徒然地獄編集日記OVER DRIVE

起こることはすべて起こる。/ただし、かならずしも発生順に起こるとは限らない。(ダグラス・アダムス『ほとんど無害』)

オナニズム的/坂口安吾「日本人に就て 中島健蔵氏への質問」

2011-05-14 03:49:11 | Books
<僕は時々日本人であることにウンザリします。むろんウンザリしてはいけないのですが、時々ウンザリするのです。近頃自意識過剰ということが言われていますが、我々日本人の場合これを自意識過剰というべきや行動過少というべきや甚だもって疑わしいと思われるのです。
 日本人は宗教心を持たない代りに手軽な諦らめとあんまり筋道のはっきりしない愛他心とに恵まれてきました。元来情熱は一途に利己的なものであるようですが、日本人はこれまで情熱を追求することを教えられず、途中で抑え、諦めることに馴らされてしまい自分の正しい慾念よりも他人の思惑の方に余計気にしたりするようであります。それの愚かしいことに重々気付き、又憎んでいても、長い習慣から脱けでることができません。(中略)
 日本人の精神生活を性生活にたとえると全くオナニズム的ではないでしょうか? 性的な意味だけではなく、日本人の小説を読んでいると打たれる美の多くのものがオナニズム的な傾向を多分にもっていることに僕はよく気付くのです。けれども日本人が年中オナニズムにふけっているわけでなく、あたりまえの性生活だってチャンとやっているように、日本人の小説も所詮オナニズム的であることはまぬかれないとしても、もっと積極的な行為の生活へはいってゆく必要はあるでしょう。>
坂口安吾『日本論』河出文庫1989「日本人に就て 中島健蔵氏への質問」1935.7)

Tomorrow Never Knows/共同通信社社会部「銀行が喰いつくされた日」

2011-05-14 03:04:32 | Books
<九三年の末、頭取の堀江鉄弥ら経営首脳は、再度、決断を迫られていた。
 内部調査委メンバーが言う。
「このころが最後のチャンスだった。株式の含み損などを総合的に判断すれば、長銀にはまだ処理のための体力が残されていた。堀江さんの責任は重いと言わざるを得ない」
 堀江ら経営陣の決断は重く、危機感に欠けていた。
「当面は受け皿会社に移し、時間をかけて徐々に処理していこう」が全社的方針になり、以後、長銀内では不良債権隠しは中間処理対策と呼ばれることになる。(中略)
 過剰融資の傷跡を隠すことによって塗りつぶそうとした長銀が作った受け皿会社は最終的に直系だけで十九社、グループ全体では九十九社に上り、十九社だけでも六千九百六十億円分もの不良債権隠しが行われた。営業畑にいた元部長は必死な表情でこう訴えた。
「隠したって言うけど、悪意なんかなかった。当座しのぎだったんだ。地価の回復に一縷の望みをかけてね。地価さえ持ち直せばすべては解決するってね。何年かたって、いつか同僚とあの時は苦しかったなって笑って話せる日がくると思ってたんだよ」
「その日」がくることはなかった。>
共同通信社社会部「銀行が喰いつくされた日」講談社+α文庫