【Live Information】
楽器の王様というと、やはりピアノでしょうか。
ひとりでオーケストラとも対等に立ち向かう存在感、見ている者の視線を釘付けにするめくるめくような指使い、フロントだろうが伴奏だろうがどんなポジションをも受け容れる幅の広さ。
ジャズ・ピアニストから受けるイメージといえば、ビル・エヴァンスやキース・ジャレットなどの醸し出す「孤高」「求道」。
あるいは、エロール・ガーナーとかジーン・ハリスのような、黒人特有のファンキーで感情丸出しの「解放感」。
ハービー・ハンコックだと「遊び心」、ミシェル・ペチルチアーニからは「エモーショナル」。
ひと口にジャズ・ピアノといっても、いろんな特徴があるものです。
日本の音楽シーンの中でぼくがとくに好きなジャズ・ピアニスト(といっても、ジャズとそれ以外の境界線が年々曖昧になっているようにも感じるのですが)と言えば、本田竹広さん、辛島文雄さん、小島良喜さん、そのほかにもいろいろいますが、忘れちゃならないのが佐山雅弘さんなのです。
もう大好きです!
ロック、ジャズだけでなく、クラシックやラテン音楽、タンゴなどなんでもござれな幅の広さには驚くばかり。
といって、どんなジャンルもアリ!な器用さに個性が埋もれているかというと、全くそんなことはなく。
どこから湧き出るのか、百花繚乱にして無尽蔵なフレーズの数々。
「おしゃれ」という言葉がファッション以外にも使われるようになった(おしゃれなバー、おしゃれな映画など)のが1980年代前半だと記憶していますが、まさに佐山さんのピアノなんかはコンテンポラリーかつ「おシャレ」なものでした。
そして佐山さんの演奏といえば、「ユーモア+遊び心」、もっと言えば「ピアノ弾いて客席に笑いを起こさせる稀なピアニスト」、、、この表現も誤解を招きそうなんですが・・・。
「コミック・バンドのネタ」的な意味ではなく、真剣に弾いているんだけれど、フレーズなど音楽的要素をうまく使って笑わせる、と言いますか、とにかく大熱演を目の当たりにしてこちらはテンションがとっても上がるんですが、同時に大笑いもさせられる、究極のエンターテイメントを見せてくださるのです。
あれは、もう19年も前の2003年2月でした。
岡山に「M’s」(マサちゃんズ)が来たので、これは行かねば!と喜び勇んで会場へ足を運んだわけです。
演奏はさすが、MCも面白くて、もう文句のつけようがない楽しいライブでしたが、その時に演奏された「Swinging on a Star」における大坂昌彦(drums)さんとの8バース(8小節のソロ交換)ときたら!!
演奏力、気力、知力などあらゆるエネルギーを使って、「これでもか!」と言わんばかりのヒートアップしたソロを互いに繰り出すそのエキサイティングかつ抱腹絶倒の様子に満席の会場は大喝采大拍手大爆笑!
これがまた洒落たギャグのようなフレーズの応酬があったり、相手のさらにその上を行くソロで返したり(見事に切り返す大坂さんのドラミングも凄かった!)と、くんずほぐれつ息を呑むようなスリリングな8バースでして、それを充分堪能できたことは19年以上経った今でも、それはそれは楽しい思い出です。
「Ponta Box」が1995年のモントルー・ジャズ・フェスティバルへ出演した時の演奏も、ただただカッコいいんですよね。
なにせ佐山さんと村上ポンタ(drums)さんって、なんというか、とてもフィットしている気がするのです。
この時の模様を収めたライブ・アルバム、ライブDVDともに持っていますが、いまだに観たり聴いたりしてアツくなっております。
なにが凄いって、Ponta Boxと同じ時間に別会場では(あの!)ジョージ・ベンソンが演奏していたそうなんですが、ヨーロッパでは全く無名の日本人トリオの演奏のあまりの素晴らしさに、その様子を知った聴衆がベンソンの会場からPonta Boxの会場へたくさん移動してきた、という話が残っています。
晩年はガンの手術をされたりしていましたが、2017年に織原良次(bass)さん、福森康(drums)さんとともに、さらなる新たな世界を切り拓くべくニュー・トリオ『B'Ridge』を結成しました。
ベースの織原さんは今もっとも熱い視線を浴びているフレットレス・ベース使いで、福森さんは若手ミュージシャンの代表格として将来を嘱望されているドラマー。この瑞々しいふたりとのコラボレーションがこの先どんなサウンドを生み出すのか楽しみでたまらなかったのですが、翌2018年11月14日、佐山さんは64歳で亡くなりました。
直接挨拶すらさせていただいたことはなかったのに、なんとも寂しく、悲しかったですね。
佐山さんの死にあたり、生前書き遺されていたメッセージが公開されました。
覚悟とともに愛と感謝に満ちている(とぼくには思えた)メッセージでした。
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みなさま。佐山雅弘
このお手紙がお手元に届く時、僕はこの世におりませんが、長きに亘ってのお付き合いにお礼を言いたくて家人に託しました。
加山雄三とタイガースが大好きな中学生。高度成長期大阪の衛星都市尼崎に親父が構えた小~さな小売商を継ぐことに何の疑念も持たないごく普通(以下)の子供がジャズとの出会いで、楽しさこの上ない人生を送ってしまいました。
まことに人生は出会いであります。
「君の身体は君の食べたモノで出来ている」と言いますが、まったく同様に僕という者は僕が出会った人々で出来ているのだとしみじみ実感したことです。
その出会いを皆様にあらためて感謝しつつ、今後益々の良き日日を祈りながらお別れをします。
ありがとう、さようなら
2018年11月14日 佐山雅弘
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これは、お亡くなるになる約3ヵ月前の、ソロ・ライブでの演奏です。
おそらくこの演奏後すぐに入院され、そのまま人生を終えられたのだと思います。
どこか気高くて、それでいて親しみやすい演奏です。
聴いているとぼくは涙が出そうになるのですが、聴き終わるとこぼれるのは涙ではなく笑顔なんです。
素敵な、素敵な演奏です。