彼女のうなじからから柑橘系の香水の香りしてきて思わずむせ返りそうになった。
明日は秋の香りを一杯に胸にため込みながら国道を走り切ろうと決めていたのにこのむせ返るような香りが僕の下半身を刺激し始めた。
身体が意のままにならない。後ろを振り返れば般若面がニャリ!
前を見つめれば腰をかがめた白髪の老婆が僕の右手を握りしめ、信じられない強さで僕を手繰り寄せようとしている。
急に喉が渇き始めて我に返った。
小枝さんは気づく素振りもなく僕に微笑みかけながら
「この雑木林には小動物が隠れているようですね。私はさっき、狸のつがいを見ましたのよ。」
16歳の少女のように話しかけてきた。
「そう、僕も見ました。仲がよさそうだった。」
僕の声は少し上ずっていたのかもしれない。
テーブルにデザートのココナッツアイスクリームが運ばれてきて
まるでそれは僕たちのこれからしでかすであろう事柄を則すかのように
そっけなくテーブルに放り出されていた。
「そんなに慌てることはない。まだ、死ぬには早すぎる時間だ。」
雑木林の奥で狸の雄が囁くのが聞こえてきた。
「今更、女など欲しくはないのだ。」
「彼女はそんなことはないようだ」
「バカなことを言うな。そんな気分じゃないだろう。彼女の素振りを見ればわかる。」
「随分と意気地がないんだ。今夜は・・・」
「そう、俺も歳なのだ・・・・」
あたふたと時は過ぎるものなのだ。数十年前も、一秒前もほぼ同じように過ぎていく。
まるで僕ひとりを置き去りにしたままに。
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