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ミセスローゼンの上人坂日記

トロイメライ聴かせてをりぬ室の花

  大晦日といえば、こんな思い出がある。 
「毎年連れて行く娘が引っ越して、相手がいません。ニューイヤーイブパーティーに一緒に行ってくれませんか?」とニックに誘われた。
『ヘアスプレー』というミュージカルの舞台になったボルチモアへ、ドライブして着いた大邸宅は、ニックの恩師グレゴール・ピアティゴルスキー先生の娘さんの家。中へ入ると、カーネギーホールの舞台で見るソリストや有名なオーケストラのプレイヤーがうじゃうじゃ。ニックと抱き合って再会を喜び合う。巨大なキッチンでは料理雑誌のグラビアに載るミシュラン三つ星レストランのシェフが楽しげに料理している。地下貯蔵庫から運ばれたシャトー・ムートン・ロスチャイルドの年代物ワインが惜しげも無く栓を抜かれる。それもその筈、この家の女主人の母上は、旧姓ジャクリーヌ・ド・ロスチャイルドだったのだから。
  たらふく食べて飲んで、音楽の話に聞き惚れる内、今宵のプログラムが発表される。弾きたいミュージシャンがステージに上がり、リハーサルなしの室内楽の饗宴。モーツァルトやベートーヴェンの時代の貴族の夜会のよう。めくるめく時間。そしてカウントダウン。新たなシャンパンが抜かれ、乾杯と抱擁。当家の主がクラリネットで演奏する蛍の光。礼砲めいたクラッカーの響きに、新年の健康と幸福を祈り合う。
 その夜から、私のスイッチが切り替わった。不運を嘆く私は消えた。
「このチェロの名手を、クラシックよりミュージカルに客の入る街にくすぶらせてなるものか! 筋金入りの正統派クラシックファンが、日本にはまだ沢山居るに違いない!」と闘志が湧いた。
  あれから、早や十二年。ニックを日本に連れて来た事を後悔したくないから、来年も、もりもり働いて、一つでも多くのコンサートが出来るように頑張りたい。

  皆様もどうか良いお年を!!!

 



 
 
 
 
 

 

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