『宇宙戦艦ヤマト』が、50周年を迎えました。
この伝説的アニメの放送が開始されたのは、1974年の10月6日。それから、今日でちょうど50年となるのです。
松本零士先生については、これまでに本ブログで何度か記事を書いてきました。
しかしながら、意外と宇宙戦艦ヤマトについてはあまり言及してこなかったと思います。
そこで今回は、50周年を機に、ヤマトについてちょっと書いておこうと思いました。
ヤマトについて書くとなったら、私としてはどうしても触れなければならないテーマがあります。
それは、劇場版第二作『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』……
『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』4Kリマスター / 2024年1月5日公開 予告[4K UHD]
この作品のラストについてです。
まあ、かなり有名なエンディングなので、これはネタバレにはならないんじゃないかということで書きますが……この作品において、ヤマトは最後に“特攻”します。敵があまりに強力すぎてもはや通常の戦闘では太刀打ちできないとみて、自爆攻撃を敢行するのです。
私は、この作品に関して、長く一つの矛盾を感じていました。
松本零士先生は、自身の生い立ちから、特攻を賛美してはならないとしている。にもかかわらず、最後にヤマトを特攻させたじゃないか……と。
しかし、だいぶ後になってから、そう単純な話ではないということを知りました。
これは、ヤマトという作品のみならず、松本零士という漫画家が生涯描いたテーマにもかかわる重要なテーマです。なので、この点についてはちょっと詳しく書いておきたい。
まず、前提としておさえておかなければならないのは、「松本零士は『宇宙戦艦ヤマト』の原作者ではない」ということです。
公的に認められている原作者は、西崎義展という人です。
この西崎さんという人が発端となる企画を出し、そこからさまざまな人が関与して、ヤマトという作品が練り上げられていきました。松本零士先生もいわばそのプロジェクトチームの一人。主要なキャラクターデザインなど大きな役割をはたしていはいるものの“原作者”ではない、ということなのです。ヤマトの原作者が誰なのかという問題は後に裁判沙汰になっていて、法廷でそういう結論になりました。「公的に」といったのは、そういうことです。松本先生の手によって『宇宙戦艦ヤマト』の漫画が描かれているわけですが、あれはアニメ放送の後に連載がはじまったもので、今風にいえばアニメのコミカライズなのです。
裁判沙汰にまで発展したというのは、松本零士と西崎義展というこの二者が対立状態になっていたということなわけですが……その対立は、少なくとも『さらば宇宙戦艦ヤマト』にまでさかのぼることができます。
ファンの間ではよく知られているとおり、『さらば』の制作過程においては、制作陣の内部で激しい対立がありました。
アニメで森雪の声を担当した声優の麻上洋子さんによれば、声優陣の前でやめるやめないの争いになることもあったのだとか。
対立の原因はいろいろあったかもしれませんが……そのなかでも大きな原因の一つといわれるのが、先述したエンディングに関する松本、西崎両者の考えの違いです。西崎氏はヤマト特攻というかたちでのラストを提示し、松本零士先生がそれに反対した、と。
そう、つまり、松本先生は『ヤマト』においても特攻に反対していた……ここに、私が考えていた矛盾はなかったということなのです。
結果として『さらば』では西崎案に従ってヤマトは特攻するわけですが、この話にはまだ続きがあります。この映画の後に、ヤマトの新たなTVシリーズが制作されるのです。
その『宇宙戦艦ヤマト2』は、劇場版の『さらば』と同じ白色彗星帝国との戦いを描いています。そして、このテレビアニメ版のラストでは、ヤマトは特攻という手段を択ばないのです。
逆はあっても、劇場版アニメをもとにしてテレビ版アニメを作るというのはなかなか異例のことでしょう。まして、劇場版でこれが最後の作品と明確に打ち出している状態では……そこにはやはり、特攻というかたちでのエンディングを是としなかった松本零士先生の強い意志が働いていたのではないでしょうか。
このことには、もちろん賛否があります。ヤマトファンの間では、劇場版のエンディングのほうがいいというほうが多数派かもしれません。
また、私個人としては、あの状態でヤマトに自爆攻撃をさせるということと、かつての日本軍がやった特攻を批判することとは必ずしも矛盾しないという考えもあるんですが……
しかしやはり、重要なのは、松本零士先生が特攻というものにあくまでも否定的だったということです。そこは、『宇宙戦艦ヤマト』という作品に接するときに、知っておいたほうがいいんじゃないか。作品が50周年を迎え、松本先生も世を去った今、そんなふうに思われるのです。