――本田さんの奥さんは歌手ですが、歌に対して、ピアノ弾きとしての限界を感じたことは、ありませんか。たとえばピアノにすごく拘束されてしまうとか。
本田 やっぱり、ありますね。ピアノをやめて歌手になろうかと思ったこともあるし……。歌には、他のものにかなわない何かがあるよねえ。歌ってのは、人間の肉声でしょう。ピアノは上から叩く、それだけでも、もう、違う。たとえば何か言いたいことがあってピアノを通じて言おうとしたってこれはかなり難しいと思うんだよね。ピアノを弾いてて、うまく三人のバランスが合って、どんどん音楽が出てきた時は、やっぱり声が出ちゃう。(中略)
――一体全体、音楽というもので何ができるのでしょう。
本田 音楽をやると、運動になる(笑)。反対に、俺が聞く立場になった時には、美しいもの……美しいものってのは変だけど、いいものを聞いて影響されるってことがある。(中略)今でもクラシックの、カザルスのチェロを聴いても感動するねえ。テレビで最近やってたんだけど、もう、涙がぽろぽろ出て来ちゃって。いい音楽って、いつも自分の生活とかちょっとオーバーだけど人生観とか、そういうものに対して微妙な変化を与えるのだと思う。正しい方向とか、極端な言い方をすれば悪の道に入らないとか、そういうものを感じさせるのが、いい音楽じゃないかな……。わりと質の……音楽の中味の薄いやつってのは、その場でぱっと終っちゃう。何十年も自分の気持ちに生き続けるってことは不可能だと思う。その人の中に何十年も生き続けることのできるような音楽っていいね、自分にそうするように言い聞かせてるわけだけれども。
(『JAZZ』14号・1972年秋 本田竹曠「ブラック・ピープル幻想」より)
本田 やっぱり、ありますね。ピアノをやめて歌手になろうかと思ったこともあるし……。歌には、他のものにかなわない何かがあるよねえ。歌ってのは、人間の肉声でしょう。ピアノは上から叩く、それだけでも、もう、違う。たとえば何か言いたいことがあってピアノを通じて言おうとしたってこれはかなり難しいと思うんだよね。ピアノを弾いてて、うまく三人のバランスが合って、どんどん音楽が出てきた時は、やっぱり声が出ちゃう。(中略)
――一体全体、音楽というもので何ができるのでしょう。
本田 音楽をやると、運動になる(笑)。反対に、俺が聞く立場になった時には、美しいもの……美しいものってのは変だけど、いいものを聞いて影響されるってことがある。(中略)今でもクラシックの、カザルスのチェロを聴いても感動するねえ。テレビで最近やってたんだけど、もう、涙がぽろぽろ出て来ちゃって。いい音楽って、いつも自分の生活とかちょっとオーバーだけど人生観とか、そういうものに対して微妙な変化を与えるのだと思う。正しい方向とか、極端な言い方をすれば悪の道に入らないとか、そういうものを感じさせるのが、いい音楽じゃないかな……。わりと質の……音楽の中味の薄いやつってのは、その場でぱっと終っちゃう。何十年も自分の気持ちに生き続けるってことは不可能だと思う。その人の中に何十年も生き続けることのできるような音楽っていいね、自分にそうするように言い聞かせてるわけだけれども。
(『JAZZ』14号・1972年秋 本田竹曠「ブラック・ピープル幻想」より)