九月六日、その日は朝から日本中が・・いや世界中が祝福で溢れていた。
皇室では四十一年ぶりと言う、紀子さまに男児が誕生したのである。 まことにおめでたい。
最近では唯一、ハンカチ王子に続き、爽やかな心救われるニュースなのである。
あいにくと雨であったが、おめでたい日の吹き降りの雨は縁起がいいと言うからそれもまた良し。
我が家でもその日の夜、延ばし延ばしになっていた長女の結婚相手が挨拶に来ることになっていた。
「早く帰って来てよ、夕食が終ったらこっちがGOサイン出すことになってるんだからね」(近距離なので)
帰宅後風呂へ入った夫は短パンにTシャツ 「何しとるん、ちゃんと着替えんで」 「ええねん」私をにらむ。
外はだんだんと雨脚が早くなり激しく窓を叩く。 なんと雷も鳴っている・・激しく。
部屋へ行ったまま降りてこないので上がってみると、なんとネットサーフィンしているではない!
「何しとるん」 「日を延ばせ~」 「何を言っとるの、今更」 「何もこんな日にせんでもええじゃないかー」
「紀子さま出産のおめでたい日じゃないの。 ご飯食べたらGOサイン出すからね、ちゃんと服着替えて」
着替えて来たのはいいが「靴下履いとらんじゃない」 「ええねん」 「子供みたいなこと言わんでよ」
最近会話にNHK朝の連ドラ『純情きらり』の名古屋弁が出てくる、こんな時にj私はこんな妻。
次女の時もそうだが、相変わらず私にものを言う夫の言葉は荒い。 すねた子供のよう。
訳ありで私たちは五年前に会っているし結婚も暗黙の了解知っているのだ。
夫がそのことを避けていてきちんと話には来ていなかった。 突然の次女のおめでた婚だけでも大変
だったのだから。 次女のこともなんとか初孫ひろとの誕生で紛れ、そして今の時期二人目のなつめも
落ち着いて夫はいっぺんに両手に孫、最高の喜びの今はまさにグッドタイミングなのである。
二人が来て彼の一応の挨拶が終ると、夫は自分の思いを吐露。 (きた~!)
ゆがんだ夫の顔と言葉、緊張しながら背の高い彼が身を固くして正座しているのが気の毒なくらい。
しかしながらきちんと真面目に答える。 話す言葉のひとつひとつから誠実さが伝う。
どれほども時間が経たなかったと思うが、「まぁ長いお付き合いをして行きましょう」(え?もうそれで?)
それは長女とひとまわりも違う年齢的な落ち着きや、彼の仕事や生活状態に安心したのであろうか。
突っ込んだことも聞いたけれど、まだ話したいことはあったかも知れないのに夫の言葉にぐっときた。
いいタイミングで展くんも帰ってきたし、次女となつめを呼びに部屋へあがった。
「どうやった?」 「O K、O K・・」 そう言うと涙が出て来た。
「焼酎がお好きだと聞いておりましたので。 限定品と言われると弱くて心が動くんです」と、
彼がほっとしたよう汗を拭き、笑いながら持参の包みを手渡した。 最初は手渡す余裕どなかったから。
「展、焼酎もらったぞ」 毎晩二人で飲んでるときの顔で展君にふった。
「せっかくやから開けさせてもらうわな」 珍重そうに瓶やラベルを眺めたりしながら、お酒等の話。
「お酒はいけるんでしゃろ? ゴルフはしまんの?」 お酒は飲めないらしいしゴルフも・・(汗汗・・)
唯一「釣りには行くんです」と言ったのでほっとした。 最近、展くんを打ちっぱなしに連れて行っているから、彼もそうかなぁ。
「まぁせっかくですから。 お祝いにいっぱいやりましょうや」 高級感のある焼酎の封を開けて注いだ。
「よろしくお願いします」と三人が頭を下げロックで乾杯した。 男同士飲む姿は実にいいものだ。
食後なのでお持たせのケーキを頂きながら、みんなですっかり和やかな話が続いた。
五年間、夫の中でくすぶっていたものが晴れた、こんな雷雨の日だったけれど。
これで晴れて長女は来年結婚出来ることになった。
夫は言いたいことがあっても、いざとなるといつまでも引っ張れなくて途中からいい人に大変身するのだ、
いつも必ずそう。 次女の時も後で私にぶつけてきたけれど、その方がいいのだけれど。
荒れるかすんなり行くか、本当のところ娘たちや展くんと案じていた。
(お父さん・・今夜はかっこ良かったよ~)
雨の中帰る二つの傘を嬉しく見送った。 (良かったね・・幸せになりよ~)