ミセスローゼンの上人坂日記

霜の夜をじりじり焦がすラムチョップ


ロサンゼルス空港の聖樹

アメリカは1日遅れるから、誕生日の翌日もお祝いメッセージが続いて嬉しい。久しぶりの人から声をかけてもらうのがまた嬉しい。自分もまめになりたいと思うが、何かに夢中になっていると忘れてしまう。

誕生日気分につき、ニックの驚く昔話を一つ。
ニックは、チャイコフスキー国際コンクールに二度参加して、ホワイトハウスにも二度招かれた。リチャード・ニクソンと、ジミー・カーターである。一度目、ニックがまだ十代の時の思い出だ。

ニクソンが僕に何と言ったか、聞いても君は信じられないだろう。僕自身いまだに信じられない気持ちなんだが、確かに彼は言ったのさ。
ニクソンに会う前に誰に会ったか聞いたら、君は喜ぶだろうなあ。そうだ、スタインベックだ。彼もパーティーに招待されてた。笑うと歯が真っ黄色だったのが印象的だったよ。噛みタバコをやるせいだろう。スタインベックは、俺はまず金の為に書く、と言い切った。爽やかな人だと思った。次に、ニクソンに会わせるからこっちへ来なさいとロシア駐在アメリカ大使に導かれ、奥へ奥へと進んだ。途中でキッシンジャーに紹介された。キッシンジャーはゴムのような顔の表情一つ変えず握手した。いよいよニクソンの前に出て、僕は何か言わなくちゃと思い、ヴァイオリンを担いでいる写真を拝見しました。お弾きになるんですね? と話しかけた。ニクソンは、小学校を訪問した時だね、いや、たいしたことはないよ。ときどき練習せねばと思い、取り出してやるが、なかなかだね。それよりもチェロの音色というのは、あれだね、なんともこう、何と言うか、そのう‥‥‥と、大統領の目が言葉を探して彷徨った。そしてついに、僕の顔を指さしながら言った。
「Deep Throat!」
ね? 信じられないだろう? でも確かにニクソン大統領は、ディープスロートと言ったのさ。
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