン・サイモン/John Simon
  ■収録曲
   [side A]
    ① 怒りの涙/Tears of Rage (Bob Dylan, Richard Manuel) 
    ② トゥ・キングダム・カム/To Kingdom Come (Robbie Robertson)
    ③ イン・ア・ステイション/In a Station (Richard Manuel) 
    ④ カレドニア・ミッション/Caledonia Mission (Robbie Robertson)
    ⑤ ザ・ウェイト/The Weight (Robbie Robertson)  ☆アメリカ63位、イギリス21位
   [side B]
    ⑥ ウィ・キャン・トーク/We Can Talk (Richard Manuel) 
    ⑦ ロング・ブラック・ヴェール/Long Black Veil (Marijohn Wilkin, Danny Dill) 
    ⑧ チェスト・フィーヴァー/Chest Fever (Robbie Robertson)
    ⑨ 悲しきスージー/Lonesome Suzie (Richard Manuel) 
    ⑩ 火の車/This Wheel's on Fire (Bob Dylan, Rick Danko) 
    ⑪ アイ・シャル・ビー・リリースト/I Shall be Released (Bob Dylan) 
    ☆=シングル・カット
  ■録音メンバー
   [The Band]
    ロビー・ロバートソン/Robbie Robertson (electric-guitars, acoustic-guitars, vocals)
    リック・ダンコ/Rick Danko (bass, fiddle, vocals)
    リヴォン・ヘルム/Levon Helm (drums, tambourine, vocals)
    ガース・ハドソン/Garth Hudson (organ, piano, clavinet, soprano-sax, tenor-sax)
    リチャード・マニュエル/Richard Manuel (piano, organ, vocals)
   [Additional musician]
    ジョン・サイモン/John Simon (producer, baritone-hone, tenor-sax, piano)  
  ■チャート最高位
    1968年週間アルバム・チャート アメリカ(ビルボード)30位
  ■ローリング・ストーン誌選定「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」 34位 (2012年版)

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ドゥービー・ストリート (Takin' It To The Street)

2007年06月20日 | 名盤

 
 ドゥービー・ブラザーズの柱のひとり、トム・ジョンストンが病気のため緊急入院したのが1975年。
 とりあえずツアーのサポート・メンバーとして、元スティーリー・ダンのマイケル・マクドナルドが加わります。しかしトムは、退院後も療養が必要だったため、いったんグループを離れることになりました。その時にマイケルは、正式にメンバーとして加入したわけです。
 彼の参加によって、ドゥービーズは大きなターニング・ポイントを迎えます。
 
     
            
 
 
 従来のドゥービーズは、歯切れがよくて野性味あふれるギターを中心としたロックンロール・サウンドでしたが、マクドナルド参加後は、AOR的雰囲気の漂うアーバンな大人のロックへと大胆な変貌を遂げました。たったひとりのミュージシャンが加わっただけで、ここまでバンドのサウンドというのは大きく変われるものなんだ、と改めて思います。
 以後、トム・ジョンストンの代わりにソング・ライターとして曲も提供するマクドナルドの、バンドに占める位置は急速に大きなものになっていきます。
 そして発表されたのが、先日の音楽回顧録(by Nobさん)でも取り上げられていた、ドゥービーズ6枚目のアルバム、「ドゥービー・ストリート」です。


 さて、アルバムはパット・シモンズ、ジェフ・バクスター、ジョン・ハートマンの三人による共作「運命の轍」で幕を開けます。イントロのギターは典型的なドゥービー・サウンドです。しかしホーン・セクションの起用や、間奏部のエレクトリック・ピアノ・ソロなどからは確かにドゥービーズの新たな一面を感じ取ることができます。この「運命の轍」は、このアルバムからのセカンド・シングルとなってヒットしました。
 続く「ドゥービー・ストリート」がマイケル・マクドナルドのお披露目です。フュージョン色の濃いキーボード・サウンド、間奏のサックス・ソロ、グルーヴィーな16ビートなど、全てがソウルフル。この曲はこのアルバムから最初にシングル・カットされてヒットしました。


          

 
 3曲目「8番街のシャッフル」は、パット・シモンズの作だけあって、これも従来のドゥービーズ・カラーを濃く残していますが、洗練された都会的な響きが新生ドゥービーズらしく聴こえます。
 「ルージン・エンド」もマイケルの作。西海岸どころか、ニュー・ヨークのブルー・アイド・ソウルっぽい、従来のドゥービーズからは連想もできないような新しいサウンドを出しています。
 5曲目の「リオ」は、ラテン系のソウル・フュージョンとでも言ったらいいでしょうか。途中で聴かれるマリア・マルダーの声がセクシーに響きます。
 6曲目は、タイラン・ポーター作の「フォー・サムワン・スペシャル」。落ち着いた雰囲気で、哀愁の漂う大人の味があります。


 7曲目は、このアルバムからの3枚目のシングルとなった「イット・キープス・ユー・ランニン」です。シンセサイザーによるリフが印象的です。
 これに続くのが、トム・ジョンストンがこのアルバムに唯一参加している「ターン・イット・ルーズ」です。ドゥービーズらしい豪快なロックン・ロールです。
 ラストはマイケル作の「キャリー・ミー・アウェイ」。ソウルっぽさが斬新なポップ・ミュージックです。後半には4ビートにチェンジするなど、ユニークなサウンドが聴かれます。
 この中でぼくの好きな曲は、「運命の轍」「ドゥービー・ストリート」「リオ」「イット・キープス・ユー・ランニン」あたりでしょうか。
 

           
 
 
 トム・ジョンストンという大きな柱を失った代わりに、マイケル・マクドナルドという強力な、そして今までのグループから見ると異質のメンバーを加えることで、今までの作品には見られなかったライトなソウル・フィーリングが随所にちりばめられるようになりました。賛否両論あるようですが、ぼくは、全く別のバンド・サウンドとして聴けば、それはそれで悪くない、と思っています。
 いわば西海岸特有の空気と都会ニューヨークの味わいをミックスしたようなサウンドとなり、これによってドゥービーズは名実ともにアメリカを代表するグループに進化したと言えるかもしれません。



◆ドゥービー・ストリート/Takin' It to the Streets
  ■歌・演奏
    ドゥービー・ブラザーズ/The Doobie Brothers
  ■リリース
    1976年3月19日
  ■プロデュース
    テッド・テンプルマン/Ted Templeman
  ■録音メンバー
   [The Doobie Brothers]
    トム・ジョンストン/Tom Johnston (guitar, lead-vocals①⑧)
    パット・シモンズ/Patrick Simmons (guitar, lead-vocals①③⑤, vocals)
    ジェフ・バクスター/Jeff "Skunk" Baxter (guitar, steel-guitar)
    マイケル・マクドナルド/Michael McDonald (keyboards, synthesizers, lead-vocals②④⑦⑨, vocals)
    タイラン・ポーター/Tiran Porter (bass, vocals, lead-vocals⑥)
    ジョン・ハートマン/John Hartman (drums)
    キース・ヌードゥセン/Keith Knudsen (drums, vocals)
   [additional personnel]
    メンフィス・ホーンズ/The Memphis Horns
      ウェイン・ジャクソン/WayneJackson (trumpet)
      アンドリュー・ラヴ/Andrew Love (tenor-sax)
      ジェームズ・ミッチェル/James Mitchell (baritone-sax)
      ルイス・コリンズ/Lewis Collins (tenor-sax)
      ジャック・ヘイル/Jack Hale (trombone)
    ボビー・ラカインド/Bobby LaKind (congas)
    リッチー・ヘイワード/Richie Hayward (drums with John①)
    ノヴィ・ノヴォグ/Novi Novog (viola④)
    ジェシー・バトラー/Jesse Butler (organ②)
    マリア・マルダー/Maria Muldaur (vocal⑤)
    テッド・テンプルマン/Ted Templeman (percussion)
  ■収録曲
   [side-A]
    ① 運命の轍/Wheels of Fortune (Simmons, Baxter, Hartman) ☆(全米87位)
    ② ドゥービー・ッストリート/Takin' It to the Streets (McDonald)  ☆(全米13位)
    ③ 8番街のシャッフル/8th Avenue Shuffle (Simmons)
    ④ ルージン・エンド/Losin' End (McDonald)
   [side-B]
    ⑤ リオ/Rio (Simmons, Baxter)
    ⑥ サムワン・スペシャル/For Someone Special (Porter)
    ⑦ イット・キープス・ユー・ランニン/It Keeps You Runnin' (McDonald) ☆(全米37位)
    ⑧ ターン・イット・ルーズ/Turn It Loose (Johnston)
    ⑨ キャリー・ミー・アウェイ/Carry Me Away (Simmons, Baxter)
    ☆=シングル・カット
  ■チャート最高位
    1976年週間チャート  アメリカ(ビルボード)8位
    1976年年間チャート  アメリカ(ビルボード)39位



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ポール・マッカートニー 『back in the u.s.』

2007年06月18日 | 見る聴く感じるその他
 
 今日はポール・マッカートニーの65回目の誕生日ですね。



 4、5年前の暮れだったと思いますが、


 ポール・マッカートニーのライヴ映像が、深夜にテレビで放映されるというので、とっととスキーを切り上げて、その番組をとても楽しみに帰って来たことがあります。
 ポールが来日公演を行った年じゃなかったかなぁ。
 番組は、ポールのライヴDVDをほとんどそのまま流していました。カッコよかった~。


 そして


 翌朝、開店時間とともに店に飛び込んで、そのDVD買いました!
 それが、この『back in the u.s.』です。


     


 「何度でも観たくなる」作品です。
 ドキュメンタリー・タッチで編集しているため、「ポールのライヴ」をリアルな雰囲気で味わうことができました。とくに観客席の様子にも重点を置いて撮影しているので、これが映像にはかりしれない迫力を与えています。
 「All My Loving」で涙ぐむ中年男性。「Jet」で大はしゃぎするミリタリー・ルックのロー・ティーンの女の子。「Let It Be」で感極まってしまった黒人青年。「Back In The U.S.S.R」で興奮する女性たちなどなど。


 舞台裏の様子もふんだんに見ることができ、これらがツアー・クルーのアット・ホームな雰囲気をとてもわかりやすく伝えてくれています。
 ツアー最終日、「The Long And Winding Road」のイントロが始まると同時にスタッフ達がハートのついたカードを一斉に掲げ、これを見たポールが思わず涙ぐんでしまう場面はちょっと感動ものです。胸が詰まって一瞬歌えなくなったポールを見たぼくは、恥ずかしいことに貰い泣き(ちょっとだけね)してしまう始末でした。


     


 サウンド・チェック用に演奏される曲も興味深いものがあります。
 「Hey Jude」のハード・ロック・ヴァージョンがあったり、メンバーの夫人やガールフレンドたちが思わず踊りだしてしまう「Matchbox」、「Coming Up」などは、本番さながらの迫力ですね。


 客席でジャック・ニコルソンやトム・クルーズ、ジョン・キューザック、マイケル・ダグラスなどの面々が、ステージをとても楽しんでいる姿を見ることもできます。


 肝心の演奏シーンですが、一番印象に残っているのが、バンドのチームワークの良さと、パワフルかつ非常に洗練されている、技術的レベルの高さです。
 といって、ポールに必要以上に規制されているわけではなくて、みんながとてもリラックスしつつ、自分のパートを完璧にこなしている、という感じでした。
 「Maybe I'm Amazed」で、ドラマーのエイブ・ラボリエルのあまりのエキサイトぶりに、いつもはクールなキーボーディストのポール・ウィックスのテンションまでどんどん高まっていくさまは、見ていて微笑ましいですね。
 「The End」のトリプル・ギター・バトルも強烈にホットです。


     


 このツアーのバンドメンバーを紹介しておきましょう。
 ☆ポール・マッカートニー(vocal, bass, guitar,piano)
 ☆ポール・"ウィックス"・ウィッケンス(keyboards)
 ☆ラスティ・アンダーソン(guitar)
 ☆ブライアン・レイ(guitar,bass)
 ☆エイブ・ラボリエル Jr.(drums)


 とにかくバンド、観客、スタッフすべてが心からショウを楽しんでいます。それも郷愁ではありません。ビートルズをリアルタイムで知らない30代以下の世代が非常に多く、これは年々「ビートルズ・ファン」が増えていることの裏づけにもなるでしょう。親子でファン、という家族も珍しくはないですからね。


 見ているこちらまでがいつの間にか興奮している、とても楽しい一枚でした。
 ところで、ドラマーのエイブ・ラボリエルJr.って、やはり、あの名ベーシストのエイブ・ラボリエルの息子なんでしょうか。


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オールマン・ブラザーズ・バンド フィルモア・イースト・ライヴ (At Fillmore East)

2007年06月17日 | 名盤


  「フィルモア・イースト」とは、プロモーターのビル・グラハムが、ニューヨークのイースト・サイドにあった映画館跡地に開設したライヴ・ハウスです。1968年から閉店した1971年までの短い期間、多くの名演奏を生んだことで知られています。
 そのなかで1971年3月12~13日にかけて行われたのが、オールマン・ブラザーズによる歴史的なライヴでした。


     
     グレッグ・オールマン(左)、デュエイン・オールマン


 オールマン・ブラザーズは、デュエインとグレッグのオールマン兄弟が中心になって結成されました。ブルーズをベースに、カントリー、ジャズ、ソウルなどのアメリカの土着音楽をミックスした彼らの南部魂丸出しの、泥臭くて豪快なハード・ロックは、誰からともなく「サザン・ロック」と呼ばれるようになっていきました。
 オールマンズの売り物と言えば、ツイン・ギターの紡ぎ出す音色の対比やアンサンブルの妙、ツイン・ドラムスによる、重量感がありながらも決してもたることのないリズムと、アフター・ビートの効いたグルーヴ感でしょう。


     


     
 
 
 デュエインのスライド・ギターはまるで生き物が雄叫びをあげているかのような生々しさがありますね。「スカイ・ドッグ」のニックネーム通り、まさに彼のフレーズは、アグレッシヴに宙を駆け巡っていて、張り詰めた空気を醸し出しています。
 デュエインの緻密なスライド・ギターと、ディッキー・ベッツの音色の太いギターは、いわば「柔と剛」の取り合わせ、とでも言えないでしょうか。
 そして、デュエインの空翔るようなアドリブ・ソロと、グレッグの少ししわがれた、黒っぽくて渋いヴォーカルが交錯し、緊張感と豪快さが同居したハイ・レベルな演奏が延々と行われているのです。


     
     ディッキー・ベッツ


 演奏は、ライヴ録音だけあって、インプロヴィゼイションの続く、長尺の曲ばかりです。
 1曲目の「ステイツボロ・ブルーズ」の冒頭でいきなり鋭く切り込んでくるデュエインのスライド・ギターにはマイってしまいます。
 3曲目「ストーミー・マンデイ」はリズムが重く粘っています。中盤のオルガン・ソロからジャズっぽくスウィングするところなどに、バンドの柔軟な力量が現れている、と言えそうです。
 6曲目、ディッキー・ベッツ作の「エリザベス・リードの追憶」が、このアルバムにおけるハイライト曲のひとつでしょう。いや、それ以上に、ロック史に残る名演かもしれません。ツイン・ギターとオルガンのユニゾンによるリフがとても印象的な曲です。ジャズの要素を導入した、白熱のインプロヴィゼイションがたっぷり聴かれます。
 ラストの「ウィッピング・ポスト」は、スタジオ盤だと5分そこそこの曲なのですが、ここでは23分以上の大作に変身しています。この曲はオールマンズのライヴにおける定番曲として有名です。8分の11拍子のテーマを持ちますが、ボーカル部分になるとジャズ・ワルツとなります。そして延々とギター・ソロが堪能できるジャム・セッション風の曲となっています。


     
     グレッグ・オールマン


 この頃のデュエインは、あのデレク&ザ・ドミノスのセッションにも加わり、一層名を上げています。エリック・クラプトンはデュエインをドミノスに引き抜こうと画策したようです。デュエインのギターはエリックにも多大な影響を与えたんですね。


     
     デュエイン・オールマン


 このライヴ・アルバムは、ビルボードのアルバム・チャートで全米13位の大ヒットを記録しましたが、この作品はサザン・ロックばかりでなく、ロック・ミュージックのライヴ・アルバムとしても屈指の物だと言えるでしょう。というよりも、ブルーズとかサザン・ロックとかにジャンル分けにするのは無意味かもしれません。いわば、アメリカン・ポピュラー・ミュージックの偉大なる遺産だと捉えるべきだと思います。


 このライヴ・アルバムによって、オールマン・ブラザーズはアメリカを代表するバントとして自他共に認める存在となりました。
 しかし好事魔多し。同年10月、デュエインがバイクでトラックに追突、わずか24歳でその人生を終えることになってしまいました。
 しかしバンドは結束を固め、その後はメンバー・チェンジを繰り返しながら活躍します。そして紆余曲折のすえ、二度の解散~再結成をはさんで、現在でも現役として活動しています。1995年にはロックの殿堂入りを果たしました。



◆オールマン・ブラザーズ・バンド・フィルモア・イースト・ライヴ/At Fillmore East
  ■歌・演奏
    オールマン・ブラザーズ・バンド/The Allman Brothers Band
  ■録音
    1971年3月12~13日 (フィルモア・イースト、ニューヨーク市)
  ■リリース
    1971年7月
  ■プロデュース
    トム・ダウド/Tom Dowd
  ■収録曲
    A① ステイツボロ・ブルース/Statesboro Blues (Blind Willie McTell)
     ② 誰かが悪かったのさ/Done Somebody Wrong (Clarence Lewis, Bobby Robinson, Elmore James)
     ③ ストーミー・マンデイ/Stormy Monday (T-Bone Walker)
    B④ ユー・ドント・ラヴ・ミー/You Don't Love Me (Willie Cobbs)
    C⑤ ホット・ランタ/Hot 'Lanta (D. Allman, G. Allman, Betts, Trucks, Oakley, Johanson)
     ⑥ エリザベス・リードの追憶/In Memory of Elizabeth Reed (Dickey Betts)
    D⑦ ウィッピング・ポスト/Whipping Post (Gregg Allman)
  ■録音メンバー
   【The Allman Brothers Band】
    デュエイン・オールマン/Duane Allman (guitar, slide-guitar)
    グレッグ・オールマン/Gregg Allman (organ, piano, vocals)
    ディッキー・ベッツ/Dickey Betts (guitar)
    ベリー・オークリー/Berry Oakley (bass)
    ジェイ・ジョニー・ジョハンソン/Jay Johanny Johanson (drums, congas, timbales)
    ブッチ・トラックス/Butch Trucks (drums, tympani)
   【Guests】
    トム・ドゥーセット/Tom Doucette (harmonica②③④)
    ジム・サンティ/Jim Santi (tambourine)
  ■チャート最高位
    1971年週間チャート  アメリカ(ビルボード)13位
    1971年年間チャート  アメリカ(ビルボード)96位



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Feel So Gooood~♪

2007年06月16日 | 随想録

♪上原ひろみ~Hiromi's Sonicbloom「タイム・コントロール」

 
 今朝は7時すぎに目が覚めた。梅雨入りだというのに、とても良い天気で気持ちいい。気持ち良いついでに散髪してこよう、と思った。
 以前は美容院でカットしてもらっていたのだが、カットだけだと割高になるうえ、顔剃りはしてもらえないので、普通の散髪屋さんに通っている。もう15年近くの付き合いになる、馴染みのところだ。


 コーヒーを飲みつつ新聞に目を通す。時間を見計らって家を出る。理容店に着くと、まだ他には誰も客がいない。待たずにすぐイスに座れるのがちょっとした幸せに思える。店主と四方山話をしながら髪を切ってもらう。これからは暑くなるので、今までより少しだけ短めにカットしてもらうことにする。店主は半分冗談で「スポーツ刈りにしてあげようか」などと言うが、それは勘弁してくれー。
 カットが済み、顔も剃ってもらい、洗髪し終える頃には半分ウトウトしている。ああ、とてもいい気持ちだった。自分は座っているだけで、身ぎれいにしてもらえるというのは、ちょっとした贅沢かもしれないな、と思った。


 理容店をあとにすると、車を近くの家電量販店へと向ける。目的はそこのCDコーナーだ。あまり品揃えはよくないのだけれど、ざっと見渡して欲しいと思えるものがあれば買うつもりで店に入る。ここはジャズ・コーナーの品数がだんだん少なくなっているので、期待はしていなかったが、上原ひろみの「タイム・コントロール」を見つけたので、それだけで満足した。欲しかったCDを手に入れるというのは、気持ちのよいことである。


 午後は部屋でDVDを観ていた。友達がDVD-Rに録画してくれた「ジェームス・ブラウン・ライヴ」、「ザ・ビートルズ ピート・ベスト・ストーリー」、映画「ヴァニシング・ポイント」の3本だ。部屋の窓からは気持ちよい風が入ってくる。観ているうちにまた眠気を催してきたので、「♪音楽回顧録♪」のNobさんが取り上げていた、映画「プラトーン」を久しぶりに観て目を覚ますことにする。


     


 夕方からは、ホタルを見にちょっと遠出をした。友人の誘いだ。毎年この時期になると必ず声をかけてくれる。
 現在地から少し北東部へと足を伸ばすのだが、そこは隠れたホタルの名所なのだ。いわゆる「名所」というのは人と車で混雑していて、あまり好きになれないのだが、ここは見物客といってもぼくらくらいのものだ。閑散とした川辺にはホタルの光がズラリと点在している。このあたりはまだ、陽が暮れると長袖が恋しくなるくらいだが、ひんやりした風が気持ちよく、のんびりと川辺を歩く。


 今日のわが阪神タイガースは9回に一挙9点取って、11対7の大逆転勝ち!これも気持ちがよかった。
 今日は小さな「気持ちよいこと」がいくつも重なった、平凡だけれど落ち着いた一日だった。



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KUWATA BAND

2007年06月14日 | ミュージシャン
 
♪お気に入りアーティスト60


KUWATA BAND
☆桑田佳祐(vo,g)
☆河内淳一(g,vo)
☆小島良喜(keyb,vo)
☆琢磨 仁(b,vo)
☆松田 弘(drs,vo)
☆今野多久郎(leader,per,vo)


 1986年、桑田佳祐夫人の原由子が産休に入ったため、サザン・オール・スターズもいったん活動を停止しました。その時に、桑田氏を中心として結成されたのが、「KUWATA BAND」です。バンド・リーダーは、パーカッション担当の今野多久郎氏。「KUWATA BAND」の活動は1年限定でした。
 結成の動機は、原さんの産休と、かねてからの桑田氏の「いつかデタラメなロックをやってみたい」という思いが重なったものです。
 何をもって「デタラメ」と言うのかは分かりませんが、少なくとも歌謡曲寄りのサザン・オール・スターズよりはよほど正統的なロック・バンドになっていると思います。おそらく桑田氏は、自分のやりたいようにだけやりたかったんでしょうね。


     
     アルバム「NIPPON NO ROCK BAND」
     (下線部試聴できます)


 1986年4月にシングル「BAN BAN BAN」でデビューした「KUWATA BAND」は、同年11月にラスト・シングル「ONE DAY」を発表するまでに4枚のシングルと、1枚のオリジナル・スタジオ録音アルバムを残しました。
 当時、サザン・オール・スターズとしてのオリコン・チャート1位はまだ獲得できていませんでしたが、「KUWATA BAND」では「スキップ・ビート」と「ONE DAY」がチャート1位に輝いています。


  
 「BAN BAN BAN」            「スキップ・ビート」
 

 アルバム「NIPPON NO ROCK BAND」は、ビートルズやエリック・クラプトンらを始めとする洋楽好きの桑田氏が書いた曲らしく、1960~70年代のブリティッシュ・ロックをベースとしたハードなものが多く収録されています。ソングライターとしての桑田氏の多様性には目を瞠るばかりですね。
 シングル4曲のA面は全て日本語詞なのに対し、アルバムのほうは全曲英語詞です。これは、日本人によるバンドにしては珍しく、このあたりからも、桑田氏が趣味に走っているのが伺えます。ちなみに、歌詞は元ゴダイゴのトミー・スナイダーが全面的に書いています。


     


 シングル「BAN BAN BAN」は資生堂のCFに使われました。サザン・オール・スターズではあまり見られない本格的ロックを感じさせる力強いサウンドを持っています。第2弾シングルは「SKIPPED BEAT(スキップ・ビート)」。これに深い意味はなく、『日本語の「スケベ」に語感が近い』というのがそのタイトルとなった理由です。ファンキーなビートに乗った豪快な曲です。歌詞内にはセクシャルな言い回しや、エロティックな比喩が多数含まれていることで話題になりました。「MERRY X'MAS IN SUMMER」はレゲエ調のリズムが楽しい、明るい曲です。ラスト・シングルの「ONE DAY」は、「KUWATA BAND」のオリジナル中唯一のバラードです。イントロからピアノを主体とした静かな曲です。


   
 「MERRY X'MAS IN SUMMER」    「ONE DAY」 


 サザン・オール・スターズがどこか歌謡曲の香りを漂わせているのに対し、「KUWATA BAND」は硬派なロックを展開している、というイメージがあります。これも桑田氏の好みなのでしょう。活動期限が切れてバンドが解散する時、桑田氏はとても残念そうだったといいます。よっぽどこのバンドが水に合っていたんでしょうね。
 ヒットを半ば義務づけられているサザン・オール・スターズでの活動と違い、「KUWATA BAND」は、全曲英語詞・歌詞による遊び・かなりロック寄りのサウンドなどなど、桑田氏ならではの遊びの要素を盛り込んだプロジェクトだったと言えるでしょう。


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2007年06月13日 | 随想録

 
 ウッド・ベースには、指で弾く方法と、弓で弾く方法があります。
 その弓がこの写真です。イタリア語で「アルコ」と言います。
 これは、買ってからもう10年以上になるのかな。
 練習をサボるとてきめんに音に現れます。コワイ。


 弓と一口に言ってもピンからキリまであります。
 ぼくが持っているのはキリの方。10万円台の安い物です。
 ほんとうはもっと良い物を使いたいんだけど、
 10年以上使ってたら愛着があって。


 ピンの方は、
 ぼくが触らせて貰ったもので250万円以上、というのがありました。
 神戸市の、とある弦楽器専門店に置かれていたものです。
 ぼくのウッド・ベースよりはるかに高い!
 というより車1台分に匹敵する金額じゃないですか。
 たしかフランス製で、とても厳重に保管されていました。


 いくら何でも弓にそこまでお金はかけられないです。(欲しいけど^^;)
 でも自分の弓も時には手入れもしますし、毛も張り替えます。
 そうやって大事に扱ってやり、マジメに練習もすれば、
 それなりには応えてくれるんですよ。


 弓で弾き始めた頃はろくに音にもならなくて、
 「キィーーーー」という、
 鳥が首を絞められたようなカン高い騒音にしかなりませんでした。
 よくあれで近所から苦情がこなかったな~。
 ぼくがあんな音聴かされたら、すぐクレームつけに行くと思います(笑)。
 今でもたいして弾ける方ではありませんが、
 それでもメロディーを弓で弾いていると楽しかったりします。


 上手くなりたいけれど、弓での練習、サボリがちなんです。
 イカンなあ、自分。
 少年(強調)老い易く、って言いますからね。
 もっとしっかり弓を使ってやらねば。


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ワンダフル・トゥナイト (Wonderful Tonight)

2007年06月12日 | 名曲

 
 デートの時、お化粧や服がなかなか決まらなくて、相手を待たせてしまったことのある女性、多いと思います。そして、そんな女性と同じ数だけ、待たされてイライラしたことのある男性もいることでしょう。
 こんな思いをするのは洋の東西を問わないらしく、エリック・クラプトンも同じ気持ちになったことがあります。「ワンダフル・トゥナイト」は、そんな出来事を題材にとっている佳曲です。
 この曲は、エリックが1977年に発表したソロ・アルバム、「スロウハンド」の2曲目に収録されています。


 ある夜、愛妻パティとパーティーに行くことになったエリックは、先に支度が整ったので、パティが二階から下りてくるのを待っていました。でも、いつまでたっても彼女は下りてきません。服を選んだり、化粧を直したりしていたのでしょう。そのうち予定の時間も過ぎてしまい、エリックのイライラも募ります。そこでエリックはギターを爪弾きながら気を紛らせることにしました。その時にできた曲が、エリック必殺のラヴ・バラード、「ワンダフル・トゥナイト」だというわけです。


     
     エリック&パティ


 自らのプライヴェートな出来事を素直に曲の中に織り込み、何のてらいもなく歌い上げている、いわばエリックのエッセイのような性格を持つ曲です。
 夫婦と思われるカップルがパーティーに出かけ、帰って来るまでを歌にしていますが、その時起こっていることをそのまま歌詞にしたようなところが、臨場感を生み出しています。


 優しいオルガンに乗って、イントロのギター・リフが弾かれます。そして入ってくる、少ししゃがれたようなエリックの声。その声に寄り添うようにオルガンが鳴っています。ギターのアルペジオもそっと歌を支えている感じです。能弁ではありませんが、訥々とエリックは歌っています。その渋くてメロウな声に重なる女声コーラス、美しいですね。
 クリアーなサウンドの中にも甘さが漂っています。シンプルですが、作曲者であるエリックの内にある幸福感がそのまま曲に現れているような気がします。だからこそ、聴き手側の共感を呼んだのではないでしょうか。


       


 なんといっても、パティ夫人関連の曲といえば「いとしのレイラ」が有名ですね。
 「レイラ」でのエリックは、パティに恋焦がれるせつなさを歌に託して思いを吐露していますが、パティと結ばれた後の「ワンダフル・トゥナイト」では一転して「今夜の君は素晴らしい」と愛にあふれた言葉を発しています。それも、思い切り抱きしめて情熱的に愛の言葉を発するのではなくて、そっと耳元で「きれいだよ」と囁いているかのようです。
 この2曲、背景を知ったうえで聴くと、好一対をなしているのが分かって面白いですね。

    
 クリームやデレク&ザ・ドミノスあたりのブルース・ロック時代を支持するファンなら、もしかしてこの曲はやや物足りないかもしれません。しかし、エリックはブルース・マンであると同時に、バラードをメロウに歌い上げるシンガー、という一面も持っています。
 このバラード・スタイルは、のちの名曲「ランニン・オン・フェイス」や「ホーリー・マザー」、「ティアーズ・イン・ヘヴン」などへと繋がってゆくことになります。そういう意味でも、「ワンダフル・トゥナイト」は、エリック自身ばかりでなく、ロックのスタンダードのひとつとして欠かせない名曲だということが言えるでしょう。


     



[歌 詞]
[大 意]
夕方ももう遅い 彼女は何を着ようか迷っている
メーキャップをして 長いブロンドの髪をとかしている
そして彼女はこう訊ねる 「これでいいかしら」
だから僕はこう言う 「ああ、今夜の君は素晴らしいよ」

パーティーに出かけると みんなの視線が
僕と一緒に歩いているこの美しい女性に注がれる
そして彼女はこう訊ねる 「あなた、気分はどう?」
だから僕はこう言う 「ああ、今夜の気分は素晴らしいよ」

気分がいいのは 君の瞳に愛の光が灯っているからだ
それなのに不思議なのは
どんなに僕が君を愛しているかを 君が意識していないこと

もうそろそろ帰る時間だ 
頭がズキズキするから 彼女に車のキーを渡す 
彼女は僕をベッドに連れて行く 明かりを消しながら僕は彼女にこう言うのさ
「ダーリン、今夜の君は素晴らしいよ
 ああダーリン、今夜の君はほんとうに素晴らしいよ」




ワンダフル・トゥナイト/Wonderful Tonight
  ■歌・演奏
    エリック・クラプトン/Eric Clapton
  ■シングル・リリース
    1977年
  ■作詞・作曲
    エリック・クラプトン/Eric Clapton
  ■プロデュース
    グリン・ジョンズ/Glyn Johns
  ■録音メンバー
    エリック・クラプトン/Eric Clapton (lead-vocals, guitar)
    ジョージ・テリー/George Terry (guitar)
    カール・レイドル/Carl Radle (bass)
    ジェイミー・オールデイカー/Jamie Oldaker (drums, percussion)
    ディック・シムズ/Dick Sims (electric-piano, organ)
    イヴォンヌ・エリマン/Yvonne Elliman (harmony, backing-vocals)
    マーシー・レヴィ/Marcy Levy (harmony, backing-vocals)
  ■チャート最高位
    1978年週間チャート  アメリカ(ビルボード)16位、イギリス81位、日本(オリコン洋楽チャート)1位
  ■収録アルバム
    スロウハンド/Slowhand (1977年)


  エリック・クラプトン『ワンダフル・トゥナイト』


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シアー・ハート・アタック (Sheer Heart Attack)

2007年06月11日 | 名盤

 
♪自分的名盤名曲167


 これは、ぼくが初めて買ったクイーンのアルバムです。「ハートに直撃」とでも訳したらいいのでしょうか。クイーンの3枚目のアルバムです。
 中学時代でした。たまたま姉が「キラー・クイーン」を聴いていたことと、友人のY君が「キラー・クイーン」にハマっていたことが重なったので、クイーンというバンドに興味を持ったのです。





 ちょうどぼくの住む町の図書館内に、当時日本でもまだ珍しかった音楽図書館がありました。借りることはできませんでしたが、リクエストには応じてくれるのです。主としてクラシックのレコードを置いてありましたが、わずかながらポピュラーのレコードも置いてありました。その中に、この「シアー・ハート・アタック」があったんです。
 リクエストできるのはLPレコードの片面だけだったので、A面、即ち今のCDで言うところの1~6曲目ばかりをかけて貰っていました。A面にはキラー・クイーンが入っていたからです。


  
 
 
 最初に耳に飛び込んでくるのは遊園地の喧騒を思わせるサウンド・エフェクトです。それに引き続いて入ってくるのはブライアン・メイのハードなギター、そしてファルセットと地声を効果的に使い分けるフレディ・マーキュリーのエキゾチックな歌声です。この1曲目の「ブライトン・ロック」はブライアンのギターを大々的にフィーチュアしたハード・ロックです。

 
 そして2曲目がお目当ての「キラー・クイーン」です。フィンガー・クラップで始まるこの曲は、日本でのクイーン人気を決定的なものにしました。日本ばかりでなく、彼らの初めての世界的なヒット曲と言っていいでしょう。いわばヨーロッパ的デカダンスとビートルズの持つポップ性が結びついた曲で、それまでハード・ロック・バンドと見られていたクイーンのイメージを変えた曲でもあります。
 この冒頭の2曲がとても気に入ったぼくは、レコードが買えるまではY君に録音してもらったカセット・テープを何度も繰り返して聴いていました。


  
     

 クイーンは、本国イギリスよりも日本でいち早く認められました。そして、レッド・ツェッペリンやイエスなどの後を継ぐブリティッシュ・ロックの正統派バンドと見られていました。しかし、今こうして聴き返してみると、クイーンはすでにこの頃には「ハード・ロック」というカテゴリーにひと括りすることのできない幅広い音楽性を持っていたことが分かります。


 とくにB面(CDでは7~13曲目)はメドレー風に展開されていて、さまざまに曲調が変わってゆくのが面白いのです。壮麗なコーラスで始まるドラマチックな「神々の業」に始まり、スラッシュ・メタルのはしりのような「ストーン・コールド・クレイジー」(のちにメタリカがカヴァーして話題になった)、ピアノとコーラスが美しい小曲「ディア・フレンズ」、ヴォードヴィル調の楽しい曲「リロイ・ブラウン」などが続き、最後はフレディ作の朗々たる「神々の業(リヴィジティッド)」で幕を閉じます。

 
 クイーンの音楽の美しさは、綿密に声を重ねていった分厚い鉄壁のコーラス・ワークと、華麗なギター・オーケストレイションにあると思います。
 またメンバー全員が作曲できるため、ドラマティックなフレディ、ハードなブライアンとロジャー、ポップなジョンというふうに、作風がよりいっそう多様化していると言えるでしょう。
 ハード・ロックの枠から抜け出したクイーンは、次作「オペラ座の夜」でひとつの頂点に立つことになります。そういった意味では、このアルバムはクイーンのターニング・ポイントとなった重要な作品だと思います。



 
 
シアー・ハート・アタック (Sheer Heart Attack)
  ■歌・演奏
    クイーン/Queen
  ■リリース      
    イギリス1974年11月8日、アメリカ1974年11月12日
  ■プロデュース
    ロイ・トーマス・ベーカー & クイーン/Roy Thomas Baker & Queen
  ■収録曲
   Side-A
    ①ブライトン・ロック/Brighton Rock (May)
    ②キラー・クイーン/Killer Queen (Mercury)  ☆全米12位、全英2位
    ③テニメント・ファンスター/Tenement Funster (Taylor)
    ④フリック・オブ・ザ・リスト/Flick Of The Wrist (Mercury)
    ⑤谷間のゆり/Lily Of The Valley (Mercury)
    ⑥誘惑のロックンロール/Now I'm Here (May)  ☆全英11位
   Side-B
    ①神々の業/In The Lap Of The Gods… (Mercury)
    ②ストーン・コールド・クレイジー/Stone Cold Crazy (May,Mercury,Taylor & Deacon)
    ③ディア・フレンズ/Dear Friends (May)
    ④ミスファイアー/Misfire (Deacon)
    ⑤リロイ・ブラウン/Bring Back That Leroy Brown (Mercury)
    ⑥シー・メイクス・ミー/She Makes Me(Stormtrooper In Stilettoes) (May)
    ⑦神々の業/In The Lap Of The Gods…Revisited (Mercury)
    ☆=シングル・カット
  ■録音メンバー
   【Queen】
    フレディ・マーキュリー(Freddie Mercury/vocals, piano)
    ブライアン・メイ(Brian May/guitar, piano, vocal, ukelele-banjo)
    ジョン・ディーコン(John Deacon/electric-bass, double-bass, acoustic-guitar)
    ロジャー・テイラー(Roger Taylor/drums, percussion, vocal)
  ■チャート最高位   
    1975年週間チャート     アメリカ(ビルボード)12位、イギリス2位、日本(オリコン)23位
    1975年年間チャート     アメリカ(ビルボード)38位、イギリス39位、日本(オリコン)32位
 
 
 

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チック・コリア・アコースティック・バンド/スタンダーズ・アンド・モア

2007年06月10日 | 名盤

 
 ぼくは、チック・コリアがそう嫌いではない。
 むしろ、アコースティックなジャズに取り組んでいる時のチックの音楽は好きと言ってもいいくらいだ。
 ただ、フュージョンを演っている時のチックは少々苦手な部分がある。
 あの緻密に計算し尽くしたかのような、幾何学的雰囲気がいまひとつ馴染みきれない。
 この「チック・コリア・アコースティック・バンド」は、チック・コリア・エレクトリック・バンドのリズム隊をピック・アップして結成されたものだ。アコースティックなピアノ・トリオとは言ってもエレクトリック・バンドのメンバーがそのままでは、アプローチの違いなんてあるのだろうか、などと危惧したりした。
 でも、それは考えすぎだったようだ。


     
 
 
 「計算された」どころか、お互いがお互いを触発し合い、エネルギーを爆発させてゆくその演奏は、ジャズそのものだ。
 計算されているところがあるとすれば、そういう演奏ができるメンバーをトリオに入れたこと、かもしれない。
 御大チックを、若いジョン・パティトゥッチとデイヴ・ウェックルがあおり立てている。あおられながらもチックのプレイはどこか余裕綽綽なところがあって、若手ふたりの手の内をどんどん引き出しにかかっているようだ。


 全10曲のうち、6曲がスタンダード、あるいはジャズ・オリジナル。残り4曲がチックのオリジナルである。
 曲のテーマはチック流にかなりフェイクされているほか、サイズ(曲の長さ)に手を加えていたり、リハモナイズ(コード進行の再編)していたりして、わりと綿密にアレンジが施されているようだ。
 チックのオリジナル曲は、どちらかというとコンテンポラリー色が強く、曲によってはフュージョンのアコースティック版という趣がある。


     
      右からチック・コリア、ジョン・パティトゥッチ、デイヴ・ウェックル
    
 
 ジョンのベースは、よくドライヴしていて、4ビートでのウォーキング・ベースはもちろん、ソロを取っている時の超人的なテクニックや見事な展開のインプロヴィゼイションなど大いに存在感を発揮している。
 デイヴのドラムは、どちらかというと手数が多い方だろう。しかし、フレーズを常に曲の一部と捉えていて、ある時はサウンドを装飾し、ある時は曲にエネルギッシュな勢いをつけ、またある時は生きたビートでバンドを引っ張るなど、とても音楽的なドラミングを聴かせてくれる。
 そして、このふたりの遠慮のない弾けっぷりがより斬新なインタープレイとなって音に現れていると思う。


 もともとエレクトリック・バンドだと大掛かりな機材を持ち込むことがたいへんで、そのため地方をサーキットできない、という理由でアコースティック・トリオが組まれたそうだ。当初はあくまでエレクトリック・バンドのサブ的ポジションだったのだが、それが演奏を重ねるごとにこのトリオは独自の音楽を創造するようになってゆき、チックにとっても重要なバンドに育っていったというわけである。


     
 
 
 このアルバムの中でぼくが好きな曲といえば、スウィンギーなジャズ・ワルツ「いつか王子様が」、テーマをモチーフにしたルバートから始まり、ちょっと小粋なミディアムの4ビートで歌い上げる「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」、いかにもコンテンポラリーといった感じの爽快なテーマを持ち、4ビートとラテン・ビートが交錯する「モーニング・スプライト」、そしてお馴染みの複雑なキメを持つ、スパニッシュでエキサイティングな「スペイン」といったところだろうか。


 このメンバーで録音されたスタジオ・ライヴ盤(「アライヴ」)もある。ライヴ盤だけあってさらにテンションが高く、三人のよりエモーショナルなプレイを聴くことができる。このアルバムもいずれエントリーしてみようと思っている。



◆スタンダーズ・アンド・モア/チック・コリア・アコースティック・バンド (Chick Corea Akoustic Band)
  ■演奏
   チック・コリア・アコースティック・バンド/Chick Corea Akoustic Band
    チック・コリア/Chick Corea (piano)
    ジョン・パティトゥッチ/John Patitucci (bass) 
    デイヴ・ウェックル/Dave Weckl (drums)
  ■プロデュース
    チック・コリア/Chick Corea
  ■レーベル
    GRPレコード
  ■リリース
    1989年
  ■録音
    1989年1月2~3日 (ニューヨーク市クリントン・スタジオ)
  ■収録曲
    ① ベッシーズ・ブルース/Bessie's Blues
    ② マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ/My One And Only Love
    ③ ソー・イン・ラヴ/So In Love
    ④ ソフィスティケイテッド・レイディ/Sophisticated Lady
    ⑤ 枯葉/Autumn Leaves
    ⑥ いつか王子様が/Someday My Prince Will Come
    ⑦ モーニング・スプライト/Morning Sprite
    ⑧ T.B.C.(ターミナル・バケッジ・クレイム)/T.B.C.(Terminal Baggage Claim)
    ⑨ サークルズ/Circles
    ⑩ スペイン (ロング・ヴァージョン)/Spain
  ■チャート最高位
    1989年 ビルボード・ジャズ・アルバム・チャート 1位



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