<高度成長時代段階の日本に、まだ「会社が嫌い」の変わり者人間が行くべき場所はなかった。しかし、会社員であることを志向しない「フリーター」というものが登場する。事態は一部で、「野球よりサッカー」になる。しかも、その社会状況を成り立たせる“一部”は、商品の売れ行きを大きく左右する若年層である。日本経済は根本で停滞していて、“売れる商品”はかなり限定したところにしか存在しないという状況が来ていた。Jリーグというサッカーは、かくして投資の対象となる。高度成長が行くところまで行った段階で、「辞めます」を平気で口にする奇っ怪な若い社員が増え、「フリーター」という言葉が公然と罷り通る。その段階で、Jリーグの設立はほぼ可能になっていた。Jリーグ誕生の年が「バブルがはじけた」と言われる年の翌年だというのは、だからとても重要なのである。
「日本のサッカー=Jリーグとはなにか?」――この答えは、「将来を期待されることなく勝手に育ってしまった管理社会の余剰部分」ということにしかならない。「Jリーグがプロ野球に取って代わる」ということは、「プロ野球からJリーグへと、スポーツの世代交替が起こる」ということで、それはすなわち、「日本の男達の間に世代交替が起こる」ということでもあった。しかし、“余剰部分”を生み出すような日本社会を作る男達の中に、「世代交替」という発想はない。だから、「今の子供はもう野球をやらないんだそうだ」の一言に、多くの男達は戦慄を感じなかった。サッカーで育った男達の中にも、「戦慄を感じさせよう」などという発想はなかった。それで、“余剰”から生まれたものは“新しい芽”にはならずに、新手の根無し草になる。終わることにピンとこない日本では、終わったものは終わらず、後から始まった新しいものの方が、先に息切れして倒れてしまうのである。一種の寓話のようなものが日本社会の現実だから、それでもしかしたら、日本人はまともに現実を問題にしないのかもしれない。>
(橋本治『天使のウインク』中央公論新社2000/「サッカー社会と野球社会」より)

天使のウインク
<恐怖を克服しなくてなんの人間か。酒鬼薔薇聖斗から新潟監禁事件まで。世紀末の闇を超ド級のポップセンスで解読し、“天使が目くばせするような”方向へ私たちを導くハシモトの問題作。><恐怖を克服しなくて、なんの人間か。酒鬼薔薇聖斗から新潟監禁事件まで、世紀末の闇を超ド級のポップセンスで解読する。『中央公論』連載エッセイの単行本化。>
登録情報
単行本:302ページ
出版社:中央公論新社 (2000/04)
ISBN-10:4120030008
ISBN-13:978-4120030000
発売日:2000/04
商品の寸法:19.4x13.4x2.4 cm
「日本のサッカー=Jリーグとはなにか?」――この答えは、「将来を期待されることなく勝手に育ってしまった管理社会の余剰部分」ということにしかならない。「Jリーグがプロ野球に取って代わる」ということは、「プロ野球からJリーグへと、スポーツの世代交替が起こる」ということで、それはすなわち、「日本の男達の間に世代交替が起こる」ということでもあった。しかし、“余剰部分”を生み出すような日本社会を作る男達の中に、「世代交替」という発想はない。だから、「今の子供はもう野球をやらないんだそうだ」の一言に、多くの男達は戦慄を感じなかった。サッカーで育った男達の中にも、「戦慄を感じさせよう」などという発想はなかった。それで、“余剰”から生まれたものは“新しい芽”にはならずに、新手の根無し草になる。終わることにピンとこない日本では、終わったものは終わらず、後から始まった新しいものの方が、先に息切れして倒れてしまうのである。一種の寓話のようなものが日本社会の現実だから、それでもしかしたら、日本人はまともに現実を問題にしないのかもしれない。>
(橋本治『天使のウインク』中央公論新社2000/「サッカー社会と野球社会」より)

天使のウインク
<恐怖を克服しなくてなんの人間か。酒鬼薔薇聖斗から新潟監禁事件まで。世紀末の闇を超ド級のポップセンスで解読し、“天使が目くばせするような”方向へ私たちを導くハシモトの問題作。><恐怖を克服しなくて、なんの人間か。酒鬼薔薇聖斗から新潟監禁事件まで、世紀末の闇を超ド級のポップセンスで解読する。『中央公論』連載エッセイの単行本化。>
登録情報
単行本:302ページ
出版社:中央公論新社 (2000/04)
ISBN-10:4120030008
ISBN-13:978-4120030000
発売日:2000/04
商品の寸法:19.4x13.4x2.4 cm