仙台で出会った画家の加右衛門という人は、親切を絵に描いたような人で、風流心もある人だった。
仙台を発つとき、お金持ちでない加右衛門は、気持ちのこもった手土産を呉れた。
芭蕉にとって理想的とも言える想い出の町と人となった。
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旅の場所・宮城県多賀城跡
旅の日・2019年7月1日
書名・奥の細道
原作者・松尾芭蕉
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「奥の細道の旅」 講談社 1989年発行
名取川を渡って仙台に入る。
あやめふく日也。
旅宿をもとめて、四五日逗留す。
ここに画工加右衛門と云ふものあり。
聊か心ある者と聞きて知る人になる。
この者、「年比さだかならぬ名どころを考置き侍れば」とて、
一日案内す。宮城野の萩茂りあひて、秋の気色思ひやらるる。
あやめ草足に結ばん草鞋の緒
<中略>
壺碑(つぼのいしぶみ) 市川村多賀城に有り。
つぼの石ぶみは高サ六尺余、横三尺斗。苔を穿ちて文字幽也。
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「奥の細道の旅」 講談社 1989年発行
五月四日(陽暦六月二十日) 岩沼に武隈の二木の松を見て、夕方仙台にはいった芭蕉は、
画工加右衛門と知合いになり、宮城野の歌枕を案内してもらったが、
その上、仙台を立つ前夜には 「ほし飯一袋、わらぢ二足」をもらった。
折から端午の節旬なので、家々の軒には無病息災を祈ってあやめ草がかざしてある。
私は紺の染緒の草鞋をもらったので、この草鞋の緒を結んで、前途の無事を祈りながら旅立つことにしよう、の意。
「あやめ草」は、端午の節句に風呂に浮かべる菖蒲のことで、花菖蒲の類ではない。
「紺の染緒」はマムシがきらって寄りつかないという。いずれも無事を祈るという点で共通性がある。
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「芭蕉物語」 麻生磯次 新潮社 昭和50年発行
あやめ草足に結ばん草鞋の緒
「あやめ」は花菖蒲やはなあやめではなく、端午の節句に軒端にふいたり、しょうぶ湯にしたりする菖蒲である。
花の色は黄緑色であって紺色ではない。
葉に芳香がある。
折から端午の節句なので、家々では軒端に菖蒲をふいている。
自分は住むに家もなく、行雲流水の身であるから、いただいた草鞋の紺の染緒に菖蒲を結んで、邪気を払い、
道中の平安を祈ることにしましょう、といって感謝の気持をあらわしたのである。
芭蕉は加右衛門に会えたのが何よりも嬉しかった。
芭蕉は日光の宿で仏五左衛門という無知無分別な人に接して感銘したが、この加右衛門も朴訥な人柄であった。
紺の染緒のついた草鞋だの干飯だの海苔だのを持参し、これから行く先々の名を絵にかいて贈ってくれたりした。
価にしたら何ほどの品物でもなかったが、真情がこもっているので有難かった。
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