ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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『乱歩地獄』

2021-10-21 16:19:18 | 映画
 


公開は2005年。
乱歩の中短編4編を映像化したオムニバス形式の作品です。

選ばれたのは、「火星の運河」、「鏡地獄」、「芋虫」、「蟲」。
四編とも原作は明智小五郎の登場しない作品ですが、この映画では、「鏡地獄」と「芋虫」に明智小五郎を出しています。4編すべてに出演している浅野忠信さんが、この2編では明智小五郎役。

あえて明智小五郎の登場しない作品を選んで明智小五郎を出す――ここが、この作品の重要なポイントでしょう。
といっても「芋虫」に関してはゲスト的な感じでちょっと出てくるだけで、本格的に明智小五郎が活動するのは「鏡地獄」のみですが……その「鏡地獄」は、じつに凄まじい一作に仕上がっています。

4編それぞれに別の人が監督をやってるんですが、「鏡地獄」の監督は実相寺昭雄。
初期ウルトラマンシリーズなどで知られる奇才です。ウルトラマンシリーズでは賛否あったわけですが、その異能がここでは存分に発揮されています。
明智小五郎が出てこない作品に明智小五郎を出しているのでストーリーはかなり改変されていますが――というより、まったく別の話になっているといっていいぐらいです――が、ここまで大胆に原作を改変しながら、それでいてしっかりと乱歩の地獄を描き切っているのがまずすごい。引用されている実朝の歌「世の中は鏡にうつる影にあれや有るにもあらず無きにもあらず」も効果的です。作品中のあちこちにこの歌を書いた色紙や掛け軸が出てきますが、これは「うつし世はゆめ、夜の夢こそまこと」という乱歩のテーゼと呼応しています。乱歩作品で重要な意味を持つ“鏡”のモチーフをいかし、新たな視点を提示してくれます。

斬新な解釈でありながら乱歩の世界を描き切っているということは他の3篇についてもいえるでしょうが、とりわけ3編めの「芋虫」には乱歩愛を感じます。
原作の「芋虫」は、非ミステリー作品としては、一、二を争う乱歩の代表作でしょう。私も、以前一度このブログで取り上げました。
この『乱歩地獄』における「芋虫」は、明智小五郎ばかりでなく怪人二十面相まで登場。さらに、平井太郎という人物も登場します。この「平井太郎」という名が江戸川乱歩の本名だというのは、乱歩ファンにはいうまでもないことでしょう。さらに、「屋根裏の散歩者」、『パノラマ島奇談』など、いくつもの乱歩作品を踏まえた内容となっています。乱歩ファンなら、一見の価値があるでしょう。ただ、痛い系の描写が苦手な人にはちょっときついかもしれませんが……




『病院坂の首縊りの家』

2021-10-07 21:25:43 | 映画

今日は10月7日。

「ミステリー記念日」です。

ということで、今回は映画記事として、ミステリーの名画について書こうと思います。

紹介するのは、『病院坂の首縊りの家』

 

原作は、いわずと知れた横溝正史。
市川崑監督による横溝作品シリーズの一作で、横溝自身もゲスト出演しています。横溝は今年が没後40周年にあたるということをちょっと前に書きましたが、この映画の公開は1979年。すなわち、横溝最晩年の姿が映し出されているわけで、そういう意味でも貴重な作品といえるでしょう。

下はそのプレビュー動画。
短い動画ですが、このなかでも横溝先生の勇姿を拝むことができます。

病院坂の首縊りの家

そのタイトルから、もうおどろおどろしい横溝ワールドの空気がたちこめてきますが……中身はそれを裏切りません。
生首を天井からつるすというショッキングな殺人にはじまり、次々と起こる連続殺人。その謎に、金田一耕助が挑むのです。原作シリーズにおいては、これが金田一最後の事件。映画のほうでは、そのあたり微妙ですが……

怪奇趣味と、どろどろした旧家の因縁……横溝作品ではおなじみのモチーフですが、もう一つ特筆すべきは、ジャズバンドが出てくるところでしょうか。
横溝正史という人は、どうやら音楽に潜む魔性というものに着目し、自身の作風を構成する要素の一つとしているらしいのです。
たとえば『悪魔の手毬唄』、あるいは『悪魔が来りて笛を吹く』という作品があり、後者では、笛の奇妙なメロディが謎解きの伏線になっていたりもします。そういえば、あの「本陣殺人事件」でも、狂ったようにかき鳴らされる琴の音色が、単に伏線というにとどまらない重要な役割を果たしていました。そして、『病院坂』においては、ギターでぶんなぐったうえに、その弦で首をしめて殺すという殺人が描かれます。
このブログでは、音楽と悪魔的なものとの関係について何度か書いてきました。横溝正史は、その音楽に潜む魔性を、媒介に利用しているように私には思われるのです。いわば、異界への入り口として……
そのあたりが、まさに私自身の作風とも重なってくるわけで、やはり自分は横溝に相当大きな影響を受けているのだなあ、と感じさせられる一作でもありました。



『ゴジラvsコング』

2021-07-25 20:59:23 | 映画


映画『ゴジラVSコング』を観てきました。

以前書いたようにコロナ禍で公開が延期されていたわけですが、今月2日から公開されています。あんまり新作映画を劇場に観に行くということはない私ですが、ちょうど連休というタイミングもあって、せっかくなので行ってきました。

7/2(金)公開!映画『ゴジラvsコング』吹替版 予告編

前作キング・オブ・モンスターズは世間的には評判が悪いようで、今回のVSコングもどうもイマイチというような前評判が聞こえてきており……どうなんだろうかと思っていたんですが、見終わった感想としては、決して悪くないと思います。

ツッコミどころはいろいろあります。
3作目ぐらいを迎えたシリーズ作品の宿命ともいえる「詰め込みすぎ」問題。その一環であろう、芹沢蓮(小栗旬)という重要人物に関する説明不足。そして、地下空洞云々という荒唐無稽……
しかしまあ、荒唐無稽という点に関しては、ゴジラシリーズを全作見てきたものにとってはこれぐらいの荒唐無稽は許容範囲。詰め込みすぎも、やや消化不足の感は否めないながら、これも許容範囲といっていいでしょう。やはり、ゴジラとコングのマッチアップという夢の対決というところが、この作品の最大のポイントであり、そこがどうなっているかというところが重要なのです。
VSモノである以上、勝敗はどうなるのかということが当然あるわけですが……ここに、先述した「詰め込みすぎ」ポイントの一つがからんできます。
一応ネタバレを避けるために詳細は伏せますが、この作品にはゴジラとコング以外に、もう一体日本のゴジラシリーズでもおなじみのアレが登場します。まあ、そのへんの情報は漏れ伝わっていて、私もそれが登場することは映画鑑賞前に知ってたんですが……しかし、ああいうポジションで登場するというのは意外でした。日本のゴジラシリーズでも、こういう役回りで出てきたことはなく、斬新な解釈といえるんじゃないでしょうか。
そこから終盤にいたる展開は、ありがちといえばありがちなものではありますが……ここに登場する三体のキャラをその構図にあてはめたやり方は、なかなか巧妙だったと思います。最初のほうは、この映画大丈夫なのか……というハラハラ感で観ていましたが、終わってみればきれいに着地できていたという感想でした。かつての『キングコング対ゴジラ』を踏まえたような描写も散見され、そういうところも楽しめます。
おそらく、この“モンスターバース・シリーズ”はこれが最終作ということになるのだと思われますが(出すべきほどのものはすべて出したので……)ラストを飾るのにふさわしい作品といえるんじゃないでしょうか。



『ロッキー』

2021-07-06 21:44:40 | 映画


今回は、映画記事です。

今日7月6日は、シルヴェスター・スタローンの誕生日なんだそうで……
たまたま先日『あしたのジョー』に関する記事を書いたということもあって、ボクサーつながりで『ロッキー』です。

ロッキーのテーマ(Gonna Fly Now)のYouTube動画を。

Gonna Fly Now (Theme From "Rocky")  


あまりにも有名な作品なので、映画の内容自体については詳しく書きませんが……最初に観たとき、『あしたのジョー』でボクシングを学んだ者としては、無名のボクサーであるロッキーが世界チャンピオンになぜ勝てるのかという部分に説得力がないという感想を持ちました。
まあ、『あしたのジョー』でボクシングを学んだ感覚というのもそれはそれでいびつでしょうが、それにしても……という話ではあります。
『あしたのジョー』の場合、ストーリーの核心となる試合において矢吹丈は負けているわけなんです。
『ロッキー』は、モハメド・アリ相手に善戦した無名のボクサーをモデルにしているといいますが、そのもとになったボクサーも、善戦こそすれ勝ってはいません。
ところが、ロッキー・バルボアは勝利します。
これが、ハッピーエンドを否定するアメリカン・ニューシネマの流れを断ち切り、「アメリカン・ドリーム」への憧れを甦らせた――というようなことがいわれてるそうですが、どうも私には、そのアメリカン・ドリームなるものの嘘臭さのほうが強く感じられるのです。
ベトナム戦争が終結した後であり、公開年は1976年で、奇しくもアメリカ建国200年にあたる年。そこでまたぞろ復活したアメリカンドリームという幻想よりも、同じ年に『ホテル・カリフォルニア』でその虚構を告発したイーグルスのほうに私はリアルを感じるのです。
まあ、ロッキーのテーマは名曲ですが。





『ゴジラ VS スペースゴジラ』

2021-06-12 23:33:21 | 映画


今回は、映画記事です。

このカテゴリーではゴジラシリーズの作品について書いていますが……今回取り上げるのは、第二期シリーズ6作目にあたる『ゴジラVSスペースゴジラ』。
公開は1994年。
ゴジラシリーズ全体としては、通算21作目になります。


「ゴジラ VS スペースゴジラ」 | 予告編 | ゴジラシリーズ 第21作目

本来、第二期シリーズは前作『ゴジラVSメカゴジラ』でいったん終了する予定でした。

それは、ハリウッド版『ゴジラ』が制作されることになったから……ということだったんですが、このハリウッド版の制作が遅れます。そこで、急きょゴジラの新作を作ることになってできたのが、『ゴジラVSスペースゴジラ』です。
そういう経緯があったためか、スケジュールは例年の2か月遅れだったといいます。

そのせいかはわかりませんが……この作品を観ていると、いささか散漫とした感じを受けます。
どこか雑然としているというか……


この作品を観ていると、シリーズモノが作品数を重ねるにつれて陥っていく弊害が表れてきているように思えます。
その一つは、“詰め込みすぎ”ですね。
スパイダーマン3みたいな感じです。それまでの作品に出てきたあれやこれやを引き継いでいるために、その糸がからまってくる状態でしょう。

その糸の一つは、『ゴジラ対ビオランテ』から伸びるもの。
この作品に登場する結城晃(柄本明)は、『ゴジラ対ビオランテ』で殉職した権藤五郎の親友なのです。彼は、親友の仇を討つために、ゴジラを付け狙っています。そして本作には、その権藤五郎の妹も登場します。

二つ目は、『ゴジラVSモスラ』から伸びる糸。
本作には、“フェアリーモスラ”とコスモスも登場します。モスラが直接戦闘に参加することはありませんが……スペースゴジラ誕生の原因がモスラにあるかもしれないというような話にもなっています。

三つ目は、前作『ゴジラ対メカゴジラ』から伸びる糸。
すなわち、ベビーの存在です。この作品では、前作で誕生したベビーゴジラがちょっと成長して出てきます。

『ゴジラVSメカゴジラ』において、ベビーの登場によってゴジラのキャラクターが変化したということは以前書きました。
この点は、『ゴジラVSスペースゴジラ』において、いっそうの展開をみせます。
すなわち、ゴジラの“正義の味方”化がさらに進行するのです。

そのカギとなるのが、スペースゴジラ。

昭和の第一期ゴジラがそうであったように、第二期においても、“宇宙からの侵略者”という共通の敵をもつことによって、ゴジラと人類のあいだに共闘関係が生まれます。
先述した結城晃とゴジラとは、いうなれば銭形とルパンのような関係になっていますが、その二人がカリオストロ伯爵との戦いで共闘するのと同じことが起きるわけです。


……と、こう書いてきただけでも十分詰め込みすぎですが、この作品の筋立てをさらにややこしくしているのは、ストーリーの軸が二つあるということです。

その一つは、Tプロジェクト。
サイキックセンターの主任となった三枝未希が、テレパシーでゴジラを操ろうという計画です。

もう一つは、Mプロジェクト。
ここで、モゲラというものが登場します。

前作で登場した「国連G対策センター」が新たに開発したメカ。Mobile Operation Godzilla Expert Robot Aero-type を略してMOGERAです。といっても、これはあくまでもこじつけで、かつて東宝が制作した『地球防衛軍』という映画に登場するモゲラが元ネタ。
第二期を飛び越え、ゴジラシリーズの枠さえ飛び越えて、さらに詰め込んでくるわけです。

こうしていくつもの糸が絡まり合い、ラブロマンス的な要素さえ取り入れて、話も複雑になってます。
まあ、興行成績は悪くないということを考えると、さまざまな要素を詰め込むという戦略は奏功しているということなんでしょうが……


最終的にスペースゴジラを倒した後、ゴジラはおとなしく海へ帰っていきます。
第一期の後半と同じように、ものわかりのいいゴジラになっているのです。ゴジラが現れたらとにかく日本を蹂躙する、だから日本人はゴジラが出現したら否応なしに戦わなければならない――とい前提が崩れています。息子ができるとそうなってしまうんです。
しかしこの変化は、そもそもゴジラ映画を成立させる土台を掘り崩してしまっています。ゆえに、この段階にいたると、もうシリーズの終焉も近いということになるのです。まあ、そもそももう終わるはずだったということでもあり……そんなわけで、次作が第二期シリーズの最終作となるのです。



最後に、3DCGを。
今回は、スペースゴジラを作りました。背景の建物も、blender で自作しています。後方にある茶色の建物のできがやや不満ですが……