徒然地獄編集日記OVER DRIVE

起こることはすべて起こる。/ただし、かならずしも発生順に起こるとは限らない。(ダグラス・アダムス『ほとんど無害』)

その拍手に嘘はない/第11節 神戸戦

2011-05-17 02:24:16 | SHIMIZU S-Pulse/清水エスパルス11~14
今週末は震災以来初めて首都圏を離れた。
さてゲームだ。静岡について1時間ほど時間を潰してからアウスタへ向かった。
1-5というどんな言い訳も空しくなるような結果ではあるが、意外にも途中から面白くなった。

アレックスがフリーで放った枠内シュートあたりまでは、これまでロースコアで痺れるような戦いを繰り返してきた神戸戦の再現を予感させた。そもそもこの対戦で5失点などという夢のスコアはあり得ないのだ(昨年秋のアウエイゲームはミラクル神戸のエクストラだ)。しかし、この神戸戦は本当にあの神戸戦なのか。

チームはまだ若く、成長途上だ。
マリノス戦の失点後の10数分間にしても、今回前半18分に大久保に流し込まれた先制点(失点)にしても、カウンターパンチを喰らった途端にこのチームはゲームコントロール不能に陥ってしまう。神戸は序盤から終盤に至るまでアグレッシヴにボールを追い続けた。まず前半は負傷で離脱している平岡、村松に代わりスタメンでデビューした岡根と、相変わらずディフェンスに不安の残る辻尾の右サイドを執拗に狙われた。その結果、ちょっと信じられないようなミスで失点すると、そのショックが癒えないまま簡単にサイドを揺さぶられて都倉の美しいシュートが決まってしまう。前半、チームにリーダーはいなかった。
これで神戸はすっかりゲームを手の内に入れたと思う。そもそもガチムチのディフェンスと大久保、都倉らの老練さと高さ、鋭さを兼ね備えたカウンターが売りなのだから、次の一点がゲームの趨勢を決める。
しかしこのチームからは、あまりにも感動的だったJ1残留の余韻がまだチームに残っているような、ちょっとした風格のようなものさえ感じさせた。圧倒的な強さでJ2を勝ち抜いて、チームを成熟させた柏、広島とは別の意味の成熟か。現在、この2チームが(再)スタートダッシュを成功させて、好調をキープしているのも理解できる。この日の神戸にも同じような、チームの動きに確信めいたものを感じた。
※清水戦の後、神戸は来週、再来週にかけて広島、柏と対戦するのだが、これは好ゲームを期待できる。

後半、ゴトビは辻尾に代えて伸二を投入。さらに16分、岡根に代えてナギー、さらにさらに30分には翔に代えて高原を投入した(これでは10年前のレッズである。まあゴトビにしたら知ったこっちゃないが)。この交代でチームはそれでもオフェンスに関しては落ち着きを取り戻していく。結果的には神戸のゲームになっていたとしても、清水は圧倒的に攻め続けた、
その代わりに後半の3失点というのは決定的なチャンスを外した直後に喰らった。まさに決めるべき場面で決めなければこうなる、ということである。急造3バックの上に、意識的にワイドに展開する清水相手に神戸のカウンターが面白いように決まっていく。もちろん前半の大久保、都倉のシュートを含めてどれもが素晴らしいゴールではあった。そもそも至近距離ならともかく、ニアを抜かれ続けた海人はちょっとどうかとも思うが。

呆然とゲームを観ている間に、ノムさんがスカパーのCMで連呼している<勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし>の言葉が浮かんできた。これ元々は松浦静山(肥前国平戸藩第9代藩主、心形刀流剣術の達人)の言葉だそうだが、この日の清水は結局負けるべくして負けたとしか思えなかった。勿論、神戸の勝ちを不思議だとは思わないが(それでも、さすがに5得点は出来すぎだと思うけれども)。
あまりにもはっきりと<負けに不思議の負けなし>が見えてしまった以上は、この敗戦を引きずる必要はない。
マリノス戦、広島戦から名古屋戦にかけて見えた成長曲線が誤解だったとは思わない。成長途上のチームだからこそこんな風に派手に散るゲームも起こり得る。サポ、ファンが結果に失望するのは当然だが、決して内容に失望する必要はないと思う。

それでも後半11分の翔のシュートがバーに当たった瞬間のスタジアムの空気はちょっと凄いものだったけれども。
「あれでも駄目なのか」というか。
「もう決まらないんじゃないか」というか。
テレビでそのシーンを観戦していた人は歓声(悲鳴)をマイクが拾っていただろうから印象が違うだろうけれども、現場の印象ではスタジアム中が言葉を失うような雰囲気だったと思う。テレビはネガティヴな感情をブーストする危険なマシンですからゲームはなるべく現場で観た方がいいですよ。おそらくこの結果を激怒している人の多くはテレビ観戦していたんじゃないかな。

さすがにインジュリータイムに5失点目が決まった途端にスタンドは動き始めたのだけれども、1-4になっても見渡す限り席を立つような観客はいなかった。ついでに言えば昨年までにはあった監督やプレーヤーへの露骨な野次というのもあまり聴こえなかったように思う。昨年までの健太時代だったらこうはいかなかっただろう(それを愛憎とも呼ぶが)。
ゴトビは試したことのない3バックで完全にバランスを崩してまでも攻撃的なカードを切り続けたし、プレーヤーはそれでもチャンスを作り続けた。そこに希望さえあれば、希望を感じ取ることができれば人は留まり続けるのだ。もういくら泣いてお願いしてもひっくり返りそうもないスコアで負けていたとしてでも、だ。

ゲーム終了後、すっかり静まり返ったスタジアム(神戸サポ除く)のセンターサークルに整列したプレーヤーたちがピッチサイドを歩き始めると、それでもサポやファンの多くは拍手を送った。ゴール裏(有志)は励ますようにチャントを歌った。
その拍手やチャントに安直な憐憫や嘘はなかったと思う。
1-5で負けたのに、それでも前向きでいられるって素晴らしいことだぜ。

次は22日、日曜日に大宮戦。さらに28日は静岡ダービー。
まだこんなところで止まっちゃいられないのである。

浜岡と違って。



ちなみにメインスタンドの怒りはレフリーに向かいました。
後味悪かったなァ…。