今回は、音楽記事です。
このカテゴリーでは、寺山修司ゆかりのアーティストということで最近やっていますが……その一環として今回取り上げるのは、ムーンライダーズ。
このバンドは、前回の音楽記事で紹介した頭脳警察とも深いつながりがあります。
いや、それはあるいは因縁といった方がいいでしょうか……たとえば、ムーンライダーズの前身であるはちみつぱいというバンドは、頭脳警察の記事で触れた三田祭事件に関わっていました。頭脳警察がステージジャックを起こす前にそのステージに立っていたのが、はちみつぱいだったのです。
ただ、この件で被害を受けたのは、あくまでもはっぴいえんど。はちみつぱいのほうは、ステージジャックが起きた時点ですでに演奏を終えていたので、直接の被害はありませんでした。なので、一部で言われているようにこの件ではちみつぱいと頭脳警察の関係が悪化したということはないらしいです。むしろ、はちみつぱい~ムーンライダーズの中心人物である鈴木慶一さんは、後にPANTAさんと細野晴臣さんの和解を仲介したのだとか。
この三田祭事件、頭脳警察とはっぴいえんどがからんでいるという点で邦ロック史における一大事件ですが、そこに一枚かんでくるはちみつぱいもまた、日本のロック史を考えるうえではずすことのできない存在といえるでしょう。
そういうわけなので、最近このブログでとりあげたアーティストの何組かとも関係しています。たとえば、古井戸のバックで演奏していたり、メンバーの武川雅寛さんが、かぐや姫「神田川」でバイオリンを弾いてたりします。
そのはちみつぱいから発展してできたのが、ムーンライダーズ。
頭脳警察とはまた違った意味合いで、アンダーグラウンドの存在です。日本におけるニューウェイヴの先駆けとしてよく知られていますが、ニューウェイヴというのもやはり日本ではあまり広く受容されない要素でしょう。半世紀近く活動しているバンドながらあまり知名度が高いとはいえないのも、そのためかと思われます。バンド名は稲垣足穂の小説からとったといいますが、その名づけからしてすでに、アンダーグラウンドの存在であることを宿命づけられていたといえるかもしれません。
で、そのムーンライダーズがどう寺山修司とつながってくるかということなんですが……
彼らは、寺山修司の『時代はサーカスの象にのって』をロックミュージカルにしているのです。
題して、『時代はサーカスの象にのって
'84』。
つまり1984年に上演されたということで、これは寺山修司の死後の話になります。頭脳警察も「時代はサーカスの象にのって」という歌をやっているわけですが、ムーンライダースのほうは、寺山修司の劇全体に音楽を施したもの。天井桟敷立ち上げ時からのメンバーである萩原朔美さんが演出を手がけたリメイク版で、鈴木慶一さんが音楽監督を手がけています。
その頃、萩原さんが関係していた『ビックリハウス』という雑誌で、鈴木慶一さんが高橋幸宏さんと結成したユニット“ビートニクス”の連載ページがあり、その関係で依頼を受けたそうです。
古井戸も天井桟敷で音楽を担当したことがあるわけですが、そういったことも関係しているかもしれません。
出演者には、天井桟敷の団員のほかに、ピンク・レディーの未唯さんやジャニーズのタレントなどもいて、また、日替わりゲストとして林真理子さんやおすぎさんが登場し、音楽監督である鈴木さん自身も舞台に上がったことがあるとか。
……と、知ったようなことをいっていますが、そいういうものが存在するということを私が知ったのはごく最近のことです。
というのも、この音源はレコードのような形で発表されずにいて、つい3年ほど前にようやくCD化されたばかりなのです。上に書いた情報も、多くはそのCDについていたブックレットによっています。
CD化されたことによって、その音楽を聴くことができるわけですが……聴いてみると、このロックミュージカルでムーンライダーズのやっている音楽は、寺山修司の感覚に実にマッチしています。ここに収録されている曲はすべて寺山修司の台本に曲をつけたものですが、ムーンライダーズの歌といってそのまま通用するものばかりです。ニューウェイヴ・バンドとしてのムーンライダーズが持っている実験性のような部分が、寺山修司の波長と共鳴するからでしょう。それはすなわち、あの60年代、70年代の自由の空気ということなのです。
最後に、せっかくなのでムーンライダーズの公式チャンネルから、動画を一つ。
比較的近年の作、アルバム『Tokyo 7』から I hate you and I love you です。
moonriders [ I HATE YOU AND I LOVE YOU]