4時に目覚めた夫が「行くで」 「ごめん、私2時間しか寝てへんし、よう行かへんわ」 「ほんなら明るうなったら来いや」 「はい・・」
申し訳ないと思ったが、運動会からの片付けもしていて寝たのが2時だったので無理。 真っ暗な中を、夫は自転車で出かけた。
普段友人と船では釣りをしても、1人では絶対釣りをする人では無い。
寒いなぁとも言わず、なんの躊躇もなく出かける夫。 みんなを喜ばせたい・・そんな一途な気持ちが後ろ姿に漂っていた。
私が目覚めたのは6時だった。 (行かなきゃ!) 100円ローソンでみんなの分のおにぎりやパンや飲み物を買っていたら電話が入った。
以心伝心か? 「氷買ってきて」
少し肌寒い大阪湾は、先客でいっぱい。 「ぼつぼつ釣れてるで」 夫の笑顔を見たとき、4時に一緒に来なかった事を申し訳なく思った。
大阪湾を船が行ったり来たり。 波は穏やかだった。 こんな休日の朝・・最高。
来る途中愛ちゃんから電話があり、息子一家が来たのは7時前だった。 (本当に来たんや・・ね!)
ひろとは釣りが楽しみで眠れなかったそうだ。 「ディズニーランドへ行くより、嬉しい」 そんな言葉が、夫をよけいに喜ばせた。
イワシが釣れ出した、入れ食い状態。 息子や愛ちゃんも3,4匹・・とかかる感触が嬉しくなったようだ。
運動会で疲れているだろうと電話を遅い目にした次女、「う・・ん行くの考えとくわ」と言ったが、家族でやって来たのが9時半だった。
始めての釣りらしい展君、入れ食いで・・笑顔満載 「釣れると面白いもんやなぁ」 次女に「写メして!」
来ないかと思っていた長女も、10時過ぎにやってきた。
なつめやかんたも「やりたい!」 みんなが釣りに挑戦。 船の往来を楽しみながら、ちょっとした釣りの楽園。 みんな有頂天だ。
家族で集まったときなど、私はみんなが団らんする姿を見ているのが好きだと良く書いているが、日曜しか休めない息子と、このように
釣りをやるのは初めてである。 そんな息子一家の後ろ姿、私の感動の一枚になった。
ひろとは自分で釣るようになった。 何匹もかかるので思わず「今日はイワシパーティーやなぁ!」 そう言ったので、夫は嬉しそうだ。
ひろとは来た時イワシが触れなかった。 動くと一瞬離れた。 まずは動かないイワシをトングで掴むようになった。
いっぱい釣れるので時間がたつうちに、ちょっと触りだして・・ついに何匹も両手に持てるようになった。 それだけでも大きな進歩である。
トロ箱にはどんどんイワシが増えた。 夫の指示で息子がうろこを取り頭とはらわたを出す。 板前さんだ、なんのことはない。
途中から交替。 私はひたすら、その作業をした。 まるで行商のおばさんだ。 ひろとが面白がって運んでくる。 すごい数だ。
通る人も覗いてはすごいなぁを連発した。
夫の腰と膝は限界に来ていた。 腰を曲げ顔をしかめながらも、懸命にみんなの相手をしている。
「ちょっと横になりいよ」 やっと手をとめ、おにぎりをほおばり敷きものの上で横になった。
「良かったね、お父さん・・ひろとも魚が掴めるようになったし、みんながあんなに嬉しそうに釣りを楽しんでるし・・」
「これがしたかったんや・・」目を閉じた夫がつぶやいた。
はっとした。 何度も夫に誘われたけど、餌の匂いが苦手だとか、魚を針からはずすの嫌だとか、いい返事をしなかった私。
釣りに言っても嬉しそうに出来なかった。 なんでここまでの夫の気持ちが汲めなかったのだろうと思った。
香港のセイ君を除く家族11人。 誰もが竿を持つ手にイワシがかかった時の、ビリビリっとくる感触を初めて味わった喜び。
家族全員で釣りと言う事がら。 子供や孫たちを喜ばせてやろうとする夫の気持ちがひしひしと感じられた。
この日までにどれだけ準備をしただろうか。2人で釣りに、夕方大阪港の釣れ具合を孫と覗きに、運動会の後も釣りに・・何度も足を運んだ。
「もう少し横になっときいよ」 私の止めるのも聞かずに、またのっそり起きてみんなの所に行った。
イワシの処理をしながら夫の言葉を何度も頭の中で繰り返した。 ぽろぽろ涙が出てきた。 純粋に家族を思う夫のやさしさに。
これが「和」 みんなで同じ事をする、楽しむ、これが家族の「和」お金では買えない心、子供たちにもそんな父親の思い、充分に伝わっているであろう。
だからみんなやって来たのだ。 腰を曲げながも、餌を入れてやったり懸命な夫の姿に感動した。
「おかん、なんぼでも釣っていいんか?」 処理しても処理しても増えるイワシ、笑いながら息子が言った。 「いいよ~」笑いながら答えた。
「数えてみようか」と言うと、「数えんほうがいいで」 それは処理が嫌になって来るからという意味?
「ひろと、もう終わろうか~?」 「いや、まだ~!」 「短めの竿、買うてやらなあかんな」 夫が言った。
12時半引き揚げることにした。
近場だし、ウッドデッキは危なくないし、孫たちと釣るには絶好なポジション。
息子んちは天ぷらを担当。 私は、しょうがと梅干で煮て、フライと、かば焼き、息子リクエストのつみれを担当。
私は数えた。 数えない方がいいと言っていた息子も数えていた。
息子が101匹、我が家は355匹。 全部で456匹になる。 煮魚100匹は骨をとらないが、残りは夫と腹開きで中骨をとった、気の遠くなるような作業。
スーパーのなら簡単に手で背骨はとれるだろうが、小さくても釣りたては包丁でないと。
集合をかけた6時にちょうど出来あがった。 やっとシャワーをした。
昼間の夫の言葉「これがしたかったんや・・」その言葉を思い出しシャワーしながらまた涙が出てきた。
だけど昨日からみんなして、何回集まっているんだろう。
ちょうどいい具合にみんながやってきた。
自分で釣ったイワシ、普通と違うパーティーだ。 みんながユリの喜びを味わい湧いた賑やかなイワシパーティーになった。
夫は「煮魚・天ぷら・かばやき・フライ」の順かなと言った。
息子は「天ぷらが一番や(自分が揚げながらカラッとしたのを食べて最高だったから)、そしてかばやき、フライ、煮魚かな」と言う。
最後につみれのお味噌汁を食べたら・・
「やば・・これやばい、もしかしたら天ぷらの次かな・・いや、これが一番かも」 獲れたてのイワシ、お味噌汁は大好評。
フードプロセッサーが無いので、ジューサーでつみれを作っているうちに煙が出てきて潰した。 大笑い。
「ごちそうさま~」 「おつかれさま~」 みんなを見送りながら、2人で「良かったね・・」と何度も言った。 夫が「近いから出来るんや、良かったなぁ」
「これがしたかったんや・・」 今日の夫の言葉、大切に私の心の中に収めておこう。