ロック探偵のMY GENERATION

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『ドクター・スリープ』

2021-01-11 21:23:15 | 映画


『ドクター・スリープ』という映画を観ました。

原作はスティーヴン・キング。
同じくキング原作でスタンリー・キューブリックがメガホンをとった、あの『シャイニング』の続編ですね。

映画『ドクター・スリープ』US版メイン予告【HD】2019年11月29日(金)公開

感想としては、いかにもキングらしい作品だと思えます。

特殊能力、そして、忍び寄る闇の勢力との戦い……私としては、非常に楽しめる作品でした。

ただ、映画として考えた時には、前作『シャイニング』とのかねあいも問題になってくるでしょう。その点で辛口の評価を受けてもいるようです。

たしかに、あの映画の続編として観ると、期待を裏切られることになるかもしれません。
しかしここは、難しいところです。
キューブリック監督による『シャイニング』は名作映画とされていると思いますが、実は、原作者であるスティーヴン・キングはあまり気に入っていないようで……根本に、そういうねじれがあるわけなんです。

『シャイニング』は、ミステリアスな雰囲気が漂い、そこに描かれるさまざまな事象について十分な説明がなされないままに終わっているところがあります。それが、あの映画ではよかったわけでしょう。
しかし、『ドクター・スリープ』はそうではありません。
いろいろなことが、きちんと筋道だって説明されていて、例のホテルも、その筋道だったストーリーのなかに組み込まれています。そこが、『シャイニング』に魅せられた人たちには不満なのかもしれません。

この二つの映画は、基本となっている文法がそもそも違うのです。
『ドクター・スリープ』は、同じキング原作映画でいうと、『ドリームキャッチャー』なんかの方向に寄っているように私には思われます。すなわち、『シャイニング』とはまったく異質の作品であり、それが形式上続編となっているというところに齟齬が生じるわけでしょう。『ドリームキャッチャー』の、あの中盤における大胆なストーリー展開……『シャイニング』の続きを観ていてそれと同じことが起きたとしたら、ぶち壊しだと思う人が出てくるのも無理からぬ話ではあります(実際にはそこまでのギャップでもないと思いますが)。


具体的にいえば、例のホテルです。
映画の終盤、主人公たちは闇の勢力と戦うためにあのホテルを利用します。
『シャイニング』に登場したあれこれがここで出てくるわけなんですが……雪に鎖されたホテルのたたずまいに見入りつつも、そこにある種の安っぽさを感じることは否めません。これは、その習性を人間に利用されているという時点で恐怖のグレードが一段下がってしまうためでしょう。物語の辻褄のなかにおさまっているがゆえに、そこにあるのは、理解不能なおそろしさではなく理解可能なおそろしさ――つまり、クマや毒蛇が怖いといった危険物に対する恐怖なのです。この作品の描き方だと、あのホテルはそういう存在に“なり下がった”感がある。ここが、『シャイニング』ファンにとって問題だったのだと思います。

しかしこれは、映画『シャイニング』の続きとして観るからそうなのであって、観る側がそういうふうに観なければいいという話でしょう。

この作品に描かれているのは、邪悪な力との戦いです。

主人公ダニーは、当初その戦いに消極的でした。
あえてそんな危険な戦いに身を投じることはない。やつらに見つからないようにして細々と生きていけばいい……
しかし、そんなダニーの制止にしたがわず、同じように“シャイニング”をもつ少女は果敢に戦います。
戦うべきときがある。邪悪な力が世界を覆わんとしているときには――ここには、そういうメッセージがあるのです。

作中で語られるところによれば、“シャイニング”は子どもの頃のほうが強く、大人になるにしたがって弱まっていくといいます。
子どもの心がもつ純粋さや勇気、犠牲になる人々を見殺しにはできないという気持ち――そういった輝きが、大人になるにしたがってくすんでいってしまうということでしょうか。そうして訳知り顔で諦めのなかに生きるようになったとき、輝きはすっかり失われてしまうのかもしれません。

映画のラストシーンでダニーが発する「輝き続けろ」という言葉を、かみしめたいと思います。